第20話

「はいはーい! ではまずヒナから!

 ギャップ狙いで『待たせたな、画面の前の素材どもぉ!!』はどう?」


「やめてくれ……恥ずかしさで憤死する」


「えぇ〜〜! キマイラと戦ってる時のお兄ちゃんかっこよかったからいいと思うんだけどなあ……」


 や、やめてくれマジで……。僕の悪癖について触れないでくれ……恥ずかしさで本当に死にかけてしまう。


 ヒナの案は取り敢えず却下だ。それに僕がそんなこと言っても、絶対に合わないから無理だって! もっと無難なやつで行こうよ!!


「やはり愚妹だな。シキの良さを何も理解していない。シキの良さを引き出すならやはり……『錬金窯をぐーるぐる! 美少女錬金術師のシキです!』だろ!!」


「ひとつ言わせてほしい。僕、男だよ!? 美少女じゃないからね!? あなたたちのほうがよっぽど美少女だからね!?」


「ふっ……嬉しいこと言ってくれるじゃないかシキ。あまり私たち以外に言うなよ。女はすぐに勘違いするからな」


「なんのこと……?」


 と、も、か、く!! 美少女じゃない僕は! 美少年であったとしても、自分で美少年錬金術師! とかいうメンタル強すぎない!?


 無理無理却下! 絶対にその案は通しません!


「じゃあお兄ちゃんは何だったらいいの?」


「そうだそうだ。シキはどんなのが好みなんだ?」


「え……それを言われるとすごい困るな……」


 まあ確かに案を却下してばかりだからね。僕も案の一つや二つちゃんと出さなくちゃならない。


 でもなあ〜〜う〜〜ん、どういうのが僕に合ってて、僕がしっくりくるんだろう?


「シンプルにおはシキ〜〜、とかこんシキ〜〜とか、こんばんシキ〜〜じゃだめ……?」


「ダメだな。無難すぎてパッとしない」


「そうそう。その挨拶はありふれているから、今更感強いんだよね。やっぱりギャップ狙って行こうよギャップ!」


「違うな。シキの美少女感を出すんだ美少女感! イキる男の娘は絶対に需要がある!」


 わーわーギャーギャーと言い合いをする義姉さんとヒナ。僕の案が却下されたことに凹みつつも、何とか案を出して僕の尊厳を守り切らないといけない。


 このままではノリにのった二人に僕がおもちゃにされて終わりになる未来が見える!


「解説系の動画主体だから授業感出すのは? 例えばこれから講義を開始する〜〜的なノリとか」


「実験開始……は確か海外の配信者がやってたんだよね。流石に国が違うとはいえ、トップランクの探索者だから被るのはダメだよね……」


「でもその路線はアリだと思うぞ。一度それで詰めてみよう」


 講義路線。一旦僕らはその路線で考えてみることにする。


 実験開始! とか実験を始めようみたいなフレーズは錬金術師としてはカッコよくて憧れる。


 でもそれが本当に映えるのはホムンクルスとかを作れる生物系のスキルツリーを伸ばしている錬金術師っぽいんだよね……。


 となると動画の路線に合わせて講義を始めるとかになりそう。


「やはりお兄ちゃんのギャップ要素は入れたいよね。ヒナの中で絶対に売れるって確信がある」


「美少女要素を入れたい……! シキの可愛さをもっと多くの人に知って欲しいんだ……!」


「やっぱりその流れになるのね……」


 メラメラと燃えるオーラを発している二人を見つつ、僕らは色々と案を出し合う。


 ——その結果……。


「よし、シキいいぞ。やれ」

「お兄ちゃんかっこよくだよ! かっこよく! なるべく戦いの時みたいにイキる感じで!」


 何故か知らないけどDカメが二つも起動している。義姉さんも持ってきていたんだ……Dカメ。


 でもDカメを前に、緊張して挨拶できないというのは配信者としてどうなんだ? ってなる。これも僕の夢のため……! 僕の固定客のためにやらなくちゃならない!!


 覚悟を決めるんだ! 


