第19話

「それで? お姉ちゃんの人間離れした姿はよく分かったけど、どんなスキルを手に入れたの?」


 ヒナが若干引き気味にそう聞く。義姉さんはふっふっふと少し笑った後、ドヤ顔でこう答える。


「雷神化というユニークスキルだが……、流石にダンジョンゲートまで戻らないとスキルの獲得はできないみたいだな。流石にここでは獲得のための条件を満たしただけみたいだ」


「義姉さんがどんどん人間卒業試験をクリアしていく……」


「まあダンジョンの外だとスキルは性能落ちるし……」


 義姉さんがいくらダンジョン内で人間を辞めかけていても、ダンジョンの外に出てしまうと大半のスキルは大きな制限がかかったり、使えなくなったりする。


 でも義姉さん、もうスタンガンとかじゃ気絶させられないくらい身体、頑丈になってそうなんだよね。


 地面にクレーターができて焼け焦げるような雷系の攻撃喰らって平然としているし。ダンジョン外でも生半可な電気じゃ、義姉さん平然としてそう……って思ってしまう。


「さて、これで私たちの目的は達成したな。後はアークデーモンなのだが……」


「もう少し下に潜らないと見つからないかな? 深層まで行ってみる?」


「お兄ちゃんとお姉ちゃん、それにヒナがいれば深層もヘーキだよ! 行ってみよ!」


 まあ確かにこの三人であれば深層に潜っても大丈夫だ。


 僕らは深層に向けて進み始める。下層と深層をつなぐ大きな坂道を下ると、全身がビクリと震えるような場所になっていく。


 ダンジョンは各地によって構造や様子が変わったりする。一般的なのが僕らが今潜っているような地下迷宮型のダンジョン。


 地下迷宮型は降れば降るほど光源が少なくなり、視野が狭まっていくのだが……深層になってくるとガラリと様子が変わる場合もある。


 今僕らが潜っているダンジョンがそれだ。下層までは地下を探索している感があったが、深層になるとそこはまるで何かの豪華な建物の中みたいな見た目に変貌する。


 赤い絨毯に、壁際には青や黄色、紫、赤といった色とりどりの火を灯す松明。


 そこはまるでファンタジー世界の城の中を連想させるような造りだった。


 少し進むと、ズシン、ズシンと重たい足音が響く。


『aaaaaaaaaaaa!!!!!』


 人間のような、けどどこか違う声。


 全長五メートル前後の巨人。背中にコウモリのような翼と、額に生えている二本の角。赤と黒の皮膚。


 アークデーモン。あるダンジョンでは中層のボスとして出現するような魔物。深層ではこれが弱い方の魔物というのだから驚きだ。


「さて……今日は装備足りているか?」


「ヒナが手伝ってあげてもいいよお兄ちゃん」


「バカ言うなよ。なら僕一人で事足りる」


 僕は前に出る。


 キマイラと戦った時、あの時は深層の魔物と戦うつもりがなかったから大した装備を持ってきていなかった。


 しかし今は違う。今の僕は深層の魔物を圧倒できるだけの装備を持ってきている。


 刀身が虹色の石で作られた短剣を取り出す。剣先をアークデーモンに向けて、僕はただ一言こう告げる。


「四大の元素よ、爆ぜろ」


 短剣が、赤、青、黄、緑と輝いた次の瞬間だ。アークデーモンは内部から声を出すことなく破裂した。残されたのは僕の目的だった心臓だけ。


「何をやったのあれ……?」


「あの短剣に仕掛けがありそうだな」


 ヒナは驚き、義姉さんは興味を惹かれたかのようにそう口にした。僕はアークデーモンの心臓を転移結晶で転移させつつ、こう応える。


「これはウリエルを目指して作った魔道具なんだけど……流石に使い捨てになっちゃうね」


 短剣の刀身がひび割れて砕けてしまう。


 ウリエルは特殊な素材を使っているから、あれはたくさん作れるわけじゃないし……真の性能は体力の消耗が激しいし……。


 それを改善しようとして作った魔道具がこれ。これは四大元素と魔力を自在に操り、ウリエルの真の性能と同等の威力を誇る魔法を扱うことができる。


「ちなみに一つ聞きたいけど、それ何でできていたの?」


「何って……賢者の石だけど」


「け、賢者の石ぃ!? それを使い捨てにしたの!? お兄ちゃん!?」


 ヒナはそう驚く。……ウリエルクラスの魔道具を作ろうとするなら、最低でも賢者の石が必要なんだけど……。


「まあ純度百パーセントじゃないから、これくらいならいつでも使えるし」


「ヒナたちもトンデモやってる自覚あったけど、ぶっちぎりでぶっ飛んでるのって何気にお兄ちゃんだよね」


「まあシキは……最近見ていたら、私もそうじゃないかと思ってきたところだ」


「……なんだか納得いかない。色々と」


 そろそろ自分が普通じゃないって思うべきなのかなあ? でも、知り合いの錬金術師はみんな、これくらいは出来るでしょとか言い出しそうだし……。


「とにかくこれで帰れるね。じゃあ帰ろう!」


「ひっさしぶりの探索楽しかった〜〜! 事務所の方針で下層は滅多に入ることなかったからいい運動になったよ!」


「二人の成長が見て取れていい探索だった。次会う時にはもっと期待しているぞ」


 そんなことを言いながら僕らは表層へと戻って行こうとする。



***



「そういえばさ、お兄ちゃんって挨拶とか決めてる?」


「挨拶……? 動画の?」


 表層へ戻る道中。ヒナはそんなことを僕に聞いてきた。


「お兄ちゃんにしては察しがいいね。そう! 動画とか配信の挨拶! 私はこんひな〜〜って言うけどお兄ちゃんは何か考えているのかなって」


「そういや何も考えてなかった……というか、その辺さっぱりなんだよね僕」


 ダンジョン配信をやり始めてから空き時間に他の配信者の配信や切り抜き動画を見るようにしてわかったことがある。


 配信者は結構、自分の世界観みたいなものを作り込んでいる。挨拶とか視聴者への呼び名とか、そういうの。


「私もそれについてはおいおい考えるべきだと思っていた。配信やる時に使うフレーズが決まっていると話しやすいしな」


「そそ。視聴者的には呼び名とかあったほうが、この配信に来ている! っていう特別感があるから、つけるのはおすすめなんだよね。ちなみに私はヒナフレとかって呼んでるよ!」


「へー、そういうのやっぱり作るんだ。でもなあ……そういうの考えるの苦手なんだよ僕」


「じゃあ! 一緒に考えようよ!」


 ヒナの誘いで僕は挨拶と視聴者への呼び名を考える。うーん……どんなふうに呼んであげるといいんだろうか?


 というかどんなテーマでこれからチャンネルを作っていこうかな……?

 

————

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