第29話
ベヒーモスは白宝シキを見て、この場の誰よりも脅威であるのは彼だと悟った。
黒い石碑を用いて、文字通りダンジョンの構築すら変えていく男。この場にいる誰よりも、白宝シキが最も危険だ。
『GuOoooooooo!!!!』
ならば彼を放置しておく訳にはいかない。ベヒーモスは拳を振り上げ、それを白宝シキに向けて振り下ろそうとする。一撃でダンジョンを崩落させ、人を殺すには十分すぎる威力の攻撃。
「させないよっ!!」
それを蹴り返す少女がいた。
白宝ヒナ。彼女は蹴り返した勢いを利用して、自分のスキルを解放する。
「武装創造! 飛竜墜し!!」
白宝ヒナが作り出したのは大槍。それをベヒーモスの顔面に目掛けてぶん投げる。次の瞬間、鈍い音が聞こえたかと思うと、ベヒーモスの右眼球に深くそれは突き刺さっていた。
"ウオオオオオオオオオ!! ヒナちゃんつええええ!!"
"プラネットライブ最強は伊達じゃねええぞ!!"
"可愛くて強くて豪快!! ヒナちゃん最高!!"
ヒナの戦いぶりにコメント欄が沸く。
緊急事態でライブが中止になったものの、白宝シキの登場と村正カエデの指示、そしてスタッフの判断など、様々な要因が重なり、配信は続行されている。
ぐんぐんと伸びる同接人数。同時接続者は百五十万人を突破していた。
"日本にライトニングベヒーモスと戦える探索者がいたのか!!(英語)
"あの少女はとても豪快だ! ぜひギルドに来て欲しい!(英語)
"いやいや、俺は断然彼だね。彼の活躍は実に素晴らしい(英語)"
海外の視聴者も入ってきて絶好調の盛り上がりを見せる中、一人の男は駆ける。
つがえた三本の弓矢。ジンはそれを地面に向かってそれぞれ別方向に放つ。
『Oooooooo!!!』
ベヒーモスが叫び、角から全方位に向けて雷を放出する。がしかし、その雷は先ほどジンが放った三本の弓矢に吸い込まれていく。
「避雷針っちゅう、人間様の知恵を知らんやろボケ。いくらごっつい図体しとろうとも、ワシらを簡単に倒せるとは思うなよ?」
白宝シキの
「おら! 大技打って隙だらけか? このボケナス!!」
ジンが弓矢を放つと、それはベヒーモスに命中すると同時に爆発を引き起こす。一発、二発、三発と、次々に起きていく爆発。それにはベヒーモスといえどダメージを負う。
「次はこいつらや!」
ジンが毒の弓矢、麻痺の弓矢、出血の弓矢と次々に様々な弓矢を放ち、ベヒーモスにダメージを与えていく。
白宝ヒナや村正カエデみたいな見た目の派手さはない。しかし堅実に、止むことのない怒涛の攻撃はベヒーモスの脅威となりうる。
"グレイトッッ!! ぜひ彼が欲しい!!(英語)"
"彼はいい働きをする! 彼と組んで探索がしてみたい!!(イタリア語)
"彼の器用さは実にいい!! こんな探索者が日本に眠っているなんて思いもしなかった!(ドイツ語)
ジンの活躍は強者であればあるほど、魅力的に映る。実際、ジンの活躍を褒めていたのは探索者のレベルが高い海外勢の方が多い。
「おおきに。仕事の依頼はドゥイッターのDMから頼むわ。だがまあ、ワシはサブ。ここで暴れてもらうんは……」
次の瞬間、流体金属が戦場を支配する。
「穿て、
流体金属が螺旋状の槍となって、次々とベヒーモスを貫いていく。
村正カエデ。彼女が戦っている姿をほとんどの人は知らない。探索者としての活動は完全に個人の領域でやっている彼女は、配信なども一切しないからだ。
刀身のない剣を、ある時は剣のように、またある時は槍のように、はたまたある時は
"白宝シキもやべえけど、カエデ様もやべえ!!"
"あんなスキルなんてあるのか!?"
"あれはユニークスキル! 日本にはあんなのを使う探索者がいるのか!!(英語)"
ユニークスキル。生まれ持ってか、それとも何かしらの要因によるものか、とにかくその個人のみに発言する特殊なスキルツリーをそう呼ぶ。
形状、硬度、粘度、質量、体積量などなど。ありとあらゆる物質の要素を自在に変化させる液体金属を操るのは、世界広しといえど彼女だけ。
白宝シキや鷹野ジンとは別系統の無数の手数を彼女は有している。
「内側から爆ぜよ。
一部ベヒーモスの体内に侵入していた液体金属が内側から爆ぜるように、無数の小さな刃となって、ベヒーモスの身体を突き破る。
『GiOooooAaaaaaa!!!』
あまりの大ダメージにベヒーモスは叫びを上げる。ベヒーモスは拳を震わせて周囲を破壊しようとするも、ジンの弓矢がその影を打ち抜き拘束する。
"美しい……これがカエデ様"
"日本トップクラスの実力マジ半端ねえ"
"映画でもみてるのか?"
「好評で何よりです。ですが……まだ決定打には至っていませんね」
全身から大量の血を流しているが、ベヒーモスは未だ健在。傷口は高速再生で塞がっていく。
ベヒーモスは二本の角に蒼い雷を発生させて、それを口に集める。ライトニングブレス。余波でダンジョンを融解させてしまうほどの攻撃をもう一度放とうとしている。
「流石にそいつは……!」
「強欲がすぎますね!!」
村正カエデとジンが飛び上がると、雷を発生させている角にむけてそれぞれ攻撃を放つ。いくら規格外の一撃といえど、雷の発生源である角を攻撃されては、ライトニングブレスも放つことはできない。
しかし、ベヒーモスにとってこれはブラフ。本命は別にあった。
その本命に会場、視聴者、戦っている三人除いて気がついていたのは二人。
「くる……! せやっ!!」
一人は朝比奈リン。彼女は大剣で音もなく高速発射されたベヒーモスの棘を弾く。しかし、大きさ二メートルもある巨大な棘は、一撃弾いただけで、朝比奈リンの手を痺れさせて、体勢を崩してしまう。
「あ……もう一発くる!?」
ベヒーモスが放っていた棘は一発だけではなかった。
ほぼ同一線上に放たれていた二発目の棘。それに気が付いた朝比奈リンは両手を強く握りしめて呼吸を整えて、弾いた時に体勢を崩された状態のまま、上段から大剣を振り下ろして棘を叩き落とす。
「あっぶな……!? でもこれで!」
守りきったと思った時だ。別の角度、シキの斜め四十五度から高速で飛来してくる棘がある。
ベヒーモスがライトニングブレスを囮に放つことができたのは三発分。それも二発は同一線上に、一発はタイミングを遅らせて、別角度からといういやらしい攻撃。
——それとヒナ。君は僕だけを見ていろいいね?
その言葉の通り、彼女はシキとベヒーモスだけを見ていた。故にその三発目、彼女が追いつく。
「……視えているんだよそんな攻撃!!」
白宝ヒナはそう口にしながらベヒーモスの棘を空中高く蹴り上げていた。
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