「全員傾聴! 講義を担当する美少年錬金術師のシキだ! なおれ!!」


「きゃーーー!! お兄ちゃんかっこいい〜〜!!」


「よし! いいぞ!! 絶妙なバランスで噛み合っている! この路線ならいけるぞ!!」


「本当にこれでいいの……?」


 結局、ヒナと義姉さん、そして僕の意見を統合したらこんな挨拶ができあがった。自分で美少年っていうのはマジで恥ずかしい。でも美少女よりかはマシだからギリギリ飲んだ。


 ちなみにヒナと義姉さんは自分の意見が叶ったみたいで、僕を置き去りにしてキャッキャッとはしゃいでいる。


「チャンネル名もシキの錬金術チャンネルから、シキの錬金術教室に変えて……それと視聴者からお兄ちゃんの呼び名は教授プロフェッサー、お兄ちゃんは視聴者のことを生徒って呼ぼう!!」


教授プロフェッサーなのか僕……。もっとその名前が似合う人はたくさんいると思うけどなあ」


「いいじゃないか教授プロフェッサー。私はかっこいいと思うし、シキっぽさがあっていいと思うぞ」


 教授って呼ばれるのはすごくむず痒い気持ちだ。ドクターとかならなんとなくスッキリするけど、知り合いの錬金術師にドクトルって呼ばれている人がいるから、流石にその呼び名は使えなかった。


 これでちょっとかもしれないけどチャンネルに色がついた気がする。ここから僕のお客さんになってくれる人が一人でも作れたら……と思う。


「あ、そういやジンと話してたんだけど、今度グッズを出してみない? チャンネルとして」


「ほう? 中々面白そうなことを考えてきたな。いいだろう話してみろ」


「個人勢のグッズの話とか気になるからヒナにも聞かせて〜〜!」


「うん、ヒナの意見も聞きたかったから聞いてよ」


 と僕はジンと屋上で話した内容を二人に話す。一通り聞いて、最初に口を開いたのはヒナだ。


「いいと思うよ。むしろこれ以上ないタイミングなんじゃない? チャンネルの方向性を決めて、お兄ちゃんらしさもあるし。後個人的には味変パウダー入れたポーションが気になるし」


「あとはシキの負担次第だな。かなりの量錬金しないといけないだろう? やれるか?」


「半日でできるよそれくらいなら。僕の負担は大丈夫。ただ個人的には宣伝とかそういうの必要なのかな……って思うけどどうなんだろう?」


 動画自体が宣伝になるかもしれないが、自分の夢のためにグッズを売り出す以上、多くの人に認知してほしいと思っている。


 お客さんを増やしたいなら、ちゃんと宣伝をするべき……ってジンが言っていた。


「チャンネルSNSとか作ってないんでしょ? 作ってみたら? 運用ならヒナとお姉ちゃんでやるし」


「まあそうだな。SNSの扱いはそれなりに心得がある。チャンネル用に運用することくらいわけないさ」


「二人ともいいのかい? 忙しいはずなのに僕のチャンネルのことまで……」


 SNSくらいなら個人でやっているから、チャンネル用にやるくらいなら僕にだってできるはずだ。


 ただでさえ忙しいであろう二人にそこまで任せてしまうのは……。


「お兄ちゃんのためならやれるよ私! だってお兄ちゃんのこと大好きだもん! もうそれは……いだだだだだ!!」


「調子に乗るな愚妹。まあだが今更だぞシキ。私はシキの凄さを知っているから配信に誘ったし、お前のためなら私たちはなんだってしてやれるぞ」


「そういうこと! 後でお姉ちゃんには話があるんだけど」


「ふん、隙を見せたお前が悪い。だがまあ、身の程を理解せず挑むなら相手してやってもいいぞ」


「吐いた唾は飲み込めないってこと教えてあげる……!!」


「だあーー!!! 二人とも嬉しいけど、すぐに喧嘩始めるのはダメだよ!!」


 頼りになるのはすごく嬉しい。けど、すぐに喧嘩する癖、やめてほしい……!!


 まあそんなことあったけど平和にダンジョンを後に……。


「……ん?」


「どーしたのお兄ちゃん? 急に止まって」


「どうかしたのか?」


「……いや、何か声が聞こえたような」


 ふと、遠くで何かの声を聞いた気がしたけど気のせいだろうか?


「ヒナは聞こえてないよ。気のせいじゃない?」


「私もだな。深層に行って、気が抜けきっていないだけじゃないか?」


「そうかもね。うん、気にしすぎかな」


 多分、久しぶりに深層に行ったからその緊張が抜けきっていないのだろう。


 僕らはそのままダンジョンを後にする。さて、これから動画や配信頑張らないとね……!


————

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