第7話 魔創部と小テスト

 入学から一週間が経ち、授業の方も始まってきた。

 リズも魔創部に入り、私たちは毎日のように魔創部へ通ってる。

 今日も授業が終わり、リズと部室へ向かう。


「今日の魔導の授業、ミラ先輩の言ってたことが出てきたねー!」


「うん。思想魔素とか魔素語とか、いい復習になるよ」


「私的にはちょっと退屈だったかなー。もう知ってることだし」


「意外と復習は大事だよエルフィー」


「分かってるって! リズを見てるとそんな感じするもん」


「魔素語の方は覚えてきた?」


「うん! 寝る前にミラ先輩のくれたノート写したり、覚えることが多くて大変だよー」


「魔物学の授業で魔物語まものごもやってるからこんがらがるよね」


「ほんとそれねー! 同じ言語っていうけど、全然違うもん」


「たぶん、魔素語は命令形の言葉が多くて、魔物語は会話の言葉が多いからだろうね」


「たまにどっちだっけ?ってなるもん!」


「はやく慣れたいね」


 部室につくと、セアン先輩がいた。

 セアン先輩は二年生で、桃髪のおしゃべりな先輩だ。

 魔創部で魔弓を作っては妹さんに試し打ちさせてるらしい。


「こんにちはーセアン先輩!」


「こんにちは」


「お、いらっしゃいエルフィーにリズっち!

 ミラは後で来るって」


「分かりましたー!」


 リズはなぜかセアン先輩にリズっちと呼ばれている。

 私は普通に呼ばれてるのに。


 魔創部に来ては魔法具の制作をしている。

 最近は触ると自分で折り始める折り紙を作ろうとしている。

 しかしこれがなかなか思い通りにいかない。


「よーし今日も頑張るぞー!」


 魔創部では基本的に自由に部員が出入りしており、決められた活動日もない。

 それゆえに机なども決まってないが、私とリズとマルクくんはたいてい、この木の大机で作業をしている。


「えーっと昨日はどこまでやったかなー」


 昨日ようやく、紙を折るところまで行った。

 ミラ先輩にはもともと魔素の入った紙を勧められたが、私は普通の紙でこれを作りたい。


「これが動く……でこれが止まるだから……」


 リズはというと、この一週間ずっと何も作らずにひたすら魔素語の勉強をしている。

 リズがいうには、魔導書を自分の力で読めるようになりたいらしい。


「やあ、精が出るね」


 マルクくんも部室に来たようだ。


「あ、マルクくん! これがね、なかなか難しくてー」


「そうなんだ。僕も魔素語には苦戦してるよ」


「そうだよねー。私なんかまだ魔素語と魔物語の区別がついてないよー」


「あはは、ちょうど授業でやってるもんね。

 でも魔物語の方が文章になってるから分かりやすいよ」


「うーん、そうかなー」


「魔物語の方は会話文だから、文脈を掴めれば文法はそんなに必要ないんだよ。

 それよりも魔素語は書き方が大事になってくるから細かいところまでちゃんと覚えなきゃだね」


「なるほどー」


 なんかリズもマルクくんも、地頭がいいのか魔素語と魔物語の区別がある程度はついてるみたい。

 そんなしっかりしなくても、公式だけ暗記して使えば魔法具は動いてくれるのに。

 部室は割と静かで作業に集中できる。

 セアン先輩の独り言にはちょっと気になるけど、迷惑という程でもない。

 とりあえず、作りたい折り紙を決めて魔素語を書き込んでいく。

 


 外が暗くなってくると下校のチャイムが鳴る。

 何かを作っていると時間が過ぎるのは一瞬だ。

 ミラ先輩が部員たちに片付けを促す。


「いやーおつかれー」


「どんな感じ?」


「うーん、あんまり進まなかったなー。

 紙は折れるんだけど、開いて別のところを折るっていうのが難しくてねー」


「確かにそれは難しそうだね」


「リズは今日も魔素語の勉強?」


「そう。ようやく向きを定義する魔素語が分かったよ」


「えー、そんなのもあるんだー! マルクくんは?」


「僕も魔素語の勉強をしてたんだ。といっても、ほとんどが授業の復習だけどね」


「そうなんだねー! 意外とみんな何か作るって感じじゃないんだね」


「うん。やっぱり仕組みを知らないと作りたいものが作れないから」


「作ってみるのも楽しいよー」


「うん、いずれ作るよ」


「僕も、自分の魔導書作ってみたいからね」

 

