第14話 部活対抗的当てⅢ
ジャイアントラビットを倒し、そのまま池の周りを探索していると、池に赤い的が浮かんでいた。
「エルフィー、池に的が浮かんでるよ」
「ほんとだー。赤い的も普通にあるんだね」
「報告するね」
リズが報告してくれている間に弓を構え狙いを定める。
「……あれ、外しちゃった」
「もう一回やってみて」
「うん」
的めがけて矢を放つも、思い通りに矢が当たらない。
「あれー? 下手になっちゃったかな?」
「うーん、赤い的だから魔物なのかもしれない」
メガネを通して的をよく観察する。
「ほんとだ。よく見ると魔素が少し的より大きいかも」
「でも魔物の姿は見えないよね……」
魔物学の授業で習ったことを思い出してみる。
魔物とは基本的に魔法使いが解き放った使用済みの思念魔素が寄り集まって物体に入り込んだもので、その魔素が攻撃魔法のものであると凶暴になったりする。
グランドロックなら岩に、ジャイアントラビットなら野生のラビットに魔素が入り込み魔物となって襲ってくる。
「もしかしたらスピリットかも」
思念魔素が入り込む対象は岩や動物にとどまらず、水のような液体だったり人間や動物の死骸などもあり、それらはスピリットやアンデッドなどと呼ばれるようになる。
「じゃあウォータースピリットがあそこにいるってこと?」
「多分ね。やっぱり赤い的は魔物だったんだ」
「スピリットって、私の矢は通らないよね。どうしよう」
「魔素をぶつければ行けるのかな……。魔弾を打ってみるよ」
リズが魔導書から魔弾を発射させて的の近くへ打ち込む。
的には当たらなかったが、突然的が浮かび上がりこちらへ向かってくる。
「……怒らせたっぽい」
「来ちゃったー!」
的を中心に水が塊となって近づいてくる。
スピリットは近づきながら鋭い水を私たちへ発射させてくる。
「攻撃もしてくる!」
必死に避けながら矢を打ち込むが、ただすり抜けてしまう。
リズも魔弾を放って応戦しているがあまり効果は無い。
「どうする、エルフィー。逃げる?」
「うん、太刀打ちできなさそう……」
諦めて池を離れようとしたとき、ふと左手に持っている傘が目に入る。
もしかしたら、これが使えるんじゃないか?
確かキバマキ会長はこう言っていた。
傘は表面の水分から魔素を吸収してくれる、と。
「ねえリズ。この傘使えないかな」
「……。
あー確かに。魔素を吸収出来るなら倒せるかも」
「でも私、近接戦とか実戦は初めてだよー」
「大丈夫。私もだから」
「それ不安が増してないー?」
私もリズも敵とこんなに近くで戦ったことは無い。
戦闘基礎の授業で近接戦の戦い方は学ぶが、あくまで知識のみだ。
それでも今はこのスピリットを倒すため傘を閉じ両手剣のように構える。
ゆっくりと近寄ってくるスピリットに手が
習ったことを思い出すんだエルフィー。
近接戦で大切なのは間合い――焦らず相手との距離を見極めること。
スピリットが私の間合いに入ると傘を振り被る。
そして思いっきり振り下ろす。
体内の魔素も腕に流して補強する。
傘の先がスピリットから魔素を吸収している刺激を感じる。
さらにリズがスピリットの後ろ側に回りこみ、同じように両断する。
「リズ!」
同時に傘を広げ吸収する面積を大きくする。
スピリットはたちまち傘に魔素を奪われ蒸発していく。
赤い的が地面に転がった。
「ふー……」
「倒せた……」
「これは報告しておこうか」
「うん。……リズです。
さっきの赤い的ですが、スピリットのものでした。スピリットは倒せました」
残り時間も少ないが報告だけはして的を破壊する。
「あとどのくらいだろう」
時計を見るとあと三分だった。
「探すだけ探そう」
その後ギリギリのところで木に隠れていた黒い的を見つけ、部活対抗的当ては終了となった。
第二グラウンドへ戻り魔創部のみんなと合流する。
「みんなおつかれー!! みんな良かったよー!!
