第9話 魔法具借り物競争

「ミラ先輩、魔法具借り物競争ってなんですか?」

 

 体育祭の三週間前、私の出る種目が決まったのでリサーチをしておく。

 

「エルフィーちゃんは魔法具借り物競争に出るの??」


「はい! リズと一緒に出ます!」


「そうなんだ、私も去年出たよー!!」


「どんなことをやりました?」


「うーんとね、スタートするとお題が書かれた紙があって、そこに魔法具の名前が書いてあるの。

 それをゴールに持っていけば勝ちってやつなんだけど……」

 

 先輩はなにやら苦い顔をしている。

 

「借り物競争って言ってもね、魔法具を誰かから借りてもいいし、実は作ってもいいんだよね」


「えー! そうなんですかー!」


「というか、お題の魔法具はかなり変わっててね。

 私のときは『中の重さが分かる貯金箱』だったんだよね」


「重さ、ですか」

 

 リズも苦い顔をしている。

 

「そうそう!! そんなの、どこかにあるわけないじゃん。

 だから必死に貯金箱だけを探して、重さが分かるように改造したんだよねー」


「そうなんですね。借り物競争というよりかは早作り競争みたいですね」


「うん、そんな感じだったなー。

 中には、クラスの魔法具作るのが上手い人に作ってもらってる人なんかもいたね!!」


「へー、じゃあ予め色々作っておくっていうのも良さそうですね」


「そうー。私たちも結構作ったんだけど、そんなに都合よくはいかなかったなー。

 でもでも、そういうの作っとくと練習になるから、おすすめだよ!!」


「なるほどー。じゃあこれからはそういうの作るようにしようかなー」


「私もそうしようかな」


「うんうん。どんなお題が来ても、作れちゃえば一位間違いなしなんだから!!」

 

――そして借り物競争本番。

 六人一グループで、四グループずつスタートしてグループ内で早さを競う。

 三十分以内にゴール出来なかったら即最下位だ。

 開始の合図が聞こえると、一斉にお題の紙を奪い取りに行く。

 なんとか取れた紙を開くと『キマイラの魔導書』と書かれていた。

 

「え、魔導書!?」

 

 魔導書……魔法具は作ってきたけど魔導書は作ってきてない。

 しかもキマイラ?

 キマイラってなんだっけ?

 なんか合体してるやつだったよね?

 混乱していると、リズがやってきた。

 

「大丈夫? エルフィー」


「はわわ、あ、リズ! 魔導書作れる!?」


「え、まあ簡単なのは作れるけど私は私でこれ作らなくちゃいけなくて……」

 

 リズの紙には『動く石像』と書かれていた。

 

「え、動く石像ー? 石像って、あの石の?」


「そう。今から石像動かしてくるから、エルフィーも頑張って」

 

 そう言い残すとリズは広場の方へ向かった。

 広場に置かれてる石像でも動かす気なのだろうか。

 って、人の心配をしている場合でもない。

 とりあえずキマイラの魔導書を持ってる人がいないか探しに行かなきゃ。

 

「キマイラの魔導書持ってる人いませんかー?」

 

 声を上げながらグラウンドを駆け回る。

 他の生徒も大きな声を出して探しているのでなかなか声は通らない。

 そういえば、リズが前行ったサモンサークルならこういうのを持ってるかもしれない。

 

「えーっとどんな人だったっけなー。リズに聞いた方が早いかなー」

 

 部活動紹介の時の記憶を引っ張り出しサモンサークルの人を探そうとする。

 

「全然覚えてないなー。あ、そうだ!」

 

 ミラ先輩が言っていたことを思い出し、体育館の入り口まで走る。

 

「はぁー。はぁー。あったー」

 

 息を切らしながら部活動紹介のときに使われていた手鏡を見つけた。

 この手鏡はなんと便利なことに、記録機能がついているそうだ。

 

「たしか、これをこうしてー」

 

 入学式の日まで遡ってサモンサークルの部活動紹介を見る。

 

「あ、この人だ!」

 

 画面を止めて、生徒の応援席へ向かう。

 

「この人知りませんかー?」

 

