第6話

 それから翌日。動画や配信を始めてから、初の週末がやってきた。


 僕はダンジョンゲートから商会系ギルドが開いている大きなフリーマーケットに向かう。

 ダンジョンゲートというどこにでも転移できる移動手段によって、今まで無人島だったような場所も大きな開拓が進んだ。


 このフリーマーケットも南国の無人島を開拓して作られた場所だ。ここには様々な商会系のギルド、生産職の人々が集まり、ダンジョン探索に必要なものを売買している。


 スポンサーがついているような鍛治師とかはここに自分のお店を持っていることもある。僕もいつかはここにお店を開きたい……なんて。


「これらを匿名コーナーで売ってください。値段は一律一万円でお願いします」


「分かりました。ではこちらでお手続きをしておきます」


「ん、ありがと」


 僕は受付の人に動画撮影の時に作った魔法石とポーションを渡してその場を去る。ダンジョンゲートからダンジョンに向かおうとした時だ。


 ゲートから少し離れた広場に人だかりができている。結構な人だかりだから、あの中に突撃することはできない。


 人だかりの最後部で見ていると、何か声だけは聞こえてくる。


「みんな〜〜!! 今日は公開ライブに来てくれてありがと〜〜!! この後はダンジョン配信をしますので、チャンネル登録やドゥイッターのフォローよろしくね!!」


 高い少女の声。活発的なアイドルをイメージさせる声……ってこの声どっかで聞いたことあるような? というか学校で聞いたことあるような声だ。


 僕はジンに電話をかける。僕がコミュ障の僕が思い出せないとしても、コミュ強なジンなら思い出すことはできるだろう。


『おう、どうした急に。電話なんてかけてきよって』

「ジンに聞きたいんだけどさ。今、フリーマーケットで僕らの知り合い? 学校の生徒? が公開ライブ的なものやってない?」


『あーーちょい待ち。あの子やろあの子! リンちゃんやろそれ!!』


 リンと言われてようやく思い出す。


 朝比奈あさひなリン。僕やジンと同じくダンジョン配信をしている探索者だ。


 僕とジンとは離れたクラスだけど、その噂はよく耳にする。だって、チャンネル登録者数九十九万人とかで、もうすぐ百万人が控えているって聞いたことがあるし。


 噂だけどアイドル系の配信者事務所に所属しているとかなんとか。動画配信を初めて、百万人近いという凄さが改めてよくわかる。


「では皆さん! 今日は来てくださりありがとうございました!! また後からのダンジョン配信も見てください!!」


 そう口にして、人だかりがはけていく。というかこれはゲートが混む流れのやつだ!! 


 探索者としての姿の同級生を見てみたい気持ちもあったけど僕は慌ててゲートに向かう。


『そういやお前さん、今から中層やろ? 確かリンちゃんも中層クラスの探索者やから、運が良ければバッタリ会うかもなあ?』


「いやいやないでしょ。そんなすごい偶然……」


『ま、それもそうやな。なんかあったらまた電話かけてや。んじゃ』


「うんありがとうジン! 助かったよ!」


 僕はジンとの電話を切ってゲートへ駆け込む。ギリギリ混み出す前にゲートに辿り着いた僕は、端末を操作して今日行こうと決めていたダンジョンへと向かうのであった。



***



「あーやっぱダンジョンって落ち着く」


 コミュ障の僕にとってダンジョン内は静かでとてもいい。今、僕がいるのは配信の時に使ったダンジョンだ。


 いつもは下層まで降りていくのだが、今回は動画のために素材集めが目的。表層からコツコツと地道に素材を集めていく。


 事前にメモした素材だけで三十個。うへえ、集めるのも大変だけど、動画の尺がとんでもないことになりそうだから分割にするか、後から義姉さんと相談しないと……。


「取り敢えず片っ端から探していくか……」


 僕はそう口にして探索を始める。採取系の素材が殆どだけど、一部魔物を倒さないと手に入らない素材もある。戦いになるから気合を入れて頑張らないと……!


 って思いながら進めると案外時間が経つのは早くて、すぐにメモした素材は集まった。


 そして今は下層で狩りをしている。個人的に幾つか欲しい素材があったからだ。


「ベノムスパイダーの糸、サラマンダーの鱗、ボーンキメラの骨……大体欲しいものは揃えたかな。というか動画のネタの方が時間かかったなこれ」


 数も数のせいか。表層から中層の隅々まで駆け回るのと、下層で目的の魔物を倒すの、後者の方が圧倒的に早かった。


 まあそれもそうで、魔道具振ってたら魔物が消し炭になるし。


 一通り集め終わった頃、ポケットの中でスマホが震える。ジンからの電話だ。


『まだダンジョンにおるか? 業務提携パートナー


「いるよ。それでどこに向かえばいい?」


『話が早くて助かるわ。中層と下層の境目の階層まで来れるか?』


 いつもおちゃらけてるジンの口調はいつにも増して真剣だ。そして僕のことをパートナーと口にした。


 こういう時は大抵ダンジョン絡みの緊急事態だ。僕は電話を繋げながら中層に向けて走り出す。


「行けるけど、少し時間が欲しい。今、僕がいるのは下層でも割と奥の方だから」


『了解。起きてるのは大氾濫スタンピードだ。発生源は恐らく下層、そっちから来る時は気をつけや』


「わかったありがとう。それだけあれば十分。中層で会おう」


『おう。取り敢えずこっちはできる限り間引いていく。ちらほら今んとこ中層の魔物しか見えんが、下層の魔物が来たら厄介やな。ワンチャン、深層もありうる』


 ジンはそう言って電話を切る。


 大氾濫スタンピード。それは何かしらのイレギュラーが原因で起こる魔物の大規模進行。


 大体は下層や深層の魔物が上の層に来ることで起きる場合が多い。もしくは滅多に現れない希少種が出現した場合とか……。


 とにかく早く中層に行かなくては。


 僕は靴型の魔道具を起動させて、さらに加速していく。

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