結構いい順位になるんじゃない??」
「先輩もお疲れ様でした! 優勝できるといいですよね」
「うん!! どうかお願いします!!」
ミラ先輩は両手を擦り合わせていた。
「――生徒のみなさん、閉会式を行いますので、第二グラウンドへ整列してください」
Dクラスのところへ並び、結果発表を待つ。
「いやーでも傘が使えてよかったよねー」
「うん。エルフィーの閃き凄かったね」
「ふふん。魔法具マスターと呼んでくれたまえ」
「大活躍だったね、魔法具マスター」
「あ、呼んでくれるんだ」
「ジャイアントラビットに飛ばされそうだったけどね、魔法具マスター」
「あれはリズが魔導書マスターだったから助かったよー」
「ほんとに危なかったんだから、気をつけてよ」
「うう、反省マスターになっておきます……」
「――結果発表を行います。
まず白組赤組の優勝発表、その後、部活対抗的当ての優勝発表を行います。
では発表します。白組、赤組、優勝したのは……」
正面のパネルの数字が両方とも増えていく。三百を超えたあたりでゆっくりと点数が加算されていく。
「――赤組です! おめでとうございます!」
向こうの方から歓声が湧き上がる。
私たち白組のC、Dクラスはどことなく静かだ。
一日かけて行った体育祭で負けてしまうのはやはり悲しい。
「続いて部活対抗的当てで優勝した部活の発表を行います。
優勝した部活は……」
パネルに大きく96と表示される。
「……魔術部のみなさんです!
おめでとうございます!」
――負けてしまった。
結局魔法が使える競技な以上、やはり魔法に適正のある魔術部が勝ってしまうのだろうか……。
Dクラスの魔術部の子たちはとても喜んでいる。
他の人はみんな浮かない顔をしているが、リズも私もその一人で、マルクくんも悲しそうだ。
「負けちゃったね」
リズが小さく声をかけてくる。
「うん……」
正直勝てると思っていたが、そんなに甘くはなかった。
負けるというのは、自分が思っている以上に悔しいことだった。
「――では閉会式を続けます。学院長からの挨拶です――」
閉会式が終わり、解散となる。
長いようで短かった体育祭は終わってしまった。
魔創部で集まるとのことなので、リズとマルクくんと一緒に集合場所に行く。
「みんなー、今日一日お疲れ様。
結果は奮わなかったけど、みんな大活躍だったよね!!」
ミラ先輩も白組のはずだが、気丈に振舞っている。
「最後に傘を確認したら、赤い的がなんと十一個!!
黒い的が十二個で91点だったんだよね。
魔物を積極的に倒す作戦は良かったけど、黒い的ももうちょっと壊したかったよね」
一位の魔術部と5点差だったので、あと赤い的一つか黒い的二つで優勝が狙えていたっぽい。
今更言っても仕方ないか。
「確かに負けちゃったけど、魔創部として魔法具を駆使して魔物を倒せたり的を見つけたり出来たんじゃないかな??
三年生は残念だけど、私たち二年や一年生には来年もあるから、もっと魔法具をたくさん作って来年こそは優勝しようね!!」
……たしかにミラ先輩の言う通りだ。
私たちは私たちが作った魔法具で情報を共有し、効率良く的を破壊できていた。
これは、ほかのどこの部活にもない魔創部だけの取り柄だ。
「私、終わったあとにみんなのメッセージを見てたけど、全員が魔創部で決めたことを守ってくれて、この傘もどんどん使ってくれてて、とっても嬉しかったの。
このメンバーで今日一緒に戦えて本当に楽しかった。
みんな、ありがとう!!」
ミラ先輩は部員の顔を一人一人見ながらそう言った。
ああ、やっぱりミラ先輩はこの部活が大好きで、魔法具が大好きなんだなと、そう思った。
何かを好きな人を見ていると、こっちまでどこか嬉しく、それを好きになってしまう。
ミラ先輩は、そういう先輩だ。
魔創部には私の大好きな魔法具を、私よりも大好きな仲間や先輩がいる。
「……今日は楽しかったな」
「そうだね、エルフィー」
横にいるリズも、さっきより顔が明るく見えた。
結果としては私たちは負けた。
でもミラ先輩が言うように、こうして魔創部のみんなと魔法具を使って一緒に戦えたのは本当に楽しかった。
それぞれが、それぞれの役に立っていた。
数値化出来ないポイントを、私は十分に受け取っていた。
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