第28話
「魔道具を作る……? 今ここで?」
僕の言葉に驚いたのは朝比奈リンさん。彼女が驚くのも無理はない。何故なら、魔道具を即興で作るなんて言う真似、普通は無理だからだ。
「詳しく説明したいけど、流石に時間が足りなさそうだ。時間さえ稼いでくれたら……確実にあれを倒し切る魔道具は用意するって保証しよう」
「いいでしょう。では私は貴方に賭けるとします」
「ま、それしかあらへんな。わしらはあれの足止めか」
「あんだけでっかいのと一度やり合いたかったんだよね〜〜!!」
「わ、私は……」
ベヒーモスに怯えているのか、朝比奈リンさんの声が震えている。実際、彼女の実力はジンたちよりも劣っている。
「朝比奈リンさん、僕を護ってくれませんか? 僕はこの後、本当に隙だらけになります。だから貴女には僕の護衛をお願いしたいです」
「……分かったよ白宝くん」
「ありがとうございます……。それとヒナ。君は僕だけを見ていろいいね?」
「そういうことね了解。じゃあ、だんちょー。お兄ちゃんを頼んだよ」
作戦が決まると同時、ベヒーモスを拘束していた鎖が破壊される。破壊された鎖は液体金属に戻り、村正カエデの下に戻っていく。
「じゃあ頼むよ! みんな!!」
僕の掛け声に合わせて、村正カエデ、ヒナ、ジンの三人が駆け出す。僕はポーチから虹色の転移結晶を取り出す。
「座標指定。封印結界解除。転移開始!」
僕の背後に転移結晶を投げる。転移結晶が砕けると同時、地面に半径二メートルほどの魔法陣が描かれる。
「なに……何がくるの……!?」
その魔法陣が光ったかと思えば、空間に幾つものの亀裂が走る。ガラスを石を投げつけて割ったかのような亀裂。亀裂はどんどん大きくなり、そして、空間そのものが割れて、それは現れた。
「黒い……石碑?」
***
その時、多くの人々はそれを目撃する。
大きさ五メートルほどの黒い石碑のような箱のようなもの。所々に
"シキさんがとんでもないことをしようとしてる件"
"誰かわかる人おりゅ?"
"わかりゃん。なんだあれ?"
"あんな魔道具作れるのか?"
"いやそもそもあれ。
コメント欄がそれの考察を次々と上げていく。会場で見ている人たちの中にもどよめきが広まる。
今まで規格外のことをし続けた少年。きっかけはたった一本の動画。そこから知らず知らず、時にはその場を凌ぐためとはいえ、自分にできる必死のことをやり続けた少年。
彼らはどこか期待していた。かの錬金術師ならやり遂げると。
「あんなん隠しとったんかあいつ!! ったくつくづく退屈させん男やな!」
「久しぶりに見たなあれを出すところ。今回は何を作る気なんだろうお兄ちゃん」
「まさか、彼の規格外と呼ばれるところをこうも早く、直に目にする日が来るとは。面白いですね探索者というものは」
ベヒーモスと応戦しながら最前線で戦う三人は信じていた。あの錬金術師が今から起こす奇跡を。
——そして。
「すごい……」
少女はただその光景に目を奪われていた。一番近い場所で彼にただただ意識の全てを奪われていた。
少年の姿があの日、自分を助けてくれた背中と重なる。いつもの彼からは思いもつかない異質さ。まるで彼が自分と同じ人間なのか、本当にわからなくなるくらいの……。
「起動開始。回路接続」
『認証。総合管理者白宝シキ。回路接続』
「え……?」
朝比奈リンはその時一瞬にして、抱く感情が反転する。
黒い石碑から飛び出した無数の黒い触手のような、ケーブルのようなものが蠢き、シキの全身と繋がる。黒い触手に繋がれたシキはまるで操り人形のように宙に浮き上がっていく。
その瞳に生気はない。
『メインリソース、サブリソース、体内の賢者の石より確保完了。コマンド待機』
「コマンド待機確認。構造解析、回収機構、高速演算並列開始」
『認証。並列動作開始』
異質どころではない。間近で見ていた朝比奈リンはもちろん、それを見ていた人たちは様々な感情を抱く。
"なんかやばくないか?"
"シキさんを信じろ"
"めっちゃ怖いけど、めっちゃ楽しみにしてる自分がいる"
"シキさんの伝説がまた増えてしまうのか"
「何をする気なんだ……?」
「もしかして俺たちじゃわからないくらいすごいことなのか?」
「本当にあれを倒せるんじゃないか?」
期待と困惑が入り混じる中、シキは淡々と虚ろな瞳で何かをしていく。
「構造解析、表層から深層まで完了。対象の生体スキャン及び比較作業開始。完了。対象強度から撃滅可能威力の算出の開始」
『表層から深層までの回収機構設置完了。高速演算継続中。演算結果、対象の完全消滅に最適な素材——ダンジョンそのものと断定』
「…………え? ダンジョンそのものが素材……?」
朝比奈リンは困惑のあまりそんな声を出す。彼が何をしようとしているのか。あの規格外のベヒーモスを倒し切る魔道具を作るために何を素材とするつもりなのか、それが明かされたから。
『ダンジョンコアのハック完了。ダンジョンの分解、及び錬金開始』
鈍く巨大な物音を立てて、ダンジョンの壁や床が次々と消滅していく。
まるで白宝シキの背後にある黒い石碑に吸い上げられているみたいに。
この石碑を神器と呼んだ視聴者がいた。ダンジョンには時として人間の理解を超越した物が存在する。ある物は剣、ある物は盾、ある物は鍵。形を問わず、ダンジョンの秘宝たる存在を、人々は神器と呼ぶ。
この黒い石碑もまたその一つ。他の神器と違うところがあるとするなら……それは白宝シキによって魔改造されたということ。
元は一個の箱であった。ある神話では開ければ災厄が降り注ぎ、全ての災厄が出尽くした後、希望のみが残ると呼ばれる神秘の箱。
かつて、彼はそれを分解して、自分の魔道具に改造した。ただただ夢中で、錬金術を極めようとするばかりに。
故に彼はその名を呼ぶ。錬金術の秘奥と災厄の箱。それを組み合わせた魔道具であり、神器でもあるその名を……。
「【
この日、人々は白宝シキが生み出す新たな伝説を目にする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます