第7話

 やばいやばい!!


 普通に魔物が多いよこれ!!


 僕は短剣型の魔道具を振って、次々と魔物を消し炭にしながらそう口にする。僕が今いるのは下層でも中層に近い方。


大氾濫スタンピードがここまで続いているなんて……!!」


 中層に向かうためには幾つかルートがある。その内の一つ、一番大きなルートが魔物たちによって封鎖されている。


 今から別のルートに向かおうとすると、迂回した上に、中層の探索者たちが戦っているところまで向かわないといけないため、かなり大回りになってしまう。


 一番近いのは魔物を倒しながら目の前の一番大きなルートを突っ切る方法。ただ、今日持ってきている魔道具だとそれをするのは難しい。


「時間がかかるけど仕方ない……! ここは迂回しよう!」


 僕はお手製の爆弾型魔道具を魔物たちに向かってぶん投げる。


 それは魔物たちの頭上で爆発し、ダンジョンの一部を崩落させる。大量の瓦礫が魔物たちを押しつぶし、進行ルートを塞ぐ。


「これで少しは時間稼ぎできる! 今のうちに中層へ……!」


 僕はルートを迂回して中層へと向かう。


 中層に上がるとところどころで探索者たちが戦っている声が聞こえてくる。中には悲鳴に近いような声も……。


「く……くそっ! なんだよこいつ! こんなの中層じゃ見たことがないぞ!!」


「早く緊急脱出したほうがいいって!!」


「バカ言え! それだとここで集めた素材はどうするってんだ!! お、俺は戦うぞ!!」


 走っていると下層の魔物——ジャイアントオークに怯えながらも戦おうとする探索者たちがいた。見たことない魔物に対して怯えている様子だ。


 ちょうど進行方向なのがよかった。僕は靴型魔道具の力を使い、さらに自身を加速させる。


『ゴ……?』


「邪魔」


『グギャ!?』


 加速した勢いのまま、ジャイアントオークの頭部に膝蹴りをぶつけて頭を潰す。フラフラと倒れようとしたところを短剣型魔道具で消し炭にした。


「大丈夫ですか!? 今中層は大氾濫スタンピードのせいで下層の魔物もでます!! すぐに退避してください!!」


「……え? ああ、一体何が起きたんだ……?」


「こいつは今倒しました! 僕は先を急ぎますのでこれで! 素材とかはぜんぶあげます!!」


 僕はそう言って、ジンたちの元へと走り出す。


 あちこちで戦いの音が聞こえている……! 列から溢れた魔物がこんなにもいるのか……!?


 全員を助けることはできない。けど進行方向にいる探索者なら助けることができる。僕は加速の勢いを止めないまま短剣型魔道具を振るい、魔物たちを消し炭にしていく。


「見えた……! ジンが言ってた場所!!」


 中層と下層を繋ぐ大広間。そこで多くの探索者たちが戦っている。僕がそこに辿り着いた時だ。


「キャアアアアアアア!!!」

「くそっ!! やばいぞ!! スカルドラゴンだ!!」

「誰か手が空いている奴はいないか!? リンちゃんがスカルドラゴンに……!!」


 悲鳴!? というかリンちゃん…….って!! 冷静になれ、状況を一瞬で纏めて、一秒以内に行動に移せ。


 スカルドラゴンがいる場所は、探索者たちが戦っている中でも最前列。ここからだと二百メートルくらいはあるか? 


 なんとか見えたけど朝比奈リン……彼女の武器であろう大剣が遠くに弾き飛ばされている。スカルドラゴンにやれたのか!


 加速、跳躍、魔道具の発動。スカルドラゴンが朝比奈リンを攻撃するよりも早く、僕の攻撃が間に合う……!!


「最大加速!!」


 思考が終わると同時、僕は靴型魔道具の加速能力を最大にしていた。踏み抜いたダンジョンの地面が砕けて、僕の身体はスカルドラゴン目掛けて跳躍する。


 空中で短剣型魔道具を構え……僕はそれを思いっきり振るう。瞬間、炎の波がスカルドラゴンとその後ろにいる魔物たちを飲み込んで消し炭にする。


「大丈夫ですか? お怪我とかは……!」


 朝比奈リンの前に着地した僕は、振り向きながら彼女の姿を見る。


 元々動きやすさも重視した軽装寄りの防具だったのだろう。地面にへたり込んだ彼女はところどころが傷ついていて、涙目になりながら僕を見上げていた。


 僕は自分が羽織っていたローブを彼女に着せる。防具が一部壊れていて、際どいところがあったからだ。


「これを着て下がっていてください。回復と隠密の効果がある魔道具です。防具の修復はできませんが、傷はすぐに治るはずです」


「あ……あの、いや、えっと……」


 何か言いたげな朝比奈リンをよそに、なんて声をかけようか悩む。多分、彼女は不安なのだろう。少しでも元気づかせられるように声をかけてあげなくては。


「安心してください。僕が君を……君たちを必ず助けますから」


 これで少しは安心するだろうか。いいや、ちゃんと行動で示さなくては彼女も安心できないだろう。


 僕は魔物たちへと視線を向ける。魔道具で焼き払ったはずなのに、まだかなりの数がいる。まだまだ油断はできないだろう。


「さあて……ここからどうするかな」


「はん、業務提携パートナーだけじゃ攻撃の手足りへんやろ。ワシのこと忘れんなや」


 そう言いながら僕の隣に立つジン。


「助かるよ。大勢の雑魚は問題ないけど、厄介なのが奥にいるやつだから……」


「あれはやばいのぅ。深層クラスだろあれ。お義姉さん連れてきた方がええんちゃうか?」


 魔物たちの奥。ライオンをベースに尻尾は蛇、猛禽類の翼と爪を備えた、全長十メートル近い魔物がいる。


「キマイラ。骨だけの雑魚とは違って、ちゃんと肉体ある……。あんなの僕戦ったことないよ」


「お? じゃあ逃げるか? ワシはそれでも構わへんで」


「……馬鹿を言うなよジン。啖呵きって、逃げる選択肢はないでしょ」


 僕は魔道具を構える。深層の魔物とは何度か遭遇して戦った経験はあるが、キマイラみたいな大型とは初めてだ。


 グッと短剣型の魔道具を握る手に力が入る。


「さて、いつも通り、


「おう。後ろからバシバシ射抜いていくで」


 ジンはそう言って大弓を構えて、僕らはほぼ同時に走り出す。


————


最後まで読んでいただきありがとうございます!

よろしければ現在、更新している悪役転生が1章終わり、2章が始まりましたのでこちらも是非よろしくお願いします!!


これからも同時更新頑張っていきます!!

今後ともよろしくお願いします!!


悪役貴族に転生したので理想の悪役を目指した結果〜ヒロイン達が次々と闇堕ちして俺を崇拝してくるのだが!?〜

https://kakuyomu.jp/works/16817330654562821681

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