第30話 魔晶石のヒミツ

「ちょっとちょっと、なんで?」

 

 心の中で思わず叫んだ。

 さっきまで何の効果も無かった魔晶石ましょうせきが、急に様子を変えて水面まで浮かび上がって行った。

 急いでカメの動きを止めて、後ろを振り返る。

 ゴーグル越しに見える小さな光の塊が、水面の方へ昇っていく。

 呆気に取られながら眺めていると、白い光が今度は普通の石であるかのように下へ下へ沈み、湖底まで到達すると動きを止めた。

 

「何が起こっているんだ?」

 

 カメから降りて魔晶石の回収に向かう。

 湖の底に転がった魔晶石を取ろうと手に触れると――再び、魔晶石は勝手に浮かび上がる。

 

「なにこれなにこれ」

 

 何が起きているのかさっぱり理解出来ない。

 さっきまでは何ともなかったはずなのに、急に魔晶石が水の中を上下に行ったり来たりしている。

 先の方へ行ってしまったリズやメアちゃんに置いてかれないように、和気あいあいと会話をしているゴーグルチャットへメッセージを送る。

 

「GUJ!(待って!)」

 

 メッセージが伝わったのか二人ともこちらへ引き返してきてくれた。

 それと同時に、さっき水面へ上昇して行ったはずの魔晶石が私の目の前に降りてきた。

 

「やっぱり、私が触ると動き始めるのかなー?」

 

 そう思いながら降りてきた魔晶石に触ってみると――また、水面目がけて浮かび上がっていく。

 やっぱりそうだ。

 確信とまでは至らないが何となく理解出来た。

 おそらく、この魔晶石は水の中で触れることで思念魔素が働くようになるんだ。

 カメに乗り私のことを見ていたリズとメアちゃんは、目を丸くしながら昇っていく魔晶石を見上げていった。

 

「これ、もしかして……」

 

 私の中にひとつ考えが閃く。

 ポケットにまだある残り二つの魔晶石を、思っきり握りこむ。

 

「こうすれば……」

 

 手の中に包まれた魔晶石は一気に上昇を始めた。

 手から離れないように石を掴み続ける。

 腕もつられて上へ昇っていき、体も引っ張られていく。

 見えない釣り糸に引っかかったかのように全身が水面へ向かって移動していく。

 瞬く間に水面へ到達し、

 

「っぷはーっ」

 

 呼吸が出来るようになった。

 なるほど、こうやって使うと水中での緊急避難ができるのか……。

 

「一体どういう事なの?」

 

 リズとメアちゃんも泳いで水面まで上がってきた。

 二人ともまだ頭にハテナがあるようで、説明してと言わんばかりの視線を向けてくる。

 

「私ね、すごいことに気づいちゃったみたい!

 ほらこれ」

 

「ああ、さっきの魔晶石だね」

 

「エルフィーはこれのこうかが分かったのか?」

 

「うん! 何とこれ、水の中で手に触れると……」

 

 手に持っていた魔晶石を水の中に落とし、反対の手で水の中ですくうように触れてみた。

 魔晶石は私の推測通り水面までかけ上った。

 

「ほら、浮かび上がってくるんだよー」

 

「えー、すごいねーこれ!」

 

「なるほど。水の中で、か……」

 

「そうそうー、水中でこれを頑張って握っておけば、さっきみたいにここまで一直線なんだー!」

 

「ちょっとメアもやってみる!」

 

「私も」

 

 メアちゃんとリズが水中に潜ったと思ったら、魔晶石に引っ張られながら水面まで上がってきた。

 

「おお。思ったより強力に引っ張られるね」

 

「たのしいねー! これ!」

 

「最初はびっくりしたけど、結構便利だよねー!」

 

「うん。何かあった時の緊急避難みたいな使い道がありそう」

 

「そうだねー。私たち、なかなか良いお宝見つけちゃったんじゃない?」

 

「リズっち探検隊すごいぞ!」

 

「今回のこれは効果を発見したエルフィーの手柄かな」

 

「エルフィーすごい!

 どうして分かったの?」

 

「ふふん。超一流の魔法具マスターともなれば、これくらい、見ただけでどんな効果か分かるってもんさー」

 

「私たちもちょうどゴーグルで魔晶石の事について話してたんだよ」

 

「そうそう、そしたら急にエルフィーがまって!っていうからなにかと思ったら、すんごいだいはっけん!」

 

「あ、そんなこと話してたんだ。

 てっきり、朝ごはんの話でもしてるのかと……」

 

「エルフィーが魔素語を分かってたら私たちの会話に参加してたかもしれないから、そうなるとこの発見は無かったかもね」

 

「うんうん。

 もし私が魔素語が分かってたら、一人寂しく魔晶石を眺めることも無かったかもね……って、リズ!」

 

「あははー、エルフィーないすー!」

 

「まったくもう、素直じゃないんだからー」

 

「えへ。でもこの発見はかなり役に立つよ。

 ありがとうエルフィー」

 

「どういたしましてー。

 さーて、あと半分。さっさと帰りますか!」

 

「はやくかえろうー!」

 

「帰り途中に魔晶石の使い道についてゴーグルチャットで話そうか、魔素語で」

 

「あーリズ! いじわる!」

 

「メアがかえったら内容おしえてあげるよエルフィー!」

 

「ほんと!?

 よろしくね、私を仲間はずれにしないでよね!」

 

「エルフィーも魔素語覚えればいいのに」

 

「正論なんて聞こえませーん!」

 

 水中へ潜り、一目散にカメに飛び乗る。

 行きよりもスピードを上げて全速力で帰宅する。

 ゴーグルチャットが出来ないくらいの速さで帰ってやるんだから。

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