第33話
「と、も、か、く!! 絶対に後日連絡して、私のところに来ること!! 貴方のことはどんな予定をこじ開けてでも最優先にするから!! いいかしら!?」
「え……あ、はい」
僕は村正カエデの圧に負けてそう返事をしてしまう。そうか……まあジンと画策していたポーションセットも五千円で売るっていう話してたし、僕の魔法薬そこまで安いものじゃないんだな……うん。
「本当は今すぐにでももちかえ……オフィスで話をしたいところだけど、ライブの撤去や後処理とかもあるし……こう言う時、現場に入って動き回ってる私自身を呪いたくなるわ!!」
「ちょっとやばい言葉が聞こえそうになったのは無視した方がいいんですかね……?」
「貴方の話の方が数倍やばいわよ!!」
「え、あ、はい。ごめんなさい」
強く突っ込まれたのでこれ以上は何も言わないようにしよう。うん。
「まあいいわ! やることさっさと片付けてしまうから、絶対に連絡しに来るのよ!! いいわね!!」
「わ、分かりました。絶対に連絡します」
「よろしい! じゃあまた会いましょう白宝シキ」
その口調の変化、一体なんなんですか……?
けど……面白い女性だ。コロコロと変わる表情や口調もそうだけど、戦い方といい、僕へ色々とストレートな言葉を口にしてくれるところが特に。
ヒナや義姉さん、ジン、朝比奈リンとはまた違う人物。
人の感情とか、そう言うのにあまり興味がない僕でもわかる。僕は村正カエデに何か特別なものを抱いていた。
それはきっと……彼女が魅せた剣の軌道が美して……。
「お兄ちゃんどうしたの? そんなボーッとして」
「うわっ!? ヒナ!? い、いつのまに!?」
ヒナの言葉に僕は思考から現実へ引き戻される。
すぐに物事や思考に集中してボーッとするのは僕の悪い癖だと自覚しているけど、え、まさか、僕はあの人のことを想ってボーッとしていたのか!?
こんなの錬金術以外でなるのは初めてだ。え、本当に……? 僕ってあの人に一目惚れしているのか……?
「む〜〜、なんかお兄ちゃんから変な感じがする。というか凄い危機的状況かも」
「え? どういうこと? 全くそんな風には見えないけど」
朝比奈リンはヒナの言葉に対してなにか首を傾げていた。ヒナのいう通り、今の僕は変かもしれない。自分でも分かってしまうくらい、思考と感情のバランスが崩れているのがわかる。
「まあいいやっ! それよりもお兄ちゃん! だんちょーと打ち上げに夜ご飯食べに行こうっていう話ししてたんだけど一緒にどうかな?」
「シキくんも良かったらどうかな? 色々と話聞いてみたいんだけど……」
「別にいいけど……あ、でもジンに声をかけてみてもいいかい? 一応彼も功労者ではあるから」
「うんいいよっ! お兄ちゃんのパートナーさん、実力とか色々気になってたし!」
ジンはいつの間にか姿を消していたけど、どこに行ったんだろうか……?
電話をかけてみたけど出る気配はない。本当にどこに行ったんだ……? まあジンのことだし心配はいらないけど、一応メッセージだけは送っておこう。
「どう? いけそう?」
「ん〜〜いや、電話出られなさそうだったから取り敢えずメッセージ送ったよ。気がついたら連絡来ると思う」
「ジンくん色々としっかりしてそうだし大丈夫だよね……?」
「まあ色々あった後だからだんちょーが不安になるのもわかるけど、大丈夫だと思うよ。なにせお兄ちゃんのパートナーなんだし!」
ジンのことは気になりはするが、そこまで心配はしていない。
ジンのことだ。そのうち気がついて連絡をしてくるだろう。そう思いつつ、僕は夕食どこに行くかを考えるのであった。
***
「やっぱこれか」
シキがぶち抜いたダンジョンを降って、ジンはライトニングベヒーモスが現れた場所に辿り着く。
大量の爆発痕と仕掛けられた爆弾の欠片や、不発弾。ジンはそれらをスマホのカメラで撮影していく。
「しかし、これで犯人がだいぶ絞れたわ。……シキの作った爆弾型魔道具持っとるやつなんてそうそうおらん。それもこんな大量ってなると、心当たりは一つか」
白宝シキの
ここで使われた魔道具。それらがシキの製作したものだと。
「あいつは作るだけ作って放置みたいなことやらかすからなあ……そこらへんちゃんと管理してくれるようなやつおったらええんやけどな」
とジンはぼやく。
シキは錬金術の探究、それ以外に興味がないような人物だ。ギルドを追放されてから、ダンジョン配信を始めて色んなことに興味を持ち始めたのは、彼にとっていい兆候。
