第18話 美味しいもの

「おはよー!」


「おはようエルフィー」

 

 玄関先で待ってるリズに駆け寄り学院へ向かう。

 

「おはようエルフィー、リズっち!」


「おはようメアちゃん」


「メアおはよう」

 

 寮の前で待っていたメアちゃんも合流した。

 

「メア、ともだちといっしょに通えてうれしいな」


「私もメアちゃんと一緒に居れて嬉しいよ!」


「そう!? やった!」

 

 ヘヴリッジ市内の大通りを歩いていく。

 今日は夏前の穏やかな陽気だ。

 

「メアちゃんはいつもお昼どうしてるの?」


「メアは教室でお弁当をたべてるぞ」


「それって、手作り?」


「うん。その方がやすいからなー」


「メア料理出来るんだね」


「そうだよー。メアは魔素がいっぱいあるから、料理魔法具でたくさん魔素を消費してるんだ」


「へー、それはいい使い道だね」


「あー、今日のお昼が楽しみだなー!

 メアちゃんがどんなお弁当作ってるのか気になるー」


「そんなすごいものではないぞ」


「作ってるだけですごいって! どこで食べようー?」


「屋上とかいいんじゃないかな。昼は開いてたはず」


「いいねリズ。私屋上行ってみたかったんだ!」


「わかった! お昼休みになったら、お弁当もってDクラスにいくよ」


「おっけー!」

 

 坂を登り、校門を抜けて校舎に入りそれぞれ教室へ向かう。

 

「じゃあまたあとでね」


「うん!」

 

 今日の授業はヘヴリ語、魔導初級、魔物学基礎、戦闘基礎、歴史、フィリオ中級だ。

 昨日の夜に魔導は予習したので授業が待ち遠しい。

 

 ◇

 

 四限目の戦闘基礎の授業を終え更衣室で制服に着替える。

 

「はー疲れたー」


「今日は凄い走らされたね、くたくた」


「暑いしー」


「夏も始まってきたよね」


「あ、でも夏が来るってことはそろそろ水中戦闘の授業になるんじゃない?」


「あー確かに。でも中間テストが終わってからだったような」


「えーあと一ヶ月もまだグラウンドでやるってことー?」


「そうだろうね」


「はあー」

 

 教室へ戻ると、メアちゃんが弁当箱を抱えて外で待っていた。

 

「あ! メアちゃん! ごめんね、戦闘の授業で着替えてて」


「だいじょうぶだぞ!」


「うん、ちょっと待っててね。私も持ってくるから」

 

 鞄から弁当を取りだして三人で屋上へ行く。

 階段をいくつか上り扉を開ける。

 ちらほら他の生徒もいて、今日のようないい天気の日には絶好のお弁当スポットなのかもしれない。

 

「わー広いねー」


「うん、ひろい!」


「人も結構いるね」


「でもちょっと暑いよねー」


「あそこの日陰に行こうか」

 

 屋上には調合研究会と看板の書かれたプランターが置かれていて、色んな薬草が生えている。

 その近くの校舎の壁が影になっているのでそこへ腰を下ろす。

 

「日陰は涼しいね」


「うん!」

 

 弁当を開き、いただきますと声を合わせる。

 

「メアちゃん、それ自分で作ったんでしょ?」


「うん。そうだけど」


「可愛いねー」


「そ、そうか?」


「うん! カラフルだし、おいしそう!」


「でもリズっちのだってかなり色とりどりじゃないか?」


「私は適当におかず詰めてるだけだよ」


「リズっちは自分で作ってるの?」


「一応ね。弟の分と一緒に」


「え、リズっち弟いるんだ!」


「うん。二個下だね」


「リズの弟くん、ロズくんっていうんだけどね、可愛いんだよー。

 たまに遊びに行くと、いつも新しいクレイゴーレムを見せてくれるの!」


「へー! リズっちのかぞくはゴーレム一家なんだな!」


「まあ、ロズは私の見てゴーレム作ってるんだろうけど」


「ロズくん、いつかお姉ちゃん倒すんだっていっつも言ってるよ」


「それは無理だろうね」


「ロズっち、がんばって!」


「そうだよね、ロズくんには頑張って欲しいよね」


「私に負けて欲しいのか」


「「そりゃねー」」

 

 お昼も食べ終わり、当初の目的であった魔法具目安箱の置き場所を探しに行く。

 

「どこにしようかなー」

 

 お昼休みはどこも生徒で賑わっている。

 昼食は基本的に学院内のどこで食べてもいいのだ。

 

「なるべく人目が着くところがいいよね」


「そうだねリズ。よく行くところに置きたいけど」

 

 廊下を歩いていると、どこからともなくいい匂いがしてくる。

 

「あーいい匂い」

 

 この学院では昼休みや放課後に食堂でお菓子が販売される。

 部活に行く道中にあるため、放課後たまに誘惑に負ける。

 

「デザート、いっちゃう?」

 

 メアちゃんの、“悪魔”の提案。

 

「メアちゃん、悪魔だねぃー」


「ふふっ、ヴァンパイアだからね」


「うぅ、今回は負けたー! ドーナツでも買っちゃおー」


「エルフィーが食べたいだけでしょ。メア関係ない。私はクレープで」


「リズっちもか! メアもドーナツ買ってみよ」


「ここのお菓子はどれも美味しいんだよねー」

 

 私とメアちゃんはドーナツを、リズはクレープを頼んだ。

 

「リズのそれ美味しそうだねー」


「リズっちって見た目クールなのに中身かわいいよね」


「ここのクレープは美味しいんだよね。

 生地がもっちりしていてクリームの甘さとフルーツの酸味のバランスがちょうどいい。特にこのフルーツもりもりクレープはここの一番の出来だと思う。普段頭を使う私たちにとって、甘いものやフルーツにはリフレッシュ作用があるから授業後、そして授業前のこの時間に食べるとこの後の内容に集中しやすくなる」


「あはは、リズっちはいうこともクールだね」


「リズがダイエット中にどうにかして甘いもの食べたい人みたいになってるよー」

 

 お菓子を食べ進め、私たちは幸福に包まれた。

 食堂はお菓子だけでなくもちろん昼食も販売しており、お昼休みは多くの生徒が行き来している。

 

「そうだ、ここにしようよ」


「ああ、目安箱ね。確かに人もたくさんいるね」


「おお! たしかにひとたくさんだ!」


「うん。確かこっちに魔創部のスペースがあったはず……あ、ここだ」

 

 魔創部は食堂の一角に魔法具販売スペースがあり、生徒会長の作った地図付きの傘なんかはここで買うことが出来る。

 

「この机でも借りて目安箱を置けばいいんじゃないかな」


「うん、そうするよ。いい場所が見つかったー」


「よかったねエルフィー!」


「あとは許可を取らないとだね」


「放課後部活行く前に先生に聞いてみるよー」


「エルフィーにたくした!」


「託された!」

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