第27話
「みんな〜〜! 次の曲いっくよ〜〜!!」
「ここからは瞬き厳禁! 団長との約束だぞ!」
ヒナと朝比奈リンさん。二人の掛け声で盛り上がる会場、コメント欄。ステージの隅からホログラムで投影されるコメント欄は凄い勢いで流れていく。
「同接五十万人行ったで! すごいなこの勢い!!」
「会場も大盛り上がりだし、これはまだまだ伸びるよね!」
同接五十万人を超えて、なお伸び続ける同接人数。どうやら海外勢も配信を見ているらしく、コメント欄は様々な言語が飛び交っている。
会場が大盛り上がりで、これから更なる盛り上がりを見せようとしたそのときだ。僕は何か遠いところで、巨大な声を聞いた気がした。
「……なにか、くる」
それはあの時と同じ。三人でダンジョンに潜った時、その帰りと同じ感覚。
けど今回違うのは、それがより強く、まるで暴威を持っているかのような声だったということ。
そして次の瞬間、それは現れる。
「な、なんだあれは!?」
会場にいる人の一人がそう叫ぶ。大きな揺れとともにダンジョンの床を突き破って来たのは巨大な頭部。サイのような象のような……、いや二本の巨大なツノが生えている辺り、トリケラトプスが一番近いだろうか。
「ベヒーモス!? というかあいつ、あんなデカかったか!?」
「ありえないよだって……」
ベヒーモスは十メートルから二十メートルくらいの大きさの魔物だ。
けどこれは違う。頭部だけで五メートルはあるだろう。ダンジョンの床を突き破って出てきたということは、こいつの全長は常識では計りきれない。
「っちゅーことはなんや!? 何をしたらあいつはあそこまでデカくなるんや!?」
「多分だけど大量のエネルギー摂取……。それも外部から与えられて、それの適応、防衛本能ゆえに急激な進化をした……? 元々特殊個体なのか?」
ここまで魔物が巨大化するなんて聞いたことがない。
正真正銘のイレギュラー。会場はパニックに包まれる。
『みなさん落ち着いてください! 押さずにダンジョンの出口へ!』
「みんな落ち着いて!! スタッフさんの言うことに従って、出口に向かって!!」
「コメント欄の人たちはすぐに救援要請をお願いします! これは演出ではありません! 本物の魔物です!!」
ヒナや朝比奈リンさん、スタッフの声が聞こえなくなるほど、僕は思考にふける。だめだいくら考えても、あれが発生した原因が絞りきれない……!
そして考えれば考えるほど、ウリエルじゃ火力が足りないという結論に辿り着く。あれを倒すには……。
僕が考えながらベヒーモスを見上げる。頭部に生えた二本のツノ。それが急に光り出した。青い雷がツノの先から発生して、それは口に集まっていく。あれは……。
「ライトニングワイバーンのライトニングブレス!? あんなの撃たせたらまずい……!!」
「おい! どこいくんや!! ああもうしゃーない!!」
僕はステージへと駆けていく。多くの観客が逃げ惑う中、ステージへと駆けていく僕を、ヒナは見ていたのか目が合う。
僕は目があったヒナに対してこう叫ぶ。
「僕を投げ飛ばせ!!!」
「……了解っ!!」
靴型魔道具を起動させて、僕はヒナに向かって跳躍し、ヒナが握りしめた拳に着地する。
「いっくよ! お兄ちゃん!!」
「いつでも!!」
ヒナは掛け声と共に拳を勢いよく振るう。タイミングを合わせて、僕はその拳を蹴ってベヒーモス目掛けて跳躍する。
『GuOooooooooo!!!!』
ベヒーモスは超極大のライトニングブレスを吐き出す。ダンジョンの地面や壁面が余波で融解していくほどの威力。逃げ出す人々よりも遥か前に繰り出した僕は、そのブレスに向けて一つの石をぶん投げる。
「魔道具解放!
