第17話

「へ? 相互探索者互助会がやばい?」


『ああそうなんや。調べとったらちょっと気になってな』


 少し時を遡って数日前。僕が配信を始めて、初バズを経験した時くらいのこと。


 夜にジンから電話がかかってきた。


『お前さんの追放の話、なーんか気になってな。独自のルートで調べてたら、結構すんごいもんがボコじゃか出てきての。お前さんに電話したんや』


「あー追放……そういやそんなこともあったね」


 追放された出来事が随分と昔に聞こえてしまう。実際は一ヶ月どころか、追放されてから数日しか経過していないけど。


「しかし珍しいね。ジンがそんなことを気にするなんて」


『アホ、相棒の危機やで? ワシらは業務提携パートナーである以前に相棒やろ。お前さんが突っ込めないようなディープなところに突っ込むんがワシの仕事や』


「いい相棒を持ったよ……。でもわざわざこうして連絡してきたんだ。かなりやばいんだろう?」


 感動に涙を流したいところだけど、そうもいかない。僕の突っ込めないディープなところに突っ込んで、僕に連絡を取ってきたということは、恐らく僕に何か関係があるからだろう。


 事なかれ主義とは思っているが、それと現実から目を背けることは別問題だ。その辺ジンは理解しているから包み隠さず話そうとしているのだろう。


『お前さんは知らんと思うが、相互探索者互助会。お前さんが入って一、二ヶ月したあたりでギルドマスター変わって方針も変わったんや』


「……マジで知らなかった。続けて」


『当初は探索者同士の互助を目的としたコミュニティだった。けれど、今のギルドマスターになってからは中層クラス探索者による搾取へと変貌したんや』


 僕が錬金術にハマって、没頭している間にそんなことが起きてたなんて……。


 もう少し他のことにも興味を持つべきなんだろうか……? 確かにちょっと空気がピリピリしてるなとは思ったけれど。


『お前さん、今の基盤作るために利用されたんや。ポーションを全自動で作る大型魔道具、素材回収用ドローン、その他諸々な』


「…………ちょっと待って数秒凹む」


 うわあ〜〜やっちまった〜〜と僕は頭を抱える。


 まさか僕のしてきたことがそんな風になるなんて。でも……。


「あれらの魔道具は定期メンテとか必要だからその内、使えなくなりそうだけど……」


『マジか? そこまでは知らんかったが、それはええ情報や。ちなメンテできるのは?』


「少なくとも僕の指紋と魔力がなければメンテできない仕組みだよ。そこまで取られてたら、構造自体はシンプルだから意外と行けちゃうかもしれないけど」


『お前さんの意外といけるは、常人にとっての不可能やから心配いらんな』


 すごい複雑な気分だ。いやいやあれくらいなら僕の知ってるような錬金術師はみんな弄れるからね?


 まあ僕知り合いの錬金術師なんて片手で数えるくらいしかいないし、あんまり連絡取らないけど……。


「まあでも、それで搾取して支配するっていう構図は理解したけど目的は? 私腹を肥やすだけなら、わざわざこんな反感買うようなやり方しなくていいと思うけど」


『……こっからがやばい話なんやけどな』


「……?」


 ジンは一段とトーンを落として話し始める。



***



「それで? あれの何がやばいんだ?」


「……企業が絡むらしいんだ。それも海外の」


「あーーー、企業が絡むとなるとここで叩き潰したところで私たちの立場が危うくなりそうだね」


「……確かにな。力でゴリ押しが通じないか」


 企業の一言で察するあたり、流石は一流の探索者だ。


 僕らは探索者である以前に一般人。一般人にしては強大な力を持っているけど、権力とか社会的地位とかには敵わない部分もある。


 企業勢の配信者ヒナも、日本で有数のギルドに所属している義姉さんもその辺はよく理解している。


 探索者たちは多くの企業の協力があって初めてダンジョンで探索だったり配信ができているのだ。


「まあでもこちらにもやり方はあるんだよお兄ちゃん。Dカメ14Pro起動っと」


 ヒナは持ち込んでいた個人用のDカメ14Proをおもむろに起動させる。このPro仕様、義姉さんが持っていたDカメ14とは違い、さらにいろんな機能が追加されている。


 けど僕が気になったのは……。


「盗撮じゃない? それ」


「気にしない気にしない。あくまで配信中、偶々映り込んでしまったっていうていで行くから。アウトローな連中にはアウトローなやり方で対抗するだけだよ」


 ヒナさーん? かなり悪い顔になっていませんか?


 しかしヒナのやり口も気になって、止めようと思っても止められない自分がいるのも確かだ。


 ヒナは慣れた手つきでDカメを操作して、この暴挙を撮影し始めた。


「お兄ちゃんの話を聞いてよく分かった。相手が強大で厄介な敵ということ。でもね、私はそんなのがどうでも良くなるくらい腑が煮えくりかえっているの。何故だかわかる?」


「そんなの理由は一つだよな? 考えが一致したみたいだな愚妹」


 ……え? なんでそこで義姉さんが乗ってくるの?


 というかほぼ笑顔でブチギレている二人がマジで怖い。だって目が笑ってねえどころか殺意抱いてるもん。なんかメラメラ燃えてるもん。


『お兄ちゃん(シキ)を利用したのがとにかく許せない』


 ……あ、そういうことですか。なんとなく予想は出来ていたけれど……。


「お兄ちゃんを体よく利用した挙句、用済みになったら捨てる? そんなの神が許しても私たちが許すわけがないじゃん。絶対に地獄に叩き落とす」


「地獄では物足りんなあ? 礼儀という礼儀を骨の髄まで染み込ませて、コキュートスにぶち込んでやろう」


「あ、あの〜〜声が女性のそれでは。いえなんでもありませんすみません」


 背中から何か出しちゃいけないオーラが出ている。マジで怖いこの二人……。


「でも実際どうするつもりなの? 僕らにできることなんて……」


「ここは私の出番だよお兄ちゃん。私だって伊達に企業で配信者しているわけじゃないんだよ? お兄ちゃんが知らないような怖いどころか、深いところまで知り尽くしているんだから。

 企業を潰すのは流石に無理だけど、あいつらを破滅させるっていう意味では配信者なりのやり方があるわけだよ」


 ……あ、なんとなく察した。でもマジ? それを自発的にやるの!? アイドル系配信者としての体裁大丈夫かなあ!?


「ほ、本当に大丈夫? それでヒナに迷惑被るようなことあったら僕は嫌だよ……?」


「大丈夫安心して! 売られた喧嘩は百倍にして買い叩くが私の心情だから!!」


「安心する要素あるかなあ!?」


 笑顔でサムズアップするヒナ。ヒナはその手段を口にする。


「ギルドの闇、企業の闇は暴露するのに限るよね!」


 ……やっぱり大丈夫かなあ!? そのやり方!!

 

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