 手当り次第に手鏡を見せながらサモンサークルの人を探す。

 すると、どうやらあの人がサモンサークルの人みたいだ。

 心臓が激しく動いているのを感じながらも懇願する。

 

「あの! お題が『キマイラの魔導書』で、あったらでいいんですけど、良ければ貸していただけませんか!」


「うん、あるよ。ちょっと待ってね……。はい、これキマイラのだよ」


「ありがとうございます!」

 

 あとはゴールへ走るだけ。

 慣れない魔法で加速して少しでも早くゴールする。

 魔法を使うと体内の魔素は減るが、その分体力の消耗を抑えられるのだ。

 

「ゴールっ!」

 

 地面になだれ込む。

 結果は――三位だった。

 

「はあ、はあ……」

 

 呼吸を整えながら時間の表示を見る。

 残り十四分。

 リズは大丈夫だろうか。

 他の生徒が続々とゴールしている中、犬の石像――リズがゴールへ向かってきた。

 リズに背中を押されながら犬の石像がグラウンドの砂を押しのけ怒涛の勢いで地面を摩っていく。

 リズは残り九分というところでゴールした。

 

「おつかれーリズー」


「はあ、はあ、疲れた……」

 

 リズは仰向けになって集計係からの話を聞いている。

 どうやら、リズは二位だったみたいだ。

 

「すごいね、グループの中では結構早かったんだね!」


「うん……ほんと、どうなるかと思った……」


「後でいいから、ちょっと話聞かせてよー」


「分かった……」

 

 リズはだいぶ疲れた様子で目を閉じた。

 私も横に寝転んで目を閉じる。

 グラウンドに響く足音が心地いい。

 終了の合図が聞こえるまで、少しの間こうしていた。

 


 第二種目は魔法長距離走だ。

 私の知ってる人だとロベルトくんが参加する。

 キバマキ生徒会長も参加しているみたい。

 走者の様子はグラウンド中央に映し出されている。

 第二種目は時間がかかるため、第三種目と同時に行うようだ。

 第三種目のパン食い競走には我らがミラ先輩が出場している。

 長距離走の選手たちを応援しつつ、ミラ先輩の活躍も目に焼き付けておく。

 

「さすがだなー会長は」

 

 その後生徒会長は自慢の魔法具で効率よくチェックポイントを巡り見事一位になった。

 ロベルトくんは二十四位ではあったが、これを完走しきるのだけでも凄いことだ。

 ミラ先輩は高得点のパンを咥えて最速でゴール。

 文句なしの一位だった。

 その後もいくつか競技があり、午前の部は幕引きとなった。

 

 昼休憩、魔創部のみんなと午後の部活対抗的当ての作戦会議を兼ねて一緒にご飯を食べる。

 

「おつかれーみんな!! 私、ばっちりみんなの活躍見てたからねー!!」


「ミラ先輩も凄かったです! パン食い競走、一番高いやつ取ってたじゃないですか! とんでもなくジャンプしてましたよねー!」


「うん!! 靴にちょっと仕掛けを仕込んだからね」


「でもあの高さは怖いですよー」


「あははー、ちょっと怖かったねー。それでリズちゃん、あの犬の石像はどうしたの??」


「ああ、あれですか。お題が『動く石像』だったので、石像を動かしたんですよ」


「えー凄いねリズ、どうやってー?」


「ほら、入学したばっかりのとき、紙動かしたじゃん。

 あれを石像に書いたら動いてくれたんだよね」


「わー私が一番最初に教えたやつだね!! 覚えててくれたんだー!」


「はい、あとこの魔力ペンも助かりました。

 魔素が足りなくなるところでした」


「なんか魔創部が役に立ってるみたいで嬉しいなー!!」


「私も魔創部には助けられましたよ。

 部活動紹介のときの手鏡で人探しできたんですから!」


「あれも使ってくれたんだ!

 色々機能入れといて良かった!!」


「はい、便利な魔法のおかげですー!」

 

 昼ごはんを食べ終えゆっくりしているとアナウンスが響く。


「お昼休憩中ですが、ただいまより教師陣による魔法綱引きを始めます――」

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