第35話

 僕の意を決したような声を聞いてなのか、電話の向こう側で村正カエデは間髪入れずこう口にする。


『……よろしければどうでしょう。直接会ってお話しできればと思いますが……』


「僕もそうお願いしようと思っていたところです。ただ、直接会うって言っても僕は家が遠くて……」


 僕はヒナや義姉さんと違って、住んでいるところがまあまあ都会から離れている。ダンジョンゲートを使えば一瞬かもしれないけど、公共交通機関で行こうとしたらそれなりに時間もお金もかかってしまう。


『そこは私にお任せを。貴方用にダンジョンゲートを解放させておきましょう。IDを教えてもらっても?』


「ええ、あ、はい。僕のゲート用のIDは……」


 僕はダンジョンゲートに登録している自分のIDを村正カエデに伝える。僕は殆どソロで活動していたり、身内とでしか探索に行かないからこれを他人に教えるのは久しぶりだな……。


『ありがとうございます。これで手続き完了です。こちらはいつでも大丈夫ですよ。ではお待ちしていますね』


「あ、はい。すぐに行きます」


 そう言って電話が切れる。すぐにスマホのアプリで使えるダンジョンゲートを調べると、村正グループ本社ビルのゲートが登録されていた。


「会社の中にゲート登録してる……っていうことはダンジョン外……ということはすごい値段なんじゃ」


 ダンジョンゲートはギルドハウスとかのダンジョン内の施設に設置する分には安く払える。学生のバイト代で全然払えるとか……。


 ただダンジョン外に設置するとなると、その料金は凄く高くなる。理由は詳しく知らないけど、ゲートを安定して機能させるためにより高級な設備を設置しないといけないだとか……。


 自社ビルも持っていて、さらにはゲートも設置している。そこまで大きなグループ企業の、それもご令嬢に呼び出されるとは……人生何があるか分かったものじゃない。


「あまり待たせるのは良くないよね」


 僕はすぐに準備をする。


 しかし……ああいう場所にはどんな服を着ていけばいいんだ?


***


 どんな服を着ていけばいいのか分からなかった僕は、手持ちの中で一応キチンとしていて、一番高い高校の制服を着ることにした。


 高校生はフォーマルな場所では取り敢えず制服を着ていけば大丈夫らしい。


 流石にパーカーとか、Tシャツとか着ていくのはどうなんだと思ったので、無難な高校の制服を着ていくことにした。


 ダンジョンゲートで転移し、転移した先、僕はその光景に目を奪われる。


「場違い感すごい……」


 僕が転移したのはビルの一部屋。僕が最初に見たのは窓から見える外の景色。


 高いのだ。都会に建っているビルってついつい見上げたくなるほど高いものばかりだけど、そんなビルを見下ろせるくらいここは高い。


 都会のど真ん中……そこにいると言うこと自体にちょっと緊張で吐きそうになる。根は田舎者のつもりだから、こう言うところに来るのはある意味深層に行くよりも緊張するかもしれない。


「取り敢えず部屋を出てもいいんだよね……?」


 転移先は小さな個室で、転移の魔法陣以外何もない。僕は恐る恐る扉を開けて外に出てみる。


「おお、すごいぞここ」


 自分が今ビルの何階にいるのかわからないが、自分が今いるところが普通ではないと瞬時に理解した。


 多分VIP専用エリアとかそう言うのだろう。だってレッドカーペットだよ! レッドカーペット!! それに壁とかは高そうな壁紙だし!!


「そんな恐る恐る様子を伺うような真似しなくても良いのですよ。ここには今、私と貴方しかいませんから」


「む、村正カエデさん!?」


 あまりにも周囲の観察に気を取られすぎて、僕はいつの間にか部屋の前にやってきた村正カエデに気がつかずにいた。


 村正カエデはプライベートなのだろうか、昨日着ていたスーツではなくて、白のTシャツにジーンズというカジュアルな服装だ。あれ……もしかして僕、服装のチョイス間違えた?


「学校の制服でしょうか……? プライベートなお話のつもりでしたので、カジュアルな服装でよろしかったのに」


「え……いや、まあ、はい。どんな服を着ていけばいいのか分からなくて……」


 案の定突っ込まれた。


 僕の返答に村正カエデは短く笑うとこう返す。


「ここには私と貴方しかいませんから、そこまで緊張しなくてもよろしいですよ。ささ、こちらへ。せっかく来てくれたのですからおもてなししませんと」


「あ、ありがとうございます。ではお言葉に甘えて」


 僕は村正カエデに案内されて別の部屋に通される。


 そこはまるでテレビやネットの動画とかでみるホテルのスイートルームのような部屋だった。場違い感を身に受けつつも、僕はソファに座る……すげえ、めちゃめちゃふかふかだ。


「白宝シキ、貴方はコーヒーか紅茶、それとも緑茶どれがいいですか?」


「じゃあコーヒーのブラックで……」


「ふふっ、分かりました。少々お待ちください」


 そう聞かれてから数分後。僕の前に淹れたてのコーヒーが置かれる。


 村正カエデは紅茶のようで、カップを僕の対面に置き、彼女も対面のソファに座る。


「……きょ、今日ここに来たのは、さっきも言いましたが一晩考えて昨日の話の決断ができたからです」


「ええ。では早速ですが、それを聞いても?」


 空気が一転。緊張感が場に満ちる。


 一回、二回……三回と僕は深呼吸をした後、僕は一晩考えて出した答えを口にする。


 それは恐らくこの先も変わることのない僕の意思だ。


「僕を……いや、僕は貴女と共に働きたいと思っています。錬金術もそうですし……ダンジョン配信者としても」


 そう、それが一晩考えて導き出した僕の答えだ。

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追放された超級錬金術師、義姉に誘われてダンジョン配信を始める〜ポーション作っただけでバズった……え? これエリクサー? そんなまさか〜 路紬 @bakazuma

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