半径十メートル強の巨大な魔法障壁がライトニングブレスを阻む。それはライトニングブレスを吸収し尽くした後、ベヒーモス向けて反射するように解き放つ。
八咫鏡。義姉さんが使う反射の魔法障壁を再現した魔道具だ。何度も使えるような代物ではないが、ブレスや魔法系の攻撃なら一発ならほぼ確実に反射できる。
超極大のライトニングブレスがベヒーモスを飲み込む。しかし……ベヒーモスのブレスは炎系だったはずだ。なんで雷なんかに……?
"シキさんきつつつつつつああああああ!!!"
"あの攻撃防いで反射とか流石シキさん!!"
"勝ったな風呂入ってくる"
「あいつってもしかして美少年錬金術師のシキか!?」
「うおっマジやんけ!! こんなところで生見れるとは思ってなかった!!」
「うおおおお!!! 噂通り、男の娘フェイス! いいぞこれ!!」
僕のことを美少年錬金術師と言わないでくれ……戦いの最中だというのに顔が真っ赤になりそうだ。
「
「いいや。あれで倒せるほど簡単な相手じゃないよあれ。さて、どう倒そうかなあれ」
爆煙の中から赤い眼光が光る。流石に自分の攻撃を反射されたくらいじゃ死なないか。でも……手持ちのヤタノカガミ用賢者の石及び魔法石はそこまで数がない。連発されたら後がなくなる。
「さて、どないする? 正味こんだけの人を護りながら戦うのはリスキーやで」
「切り札を使う。けど、そのためには人が……」
『GiOoooooAaaaaaa!!!』
ジンと作戦会議をしているとだ。ベヒーモスが叫び、胴体から腕から無数の棘を生やしてそれを発射してくる……ってそんな攻撃できるの!?
「実体系の攻撃なら焼き切ったほうが早いか……!!」
僕が短剣型魔道具を懐から取り出そうとした時だ。
彼女は僕たちの前に舞うように現れた。ビジネススーツの姿のまま、腰にぶら下げた剣を抜く。その剣、驚くことに刀身が全く存在していない。
「切り裂け、
僕はその剣が描く軌道。それを操る彼女に見惚れていた。
どこからか現れた銀色の液体。それが刀身となり、彼女が一振りすればまるで意思を持っているかのように飛ばされた無数の棘を伸縮、膨張を繰り返して切り裂いて、地面に叩き落とす。
続けて彼女は空中を舞いながら、剣を振るう。
「縛れ、
またも刀身が姿を変える。次は無数の鎖へ。無数の鎖は百メートル以上先にいるベヒーモスの顔や腕に巻きつき、完全とは言わないが拘束する。
なんて頑丈な鎖……いや、あれは何でできているんだ!? 僕の知識にはない……つまりあれはユニークスキルの類なのか?
「協力しましょう。お二方。何か手があるのでしょう? 白宝シキ」
僕の驚きや思考など知らず、華麗な着地をする村正カエデ。
僕らの前に着地した彼女は、目を細めながら僕へそう告げる。
凛とした佇まい。状況に対してぶれない声と口調。戦いの最中だというのに僕の心はどこか、彼女に惹かれつつあった。
「……私の力が魔物を縛り付けていますが長くは保ちません。なるべくなら手早めに」
「助かります。ですが協力者が二人きます。……話は彼女たちも交えて」
僕がそう言った直後。僕の後ろにヒナと朝比奈リンさんが駆け寄ってくる。ライブ用のアイドル衣装ではなく、探索者用の装備に着替えてきたみたいだ。
「お兄ちゃん、あれってもしかしなくてもイレギュラーだよね?」
「お兄ちゃん……白宝君とヒナちゃんの関係が気になるけど……、力になるよ白宝君。私にもできることはあるかな?」
「何か策あるんやろ? じゃあ
村正カエデ、朝比奈リンさん、ヒナ、ジンの四人の視線が僕に向く。
ベヒーモスを倒す方法。この場の全てを守り切って、あいつを倒す手段が一つだけある。正真正銘、僕の本当の切り札が。
「……五分間時間を稼いでほしい。あれを倒し切る魔道具を作るから」
錬金術師、白宝シキの本当の戦い方を見せてやろう。
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