第5話
「今日は魔法石の作り方講座の動画撮りたい。材料は持ってきたから」
「ん……了解した。チャンネルを確認したがすごいぞ。昨日の配信がバズって、ついでにポーション動画も伸びた」
義姉さんのギルドハウスでそう話す僕ら。義姉さんはノートパソコンに操作して、チャンネルの管理画面を見せてくれる。
「始めた時は登録者数二桁なのに、昨日今日の伸び方バグってない?」
「ふふふ。私はこうなるんじゃないかとは思っていたよ。なにせシキの錬金術のスキルは半端ないからな」
義姉さんはドヤ顔でそう言う。
ジンからも言われたことがあるけど、僕の錬金術は常人では考えられないほど伸ばしているらしい。
錬金術にハマってから夢中になって伸ばしたけど……みんな持ち上げすぎなんじゃないか?って思う時がある。
「でも……これくらい普通できるんじゃないの? ギルマスはこれくらいできて当然や〜〜とか言ってたし」
「……やはり沈めるかあいつ。
まあ普通はそこまで伸ばさないと思うぞ錬金術。生産職なら鍛治師とか裁縫あたりの方がリターンとしては大きいからな」
一瞬めちゃめちゃ物騒なことを言ってた気がするけど大丈夫!?
けど義姉さんの言う通りだ。生産職として錬金術はリターンが少ない。
せいぜいポーションなどの基本的な魔法薬が作れる程度、もしくは少し伸ばして爆弾とかそういう攻撃系の魔道具が作れるくらいしか伸ばさないだろう。
そこから先を伸ばしても、魔道具や魔法薬の製作コストが高くて、作れなくなってしまう。その先に素材を代替できるスキルとかあるんだけどなあ……。
「義姉さんの言う通りかもしれないけれど……。でも、これで錬金術始めるような人が増えたらいいな……なんてアハハ」
「出るといいなそのうち。さて、台本は大体書けた。早速やろうじゃないか」
僕と義姉さんは動画撮影の準備に取り掛かる。
僕の動画は基本的に手元しか映さない。僕の視線とかは映らないため、台本をガン見していても大丈夫だ。
「皆様こんにちは! シキの錬金術チャンネルです! 今日は魔法石を作っていこうと思います!」
声を出しながらの錬金術は慣れていないけど、台本を見つつなんとかこなしていく。
魔法石は魔力を貯蔵できる石のことを言う。魔法を使う際、持っていると勝手に魔法石に貯蔵されている魔力から消費されていく。
「魔法石の材料は石だけで大丈夫です。もし、慣れていないのでしたら魔力が貯蔵されている魔鉱石を加工しましょう」
魔法石のいいところはそれだけではない。なんとこれは石と加工用の道具があればすぐにできてしまうのだ。
石材を加工する専用ナイフで角を落とし、丸形に整形。いくつかの切り込みを入れた後、その切り込みの中に自分の魔力を注ぎ込む。
手順はたったこれだけ。ただの石は魔力を注ぎ込まれたことで銀色に輝くクリスタルに変貌していた。
「このようにして石に魔力を注ぎ込み、魔力と魔力が反発融合する循環構造にしてあげると、半永久的に魔力を取り出せる魔法石が作れます。
魔鉱石から加工する場合は専用のナイフで角を取った後、小さな切れ込みを入れると魔力が取り出しやすくなりますよ!」
ただ魔鉱石から作るのはそれなりにコストがかかってしまう。石から作るほうがコストがかからずお手軽だ。
「これが一番簡単な方法ですが、凝ったやり方もありますので概要欄に作り方のリンクを貼り付けておきます。ぜひ活用してください。
それでは今日はこれまで! シキの錬金術チャンネルでした!! 次回また会いましょう!!」
と言った感じに動画撮影が終了する。カメラを切った義姉さんが僕に近付いて声をかけてくる。
「お疲れだシキ。続けてで悪いが、資料作成のために写真が欲しい。今からもう一つのやり方をやってくれないか? 私が要所要所で写真を撮っていくから」
「オッケー。すぐに取り掛かるよ」
僕はそう言って、動画の最後で触れた凝ったやり方をやっていく。
これは僕が最初の方にやっていたやり方なんだけど、材料と加工の手間が多くてやらなくなってしまった方法だ。
動画で紹介するのはどうかということで、PDFを義姉さんに作ってもらい、動画の概要欄に載せる形にした。
十数分くらい時間をかけて、僕は魔法石を完成させる。うん、いい出来だ。
「ところでその魔法石はどうするつもりなんだ? 使うのか?」
「いんや……次の材料費とかを考えたら明日のフリマに売り出そうかなと思ってる。それよりもさ、次の動画の企画について話したいんだけど大丈夫かな?」
「……お、動画撮影に随分と熱が出るようになったじゃないか」
「なんかハマっちゃってね……。意外とこういうのも悪くないな〜〜って」
自分でも意外と思ったんだけどこの動画撮影が結構楽しい。配信はまだやれる気がしないけど、動画撮影なら気楽にできる。
それにジンも面白がってなのか、動画の企画案を出してくれるおかげで動画のネタには困らない。あとはこれらをどう煮詰めていくか考えるだけだ。
「上層から中層で取れるおすすめ素材。これなんかどうだ? 最近探索者が増えたし、中層で狩りをする探索者も結構いることだしな」
「じゃあ次はそれで。ただ、中層の素材ってなると採取しに行かないといけないんだよね。買うにしては少し高いし……」
「じゃあ今から行くか?」
「いや、そんなコンビニ感覚で行くか? 言われても……。明日の休みとかどう? 僕、フリマにこれを出してからなら予定空いてるから」
「……明日はギルメンと会議だ。すまないな」
義姉さんはめちゃめちゃ行きたいけど、立場上行けないことに苦悩するような表情でそう口にした。
まあでもそれなら仕方ない。明日は僕一人だけで行くとしよう。中層くらいまでならわざわざパーティーを組む必要もない。
「じゃあ明日一人で探索に出て、動画撮影用の素材を集めてくるよ」
「すまないな付き合えなくて。でも今度はちゃんと予定を空けておこう!! 断じてシキと探索に行きたいわけではなくて、やはり動画撮影のパートナーとして、動画関連のことは付き合わなくちゃならないからな!!」
「ありがとう義姉さん。義姉さんがいたらとても助かるよ」
「〜〜〜〜ッッ!! 全くシキ、お前というやつは……!! よし! 今からご飯に行こう! 夕飯なら奢ってやる! あと帰りのゲート代もな!!」
やたらとテンションが高めの義姉さんに引っ張られるようにして、僕は義姉さんと夕飯に行くことになるのであった。
けど、あんなに顔を赤くする必要あったのかなあ……?
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