 家に着くと、ご飯を食べてお風呂に入る。


「ふぅー。つかれたー」


 折り紙を開くにはどうやったらいいんだろうと考えていると、そういえば授業で課題を出されていることを思い出した。

 お風呂から出て鞄からノートを取り出して問題を見る。


「えーっとなになにー。

 この魔素語の意味を答えよ、アギャミャ……モストゥリ……?」


 授業でやった記憶を引っ張り出しながら答えていく。

 途中分からないところは教科書を見てもよいとのことだ。


「よーし、これでオッケーかな」


 ここら辺はまだ基礎なので簡単だ。

 明日も早いのでベッドに入る。

 またも折り紙のことを考えていると、その時にはもう眠りについていた。


 

「今日は、小テストを行う」


 入学してから約一ヶ月が経ったある日、魔導の授業中先生はこんなことを言い出す。


「えー」


「この前言ったはずだが」


「それはそうですけどー」


 クラスメイトが抵抗を見せるも効果はない。

 魔導の先生、ジルド先生は魔導創作部の顧問だが、真面目な先生だ。

 授業も時間通りに終わらせたり、教科書の補足も丁寧にしてくれたりと、とてもきっちりしている。

 でもミラ先輩が言うには、ジルド先生はスライムの召喚魔法の研究をしているらしい。

 ああ見えて意外と可愛らしいものが好きなのかもしれない。


「とはいってもそんなに成績には影響しない。

 君たちがどの程度理解出来ているのか確認するためのものだ」


 プリントが前から配られ、目を通す。

 最近授業でやってる魔素語は部活でもやってるから大丈夫だ。


「それでは始めてくれ。一〇分後に回収する」


 一つ二つ分からないものがあったが、大半は解けた。

 それよりも、魔創部で普段紙を扱ってるせいか紙には敏感になっているみたいで、このプリントには尋常ではないほど魔素が含まれているのが分かった。

 それなのにこの魔素を操れる気がまったくしない。

 恐らく、カンニングとかを防ぐためにこういう仕掛けになっているのだろう。

 

「終了だ」


 突然、目の前のプリントがジルド先生の元へ集まっていく。

 時間終了後になにかを書き加える隙が一切ない。

 問答無用で回収されるのだ。


「びっくりしたー」


 クラスメイトも何人か驚いているようだ。

 自動で回収される紙、確かにこれも便利な魔法具といえなくもない。

 さすがは魔創部の顧問だ。

 そうしてみると、なんだか小テストをやりたいのはこれを見せたいだけなのではと思ったが、理解度を知りたいというのもジルド先生らしい。


「これは明日の授業で返却する。それでは、昨日の授業の続きを始めていく。

 確か、物体の向きの定義からだったな――」

 

 翌日、小テストが返却された。

 どうでもいいが、紙の魔素は抜けきっていた。


「リズ、どうだったー?」


「満点だったよ」


「え、リズすごいねー! 私は七十五点……」


「ここら辺はだいぶやってたからね。魔導書作りの基礎にもなるし」


「ええー。私魔導書作らないしなー」


「魔導書だけでもないよ。多分だけど魔法具作るのには必要なんじゃないかな」


「ううー。ちょっと勉強不足だったなー」


「まあまあ、成績にも入らないって言ってたし、次間違えなければいいよ」


「そうだね。次頑張るよ」

 

 今日も部室へ行く。今日はリズとマルクくんと三人で行く。


「マルクくんはテストどうだったのー?」


「僕は満点だったよ。エルフィーさんは?」


「え、マルクくんも!? 私は結構間違えちゃった……。みんな頭良いなー」


「まあ簡単な方だったしね。成績には入らないみたいだけど」


「リズもマルクくんもしょっぱな満点って凄いなー」


「いいじゃん、エルフィーもこれを機に勉強したら」


「んー。そうだよねー。あ、そうじゃん!

 こんなに満点の人がいるなら私に教えてよ!」


「まあいいけど」


「僕も構わないよ。魔創部にとって魔導の理解は大事だからね」


「わーありがとー! なんかやる気出てきたかも!」


「うん、その調子だよ」


「よーしじゃあとりあえず今日は折り紙の続きやろーっと!」


「いや、今日返されたテストの復習するよ」


「復習からだね」


「うわーん!」


 部室ではテストの補習が始まってしまった。

 間違えたところを重点的に教えこまれた。

 途中でミラ先輩も加わり、魔導のエキスパート達に囲まれながらの復習となった。


 グラウンドの方から、他のクラスの掛け声が聞こえる。

 そろそろ、体育祭の季節だ。

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