第11話

『それで今日はなんの用事なの? もしかして普段連絡とってくれないお兄ちゃんがヒナと話したくて電話しちゃったとか? 忙しいけれどそういうことならちょっっっっとは話してあげてもいいかな〜〜って』


「義姉さんも時たまあんなふうに超絶早口になるけど、あれは遺伝なの?」


「…………そう、かもしれない。私あんなふうに話す時があるのか」


 圧をかけるような声から一変、可愛らしい声に戻ったヒナは超早口でそう言い始めた。まるで追放された時に電話をかけてきてくれた義姉さんのように。


「事情を話すとね———」


 僕はヒナに事情を話す。ギルドを追放されたことから、動画配信を始めたこと、そしてそれでバズったこと何から何まで。


 一通り聞き終えたヒナは電話の向こう側でこう口にする。


『よし、先ずはそのギルドを潰そうか。大丈夫大丈夫、ギルマスを死んだ方がマシって思うくらい痛めつけるだけだから!』


「どこに大丈夫の要素あった!? 姉妹揃って物騒すぎない!?」


 一通りの話を聞いて、真っ先にそこが出てくる辺り、本当に二人は姉妹なんだなと思う。


 ちなみに義姉さんは恥ずかしそうに顔に手を当てていた。いやまあ、多分ヒナを通して客観的に自分の行動を振り返って、すごく恥ずかしくなったのだろう。


『まあそれは冗談だとして……あ、これか。お兄ちゃんのチャンネル……動画二本、配信一本だけでチャンネル登録者数七万!?!?』


「……え、うそもうそんなにいってるの!?」


 僕も慌ててスマホで自分のチャンネルを確認する。現在チャンネル登録者数七万超え。なお、リロードすると数百単位で登録者数が増えていく模様。


『やっばあ……。箱に入ってるヒナでもこんな伸び方したことないよ。グループでもこの伸び方は異常だけど、個人勢の伸び方じゃないよこれ』


「個人勢……? 箱……?」


 ヒナが繰り出す言葉にハテナマークを浮かべる僕。配信界隈の事情にはかなり疎いので、ヒナの言葉がよくわからない。


「箱というのは事務所所属の配信者のことだな。ヒナがそうだ。アイドル系の事務所に登録している。

 グループは私みたいにギルドでやっていたり、複数人でやっている配信者。シキは撮影とかは私がやっているけど、メインはシキ一人だから個人勢というくくりだ」


「なるほど。なんで個人勢の伸び方じゃないっていうの?」


『Dチューブって個人勢が伸びにくいんだよね。単純に撮影と編集がきついし。宣伝とかも事務所が打ってくれるわけじゃないし……』


 ダンジョン配信者として先輩のヒナと義姉さんに色々と教えてもらう。今の状況がどんだけ凄いことなのかを。


 Dチューブってチャンネルを伸ばそうと思うと、ちゃんとした戦略を立てないといけないらしい。僕みたいな個人勢はより綿密な戦略を立てた上で、試行錯誤してチャンネルを伸ばしていくとか。


 ……って考えるとジンってすごいんだな。個人勢なのにコツコツとやって、戦略も立てて、チャンネル登録者数十万超えだからなあ……。


「それでここからどうして行こうって悩んでるんだ僕たち。あまりにも急な伸び方だから、こう、どうしたらいいのか分からなくて……」


『うーーーん、個人勢は絡みがないからなあ。まあヒナならこうするかなっていう程度の話しかできないけどいい?』


「うん、それでも全然助かるよ。久しぶりの電話だし、ヒナの声ももう少し聞きたいしね」


『〜〜〜〜!! そういうことなら任せて!! ヒナがなんとでもしてあげるから! 最悪コラボとかも……』


 と電話の向こう側で興奮したように話すヒナ。


 ヒナと連絡するのは本当に久しぶりだ。ヒナは義姉さんと一緒に暮らしている。何かの事務所との兼ね合いで都会の高校を選んだと聞いていたけど、まさかダンジョン配信だったなんて……。


 義姉さんは大学生という比較的スケジュールが自分で調整しやすいため、こうしてダンジョンゲートを通して会ったりしているけど、ヒナはそうではない。


 高校生としての勉学に励みながら放課後はダンジョン配信とか色々しているらしい。事務所所属になると案件とかライブとかでかなり忙しいとかなんとか。


『個人勢はヒナたち箱入りの配信者と違って、動画コンテンツ勝負なの。ヒナたちは基本配信一本でやれるように事務所がなんとかしてくれるけど、個人勢はそうじゃない。

 だから先ずは再生時間十分から、長くても二十分前後の動画を沢山作ってみて。その後、その動画の見どころを一分以内に切り抜いて、ショート動画っていうのにあげるの』


「ショート動画……?」


「少し前にDチューブに実装されたやつだろ? 一分以内の動画で、スマホで見るのに特化したやつ」


『そうそう! ヒナも自分の配信を切り抜いてやったりするんだけどこれが凄くてね! チャンネルや他の動画や配信の導線になったりするからすごい助かるの!』


 僕は二人の話を聞きながらDチューブでショート動画を調べる。確かにスマホの縦画面にぴったり収まる画角で一分以内にこんなに凝縮して動画作ってる……すごい。


『お兄ちゃんの歌ってみたとか踊ってみたは需要あるかもしれないけど、メインコンテンツから外れちゃうからとりあえずはなしかな。

 話に慣れてきたら、配信とかやってみてもいいんじゃない? 初配信はすごくガチガチであれはあれで可愛かったけど!』


「……なんか可愛い女の子から可愛いって言われるのはすごい複雑……僕男なのに」


『ふぇ!? 私が可愛い……! えへへそっかあ……そりゃあコスメとか色々気を使ってるし当然だよね……ふぇへへへへ』


 変な笑い声が出ていますよヒナさーん?


 何か変なことを言ったのだろうか? 女の子から可愛いって言われるのが複雑な気分っていうだけの話なんだけど……。


「ありがとうヒナ! ヒナに相談してよかったよ! すごく頼りになった! それと……あんまり連絡してあげられなくてごめんね」


『ううん!! そんなことないよ! むしろ私の方が悪いっていうかなんていうか……。あ、そういえば伝え忘れてたんだけど』


 ヒナが一旦言葉を切る。


 次に言われたことはこれから何か起こることを匂わせるようなそんなものだった。


『朝比奈リンちゃん。ヒナはだんちょーって呼んでるけど、だんちょー、私の同期だよ』


————

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