第29話 湖の遺跡
ゴーグルを装備して階段をおりていく。
リズっち隊長が一番前で私が二番目。
背中はメアちゃんに任せた。
ひんやりと冷たい土の壁を触りながら下の階層を目指す。
一段一段の高さが高く、数段降りるだけでもかなり地下深くに潜ることになる。
ほんの一分ほどで部屋にたどり着いた。
遺跡に入ると小部屋が一部屋だけ。
台座が部屋のど真ん中に置かれているだけで、魔物の気配も横に道も無い。
「あれ、これだけー?」
「でもなんかすごい眩しい」
「まぶしすぎてみえない……」
台座の上で何かが強烈に光っている。
おそらくゴーグルの効果だと思うが、ということは大量の魔素があるということだ。
「ゴーグル外そうか」
「分かりましたリズっち隊長」
「りょうかいですたいちょう」
ゴーグルを外すと視界がボヤける。
暗さに目が慣れるのを待つしかない。
「これは……魔晶石だな」
暗さに目が慣れたのかリズっち隊長が台座の上に置いてあるものを確認した。
「ましょうせき?」
「うん。魔晶石っていうのは簡単に言えば魔素が詰まった石のこと。
地下で生成されて鉱山とかで採れるんだ」
「なんでリズそんなこと知ってるの?」
「隊長だからな」
「おー! さすがたいちょう!」
「説明になってないよー」
「私の父親が鉱夫だからね。
たまに魔晶石を持ち帰ってくるんだ」
「リズっちのおとうさん鉱山ではたらいてるんだ!」
「うん。基本的に魔導生物にやらせてるらしいけどね」
「あー、だからリズも魔導生物をよく使うんだー」
「多少は影響あるかもね」
「それでそれで、その魔晶石ってのは何なの?
なんでそんなに魔素が入ってるの?」
「仕組みは分からないけど、何らかの思念魔素が十分に詰まってるらしい。
だから、
「たしかに! さわると爆発するましょうせきかもしれないぞ」
「えー! 爆発しちゃうのー?」
「台座に置いてあるから罠の可能性も十分にあるんだけど、せっかく来たしどういう効果が知りたいよね」
「知りたいですリズっち隊長!」
「しりたいしりたい」
「じゃあ二人ともちょっと下がってて」
「りょうかい」
「分かったー。死ぬなよ、リズ!」
メアちゃんとともに台座から距離をとる。
部屋の入口あたりでリズを見守る。
リズが低い姿勢で手だけを伸ばして恐る恐る魔晶石に触る。
指が触れたのか全速力でこっち側へ走ってきた。
「……なんともないな」
「なんだよー、爆発しないのかー」
「して欲しかったのか」
「あははー」
爆発しないと分かったので三人で台座に戻る。
「しかし、さっき触れた感じでは何かが起こったようには思えなかった。
思念魔素が入ってないタイプなのかな」
私も手に取ってみる。
たしかに何も起こらない。
手で握りしめられるほどの小ささで、暗くて色は分からないが半透明で水晶のようだ。
「というか、めちゃくちゃあるね」
「ほんとだ。
じゅっこ、にじゅっこはあるね」
小さな魔晶石が台座に山盛りになっている。
今でこそもう大丈夫だが、これがすべて爆発する魔晶石だったら今頃
「これだけあるなら貰っちゃってもいいよねー?」
「いいと思う。
何となくだけど、これはこの島にたどり着いた人へのご褒美みたいな感じがする」
「大変だったもんねー私たち」
「これくらいはもらわないとな」
「二つずつくらい貰ってもいいですかリズっち隊長」
「いいんですかたいちょう!」
「許可する。私は隊長なので三つ貰う」
「えーずるい!
私もエルフィー討伐部隊隊長だから三つ!」
「メアもメアズキッチン会長だからみっつ!」
「これだけあるんだから三つくらい大丈夫そう」
「でもこれだけ貰っても、どんな効果か分からないよねー」
「そうだね。帰ったら解析してみるか」
「かいせき?」
「できるか分からないけど、全力でフィリオ――感知するってだけ。
どういう思念魔素が入ってるか分かるかもしれない」
「なるほど。メアもやってみるよ」
「じゃあとりあえず帰らないとだね。
遺跡といってもこの部屋だけだし、リズ探検隊はここで終わりかな」
「お疲れ様でしたリズっち隊長!」
「おつかれさまリズっち!」
「リズ探検隊は今後の活躍に期待だね」
膝を思いっきり上げて高い階段を登って地上へ戻る。
青空が見え、そんなに長く遺跡にはいなかったはずなのにどこか清々しい気分だ。
効果は謎だがお宝も見つかり、島を探検した甲斐があった。
「この魔晶石綺麗だねー」
「きらきらしてるな!」
明るくなって分かったが、魔晶石は澄んだ青色をしていた。
絵本で見るようなクリスタルで、何かしらの効果を持っていて欲しい。
欲張って三つも持って帰ってきたんだから。
「さーて、またカメに乗るのか」
「帰りは魔物もいないしすぐだと思うよ」
「途中で寝ちゃうかもー」
「カメからずり落ちても知らないよ」
「その時は連れて帰ってねー」
「どうだか」
行きと同じようにカメを召喚して、ゴーグル、ブーツを装着して口の中にアメを放り込む。
カメの上にまたがってゆっくり湖に入水していく。
二回目ともなれば、だいぶ落ち着いていられる。
魔物に怯える必要も無いので、のんびりと帰るだけだ。
湖の中をすいすい進みアメの味がイチゴからバナナに変わったところで、遺跡で手に入れた魔晶石が気になってきた。
特にやることも無いので、ポケットから落とさないように魔晶石を取り出して――
魔晶石は、たちまち手から離れ、ひとりでに浮かび上がっていった。
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