第31話 期末試験

 魔物討伐練習から二週間、いよいよ期末試験の日がやってきた。

 

「本日より、高等部一年一学期期末試験、ウォロアーク島到達試験を開始する。

 各生徒はクラス担任の所へ集まり説明をよく聞くこと」

 

 まだ朝だというのに今日の暑さを感じさせる快晴の下、私たちはグラウンドで説明を受けていた。

 担任の所へ集まれということなので、Dクラス担任のレナータ先生のいる場所へ向かう。

 

「みなさ〜んおはようございます〜! 元気ですか〜?

 これから出席確認と、健康確認と、あと色々確認します〜。

 番号順に呼ぶから、他のみんなはちょっと待っててね〜」

 

 私は30番なので一番最後だ。

 リズは4番とかなり前の方で、そういえば一体どういう仕組みで番号が付けられているんだろう? 

 背の順? 魔力順?

 ……成績順かもしれない。

 考えなかったことにしよう。

 

「終わったよ」

 

 なんてことを考えていたらもうリズが戻ってきた。

 色々確認すると言っておきながら案外早く終わるものだ。

 

「はやかったねー」

 

「うん。水晶玉みたいな魔法具に触れるだけで全部分かっちゃうみたい」

 

「えー、すごいけどちょっと怖いねー」

 

「ね、楽でいいけど」

 

「それで、持っているそれは何?」

 

 リズは右手に魔素語の装飾が施された銀色のリングのようなものを、左手には青色で半透明な小さいサイコロのようなものを持っていた。

 

「ああ、これが安全アンクレットだね。

 行く前に取り付けないといけないみたい」

 

「居場所だとか体調だとかが分かるっていう魔法具だったよねー。

 こんなもの、一体どうやったら作れるんだろう?」

 

「私も知らない魔素語が書かれてる。

 学院が作る魔法具はどれも凄いよ」

 

「そっちのサイコロみたいなのは何?」

 

「これがサバイバルダイスとかいうものみたいで、あんまり説明されずに振ってみてね〜って渡されたんだよね」

 

「試験の説明資料には、テントとか最低限の食糧とかが渡されるって言ってたよねー。

 でもそんなの見当たらないしー」

 

「もしかして、これがそうなのかな」

 

「えー? だってこんなに小さいよ?」

 

「うーん、とりあえず振ってみようかな」

 

 リズが青色のサイコロをグラウンドの上に放り投げる。

 サイコロはしばらく回転し、「3」の目が出た。

 ――と同時に、サイコロの真上に青色の魔法陣が展開され始める。

 眩い光と共に魔素が円状に並んでいく。

 しばらく待つと、魔法陣の中央から水の入った、手のひらサイズの瓶が飛び出してきた。

 魔法陣は消滅し、「3」の目も白から黒へと色が変わってしまった。

 

「おおー、こんな感じで渡されるのかー」

 

「面白いけど……めんどくさいな」

 

「あはは、そうだよねー、リズー」

 

「次は29番の方〜!」

 

「あ、そろそろ私の番だ!

 ちょっと並んでくるねー!」

 

「いってらっしゃい」

 

 最後だからと長い時間待つ覚悟はしていたのに、全然待たずに私の番が近づいてきた。

 

「は〜いじゃあ最後、エルフィー・レガートさん!」

 

「はい!」

 

「これをどっちかの手で触ってね〜」

 

 リズが言っていた通りの水晶玉。

 レナータ先生が手に抱えていて、白と紫色の模様が渦巻いている。

 言われた通り表面に触れると、黄色の液体のようなものが水晶玉の内部に充満する。

 

「は〜い、問題なし〜。

 それじゃあ、そこの安全アンクレットとサバイバルダイスをひとつずつ持って、試験開始を待っててね〜。

 二つ以上取っちゃダメだからね!」

 

「はい、分かりました!」

 

 机の上に置かれた箱に、アンクレットとサイコロが山盛りになっている。

 ひとつずつ貰って、しげしげと眺めてみる。

 アンクレットの方は相変わらずよく分からない魔素語がびっしりと刻まれていて、軽いながらも多機能であることは間違いなさそうだ。

 サイコロの方は至ってシンプルな作りで、各面に2つから6つの白丸が描かれている。

 1の面は無く、レジェロの紋章が刻まれていた。

 これだけ小さいと気づいたら無くしていそうだ。

 水や食糧が貰えるというのだから、肌身離さず持っておかなければ。

 

 リズのところへ戻ると見慣れないものも見えてきた。

 

「これは……テント?」

 

「エルフィーおかえり。

 これはさっきのサイコロから出てきたやつだよ」

 

「え、こんなに大きいのも出てくるのー!?」

 

「うん。私もびっくりした。

 魔法陣は本当に何でも出てくるね」

 

「私も振ってみようかな」

 

 リズの隣でサバイバルダイスというものを振ってみる。

 ふらふらと動き回り、「2」の面が上になった。

 先程と同じように魔法陣が編み出され、魔法陣の中から袋に包まれた、長方形のブロックのようなものが出てきた。

 

「これはー、なんだろう?」

 

「それは多分食糧だね。

 まだ食べたことないけど」

 

「あー、非常食みたいな感じかー」

 

 他の面の効果も見てみたいので、続けてサイコロを振る。

「4」が出て、魔法陣が組まれ始める。

 少し経つと身長の半分くらいの高さで、縦長のテントが現れた。

 

「これリズがさっき出してたやつ!」

 

「エルフィーも4を出したか。

 入ってみると案外広いし、寝袋も中に置かれてるよ」

 

「なるほどなー。

 これで夜を過ごせというわけだなー」

 

「うん。完全に野宿だね」

 

「でもこのテント、魔物に襲われないんでしょ?」

 

「資料によるとそうだよね。

 少し安心出来る」

 

「外で夜を過ごすとかちょっと怖いけど、わくわくしちゃうなー!」

 

「私は全然怖いが勝つけど」

 

「大丈夫だよリズ、何かあったら私が守ってあげる!」

 

「頼もしいね」

 

「――出席の確認が取れたため、現時刻より期末試験を開始する」

 

 グラウンドに先生の声が響き渡る。

 

「試験内容は至極明快。

 ここより東の海に位置するウォロアーク島に辿り着けさえすれば合格、手段は問わない。

 全ての行動は配布した安全アンクレットに記録される。

 開始した瞬間、各自足首に装着すること。

 それでは生徒諸君、元気な姿でウォロアーク島にて会うこととしよう。

 

 期末試験、開始――」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る