第3話
動画撮影をした次の日。
僕は授業を受けながら暇潰しがてら動画のネタをノートに書き出していた。
「錬金術のやり方と言っても……なあ」
ノートに書き出した内容は以下の通り。
・魔法石の作り方講座
・攻撃系魔道具とは、必須素材の解説
・素材採取方法の解説
「解説ばっかだ……。というかこれしかやることないんだよなあ」
頭を抱える僕。
昨日動画を撮影したが、解説系の動画はあまり動画映えしないというのがわかった。錬金術をやっているところなんて、側から見ても地味だし……。
義姉さんが編集の力でなんとかする!と言っていたけど、どんな風になるんだろう……?
「珍しく気難しい顔やな。どしたん? 話きこーかー?」
「動画のネタに困ってて……」
「ほんま珍しく乗ってきたなお前。というかまじかお前、動画やるなんて天地でもひっくり返るとちゃうか?」
エセなのかよく分からない関西弁で話す隣の席の男子生徒。
身長190と、僕と同年代とは思えない高身長(ちなみに僕は165……)、鋭い目付きにワックスで固めたトッキントッキンの髪の毛。
彼の名前は
「どれどれみせや。というか、目立ちくないとかほざくお前がこんなんやるなんてなあ。どういう風の吹き回しや?」
「義姉さんに誘われたんだよ。昨日ギルド除名されて、困ってたところに……! うわ届かない」
ぐぬぬぬ、憎し高身長。ノートを取り返そうとしたら手が届かない。
「オイオイオイオイ。ギルド追放されたとか真っ先に言えやそんなん。ワシとお前、
「今日話すつもりだったよ。素材とか取りに行ってもらってるし、色々ね!」
ジンもまたダンジョン探索者だ。僕を探索者に誘った先輩ともいえる。
僕とジンは探索者としての先輩後輩、友人以上に業務提携という関係性が強い。
ジンは僕が依頼した素材を取りに行ってくれる。僕はその代わりに依頼料だったり、魔道具の売り上げの幾らかを支払っている。
「しかしのぅ、ギルドから追放されてお前売り先あるんか? 固定客とかおらへんやろ。その辺ギルドに任せきりで」
「うっ……。それを見つけるための動画と配信活動だよ! ただ配信はリアルタイムで上手く話せるか不安でやるかどうか悩んでるけど……」
動画はえー、とかあー、みたいな言葉の詰まりを編集でカットしてくれる。
でも配信となるとその編集パワーも使えない。僕自身喋りは得意ではないため、こればっかりは少しずつ慣らしていくしかない。
「喋りが苦手でも絵面が映えれば……そうや、お前魔道具のストックどれくらいある?」
「え……。だいぶ没収されたけど、まだ確か幾つか残ってるよ」
「じゃあわしが秘策を教えてやる。ええか、先ずはな……」
***
「なるほどそれでダンジョンか」
「そうそう。僕の
学校終わり。僕は義姉さんと一緒にダンジョンの下層に来ていた。
ダンジョンは表層、上層、中層、下層、深層と別れている。深層に近づけば危険度も高くなるが、その代わりに得られるリターンが大きい。
僕や義姉さんが活動する場所は主に下層。義姉さんは深層にも行ったりするらしいが、僕はそこまで深く潜らない。
「今日はDカメ14を持ってきた。すごいぞこれは、なにせ最新機種だけあって機能てんこ盛りだ」
自慢げに義姉さんは手のひらよりやや大きめの球体を取り出す。色が違えば大きな目玉に見えなくもない。
これはDカメ。ダンジョン配信者にとって必須とも言えるアイテムの一つだ。探索者の周囲を自動で浮遊して撮影してくれる他、配信画面やコメント欄もホログラムで表示してくれる。
「最新機種がポンと出てくるあたり流石はトップ探索者……」
「ふふふ。もっと私を褒めてもいいんだぞ。私の稼ぎで買ったようなものだからな。
とまあ、冗談さておき、配信を始めるか」
「うわ、めっちゃ緊張してきた」
会話して和んできたけど、それでも初配信はめちゃめちゃ緊張する。ジンから秘策は教えてきてもらったけど、本当にこれで大丈夫かな……。
「配信開始と。これで始まったぞシキ」
「よ、よーし。じゃあ始めようかな」
僕は短剣型の魔道具を構えて下層の探索に出る。
ジンが僕に授けてくれた秘策というのはシンプルなものだ。
攻撃系の魔道具を無言でいいから取り敢えずぶっ放せとのこと。
正直これのどこに配信で人気を集める要素があるのか分からないが、無言でいいならいつもみたいに魔道具を振って下層の魔物達を狩っていく。
下層の魔物を倒しては素材を採取してを繰り返す。一時間くらいした頃だ。後ろで立っていた義姉さんがおおと言葉を漏らす。
「すごいぞシキ。同接三十人を突破した」
「え? それって多いの?」
同接三十人。それが凄いことなのかいまいちよくわからない。だって上を見たら同接一万とかって聞くし……。
「ほぼ無名の初配信にしては上出来だ。コメント欄も盛り上がってるぞ見るか?」
「いいいいいいや、いいよそ、それは!
何書かれてるのか分からないからまじ怖い」
いずれは乗り越えないといけない壁なんだろうけど、コメント欄が見るのが怖い!!
でも戦闘中、Dカメが僕の周囲を動き回るから不意にコメント欄が見えてしまう。
"超ガチガチで草"
"あの魔道具威力おかしいんだけど……"
"下層の魔物が次々と消し炭になっててワロタァ!!"
"まじで視線をカメラに向けないの初々しくていいね"
"この子もだけど、後ろのねーちゃんもめちゃめちゃ美形じゃないか?"
一瞬の内に目で追えたコメントはこんな感じ。よよよよよよよかったー!!! 誹謗中傷とかなくて!!
取り敢えず僕はジンが言う通り、ほぼ無言で魔道具を振っていく。
この時の僕は知らなかった。のちにこの配信がきっかけでとんでもないことが起きてしまうことを……。
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