第8話 体育祭準備

「今月末に、体育祭がありま〜す。

 今日の午後は誰がどの種目に出るか話し合う時間にします。

 でも、本番の一週間前までに決めればいいから、焦らなくても大丈夫よ〜」

 

 レナータ先生によるホームルームが始まったかと思えば、選手決めの時間になるそう。

 

「魔法禁止全員リレーだけはクラスのみんなが出場だから、それだけは覚えておいて。

 体育祭の種目はここに貼っておくね〜」

 

 レナータ先生が大きな紙を広げると種目一覧が載っていた。

 魔法禁止種目が魔法禁止全員リレー、魔法禁止短距離走。

 そして、魔法が使えるのが魔物騎馬戦、魔法長距離走、魔力棒倒し、魔法具借り物競争。

 この他に、応援団による応援合戦、部活対抗的当て、教師陣による魔法綱引きがあるみたい。

 魔法学院だけあって、ほとんどの種目が魔法を必要とするんだなー。

 でも、いまいち名前だけじゃルール分からない。

 そう思っているとレナータ先生がルールの説明を始めてくれた。

 

「ちょっと分かりにくい種目もあるから、ルール説明をするね〜。

 詳細はプリントを配るから、よく読んでおいでね〜」

 

 種目別にルールが書かれたプリントが回ってきた。

 魔法禁止全員リレーと魔法禁止短距離走は予想通り足の速さを競うものだった。

 まあそうだよね。

 部活対抗的当て、魔法綱引きもその名の通りだった。

 

「魔物騎馬戦っていうのは、それぞれが召喚した魔物で騎馬を作って相手の騎馬を全部倒したら勝ちだよ。

 騎馬の上に乗った魔物には攻撃させることもできるから注意してね〜」

 

 生身じゃないからって戦闘をさせるらしい。

 間接的でも対人戦なんてそんなにやったことないから、これは難しそうだなー。

 

「魔法長距離走は至ってシンプル!

 この学院の敷地内にあるチェックポイントを巡ってゴールに早く着いた人の勝ち。

 チェックポイントは例年砂漠、沼、草原、島、第二森林エリアに置かれるよ。

 チェックポイントさえ通れば、どんな魔法でも使っていいからね〜」

 

 この校舎から砂漠エリアまで歩いて一時間はかかるというのに、その真反対の第二森林エリアにまで行かないといけないってことー?

 いくら魔法を使えるとはいえ、下手したら半日かかるんじゃないのーこれ。

 

「そしてお次は男子種目の魔力棒倒し〜。

 相手の棒の先端が地面についたら勝利。

 棒にはたくさん魔素が入ってるから、手で倒すよりも魔素を操って倒した方がいいかもね〜」

 

 男子種目は体力というよりも魔力勝負っていう感じだなー。

 もちろん体力はあって損はなさそうだけど。

 

「最後に女子種目の魔法具借り物競争。

 これはお題に書かれた魔法具を探していち早くゴールすれば勝ちだね。

 借りた魔法具は使ってもいいのよ〜」

 

 うわーこれまた大変そうだなー。

 目当ての魔法具が学院のどっかに用意されてたりするのかな?

 魔法具を探知する魔法とか覚える必要もあるのかなー。

 

「は〜い以上がルール説明です。

 分からないことがあったら、いつでも質問してきてね。

 じゃあ作戦タイム、スタート〜」

 

 どうしよう、どれも大変そうすぎる。

 魔創部の意地として、女子種目の魔法具借り物競争くらいには出ようかなー。

 

「じゃあまずは参加希望を取るか。

 ここに種目を書いていくから、出たい人は下に名前を書いていってくれ」


 学級長のロベルトくんが希望を取るみたい。

 私は他の人の様子を伺おうかなー。


「エルフィー何出る?」

 

 リズがやってきた。

 

「うーんと、魔法具借り物競争とかかなー?」


「おー、やっぱりエルフィーはそれ出るんだ。

 じゃあ私も出ようかな。名前書いてくるよ」


「わ、分かったー! よろしくー」

 

 う、どれも出たくないなんて言えないからちょっと面白そうなの言ったら快諾されてしまった。

 まあ面白そうなのはほんとだけど。

 意外とクラスのみんなは積極的なのか、黒板へ名前が書かれている。

 クラスのやる気がこれだけあるなら、優勝も狙えるかもしれない――と思ったが、明らかに魔法長距離走を避けたくて他のところに名前を入れてるようだ。

 そりゃそうだよね。

 この学院の広さで長距離走なんて体が持たないよねー。

 

「みんなありがとうな。

 予想はしていたが、やはりこの長距離走はあまり人気が無いな。

 体力に自信があるやつはぜひ立候補してほしい。

 俺もこれに出ることにするからよ」

 

 ロベルトくんの体は魔法使いとは思えないほどトレーニングしているようだ。

 彼なら長距離走も完走出来るかもしれない。

 ロベルトくんの目線を全力で交わしながら待っていると、見るからに足の速そうな男子が長距離走をやってくれるようだ。

 何はともあれ助かったー。

 

「よし、とりあえずこれで行ってみようと思う。

 何かあったら声をかけてくれ」


「お〜はやいね〜。私のときなんて長距離走を誰にするかで魔力対決までしたのに。

 さてさて、仮組みでも決まったなら、この後はもう解散にします。

 Dクラスは今日第三グラウンドが使えるから、練習したいって人は使ってね~。

 そうでも無いな〜って人は下校して大丈夫よ〜」

 

 ……私はそうでも無いな~って人なんだけど……。

 まったくもって部活へ行ける気配がしない。

 

「よーし。用事があるやつは別にいいが、時間がある人は第三グラウンドに着替えてきて欲しい。

 リレーの走順を決めるために、ちょっと走ってもらうことになる」


 ロベルトくんがそう指示すると、クラスのみんなはぞろぞろと更衣室へ向かう。

 

「エルフィー行こうか」


「部活に?」


「更衣室だね」


「なんかリズ、ノリノリだね」


「こう見えて、私足速いから」


「そういえばそうだったね」

 

 四人ずつ、百メートル走のタイムを測っていく。

 運動は苦手では無いが、格段好きでもない。

 走りたい人から走るということで、リズが出てきた時に出ることにした。

 無駄に大きな音と共にスタートする。

 魔法禁止とのことなので、身体強化魔法は使えない。

 もっとも、まだ魔術の授業でかじった程度でほとんど使えないが。

 私は二着だった。

 リズが一位で私は〇・五秒遅れくらいでゴールした。

 

「速いねーリズ」


「エルフィーも遅くないじゃん」


「まあねー」


「魔法が使えたらもうちょっと伸ばせそうなんだけど」


「ね、全員リレーはなんで魔法禁止なんだろうねー」


「うーん、やっぱり素の体力を見たい……とか」


「魔法学院なんだから魔法の体力も見て欲しいよー」


 この時の私はまだ知らなかった。『魔法アリ』の競技が、いかに熾烈しれつな戦いになるかということを。

 

 ◇

 

 五月末。

 体育祭当日、快晴。

 私たちDクラスは白組となり今は準備体操中だ。

 

「いっちにーさんしー」


「ごーろくしちはちー」


 怪我でもしたら笑えないので、入念に体を動かしておく。

 準備体操が終わり、早速私の出番が来る。

 第一種目――魔法具借り物競争。

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