シキのギルドにいた頃を知るのはジンだけ。そして、その時のシキが今の数倍頭のネジが外れていたことを知るのも。
「しかし、こんなん誰かに見つかろうもんなら、シキへの批判が来るやろな。やけど、これを処理するのはちと、心折れそうやわ」
ここにある魔道具の欠片や、不発に終わった魔道具。それらが誰かに見つかれば、シキの障害となってしまうだろう。
「多分、どこぞのドアホがこれを回収しにくるはずや。さらにシキがとんでもないもんを出したおかげで注目度は爆上がり……これは痕跡消しが大変やで」
ジンが考えているのはいつだってパートナーであるシキのことだけ。
ある意味ではシキの一番の理解者は彼だ。ジンだけがシキの本質、深層に眠っているシキの闇を知っている。
だからこそ、シキが見えないところで、シキができないことをする。それが自分の役割だと理解しているから。
「……んで、さっさと出てこんかい。さっきからつけてんの知っとるで」
『流石は姫のパートナー、いい嗅覚してやがる』
暗闇の中、仮面を被った長身の男がやってくる。服装は西洋の紳士服であり、杖をついていた。
ジンは彼を見た瞬間、静かに構えを取る。彼に敵意はないが、全身が総毛立つような強い違和感を覚えたからだ。
『俺に敵意はねえ。俺がここに来たのはただ一つ。姫が神器を使ったからだ』
「……お前、あれが何かしっとるんか?」
シキが使った巨大な黒い石碑。
あれの存在はジンですら知り得なかった。一部ではあれが神器と呼ぶ声が上がっている。
『なんだお前知らないのか。まあ当然だろうな。あれは俺たちの狂気の産物。ある三人の錬金術師と、全ての錬金術を極めた師が思いつきで始めた研究の一つだ』
何かを知っているような彼の口ぶりに、一層警戒心を強めるジン。
ジンは仮面の男に警戒心を高めすぎて気がついていなかった。自分の周囲に散らばっていた魔道具の欠片や不発の魔道具が全てなくなっていることに。
『これはお近づきの印というやつだ。ありがたく受け取りな』
「……なっ!? これって、ヒヒイロカネ!?」
彼がジンの前に何かを投げる。太陽のような輝きと色を見せる鉱石……ヒヒイロカネ。
オリハルコンやダマスカス鋼に並ぶダンジョンの深層よりももっと下。最深層で採取できる超希少な鉱石だ。
滅多に市場に出回ることもなく、これを加工できるような人もまたごくわずか。しかし、その輝きは人を魅了し、希少性と外観だけで何十億の値段がつく。
「……何をやったんや。答えろ!」
『そのうち、姫に聞いてみるといいさ!
まあそれはさておき、一つ忠告してやろう』
珍しく動揺しているジンに対して、彼は余裕たっぷりみたいな態度でこう口にする。
『姫が神器を人前で使った。それはある意味、物凄い変化なんだよ。姫をよく知る俺たちですら想像しなかった。故にここから
以前までのシキだったなら、恐らくあの神器を使うことはしなかっただろう。
シキが人前で、それも配信を通して多くの人が見ている中で神器を使用した。それは過去のシキを知る人ほど、予想し得なかった大きな変化。
彼がダンジョン配信を通して変わりつつある証拠。
『ダンジョン配信。いい文化だよ。だが、あの光景を世界中が見た。始まるぞ争奪戦が。様々な陰謀が動き出すだろうな』
彼はダンジョン配信という文化を認めつつも、同時にその危険性を口にする。
神器を使える探索者。そんな人物が日本の高校に通っていたとは誰も予想していないだろう。
当然、どの組織もシキを欲しがる。これは始まりなのだ。
『俺たちも当然、姫を欲しがっている。誰が姫を一番に獲るか。これはそういうゲームだ』
「ざけんな。そんなのワシが止めてやる。それに……お灸据えなあかんやつらはおるんや。そのついでや」
『面白い!! まあせいぜい頑張ることだな。お前を見れたこと、ある意味じゃ一番の収穫かもな』
そう言って彼は立ち去ろうとする。ジンは警戒心を弱めることなく、その背中を見続ける。
背中なら少しは隙ができるとジンは思っていたが、そんなことはない。彼に隙など微塵も存在しない。ジンは体格が全然違う彼に、自分のよく知る背中を重ね合わせて見ていた。
シキもまたあんなに普通の高校生をしているのに、全く隙が見えない。
『ああ、後、姫を利用しようとしたドアホには今頃天罰が降っているかもな』
「……それはどういう」
『そのうちわかるさ』
そう言って彼はいなくなる。ダンジョンの中、ジンはただ一人で立ち尽くしていた。
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