第10話 魔法綱引き
「――ただいまより、教師陣による魔法綱引きを始めます。
第一グラウンドにて行いますので、参加される教師の皆さんはお集まりください。
結界は張っておりますが、生徒の皆さんはグラウンドへ近づかないようにしてください。
綱引きの様子は第二グラウンド及び第三グラウンドに設置されたパネルで確認できます」
「魔法綱引き?」
「うん。去年これを見た時はびっくりしたよ!!
この学院の教師たちが、全身全霊で魔法を撃ち放ってるんだもん!!」
ミラ先輩が去年のことを思いながら答えてくれた。
「それを今からやるんですかー?」
「そうだよ!! これは実際に見た方が楽しいかもね!!」
私たちのいる第二グラウンドの中央に置かれた大きなパネルに、第一グラウンドの様子が映し出された。
なんかもう既に様子がおかしい。
地面には巨大なゴーレムが立ち並び、空中には大量の魔法陣が描かれ、何重にも重なった結界がグラウンドを囲っている。
地面の一部は盛り上がり、第一グラウンドの上空にだけ黒い雲が垂れ込めている。
パネル越しにも伝わってくる先生たちの魔力量と、そこに置かれた一本の大綱。
「――ルール説明をいたします。
開始より三分後、現在中央に置かれています綱の中心部が中央の境界よりも手前にあったチームの勝利となります。
魔法の制限はございません。
攻撃をされる際は、自衛も怠らないようにお願いします。
それでは、五分間の作戦会議の後より、すぐスタートとなります」
空中に時間の表示が現れ、一秒ずつカウントダウンされていく。
「この学院の教師はみんな一流の魔術士、魔導士ばっかりだからね。
生半可な攻撃じゃ綱は奪えないんだよね」
ミラ先輩は去年のことを思い出しながら補足してくれた。
「えー、大丈夫ですか? 先生たち死んじゃわないですかー?」
「うーん、毎年行われてるらしいけど、そういう話は聞かないね。
回復魔法を使える先生もいるし、大事にはならないんじゃないかな??」
少し怖い反面、一流の魔法使い同士の魔法戦が見れるのは楽しみだ。
よく見るとこちらのチームには担任のレナータ先生や顧問のジルド先生もいる。
いつになく真剣な表情をしている。
空中に浮かび上がったカウントダウンが三、二と減っていき、いよいよ魔法綱引きが開幕する。
「魔法綱引き、開始――」
まず、画面越しでなく光が直接目に入り込んできた。
続いて、第一グラウンドの方から地響きが伝わってくる。大量に置かれた魔法陣から魔導生物が一気に召喚されたようだ。
「うわー……」
いつも元気なミラ先輩も今回ばかりは絶句している。
綱を引いてるのは誰一人いなく、巨大なゴーレム達が全力で綱を持って走っている。
しかし、お互いのチームがそうしているため綱は動かない。
攻撃魔法が容赦なく敵チームに降りかかる。
狙うはゴーレムでなく、それを召喚した人間なのだ。
が、幾度となく繰り返される攻撃もすべて防御魔法で弾かれる。
この状況を切り取ってみれば、お互いのチームは綱にも触らず、ただ何もしていないようにも見える。
「わ、ドラゴンだ」
こっちのチームがジルド先生を含む三人がかりで編んでいた魔法陣からドラゴンが召喚された。
ドラゴンと言えばあらゆる魔導生物の上位存在。
並大抵の魔導士が召喚できるものではない。
そのドラゴンが灼熱のブレスを吐いてるように見えるが、綱はおろか先生たちが燃えるはずもなく、炎上しているのは木属性のゴーレムくらいだ。
もしあそこにいたら苦しむ暇もなく灰と化しているだろう。
「ドラゴンって召喚できるんだ……」
隣でリズが嘆声をもらしているが、驚くべきはドラゴンだけではない。
敵チームの魔弓軍団も見たことの無いくらいの数と連射速度でドラゴンに対して矢を放っている。
いつから戦争が始まったんだろうか?
私は楽しく体育祭をしていたはずだったんだけどなー。
それにしても、私も魔弓使いだけど、あの量と速度はいくら練習しても到達しなさそうな領域にいる。
ドラゴンのブレスがゴーレムの戦力を落としているのか、綱の中央は少しこちら側へ寄っている中、あっという間に残り一分となった。
ここでこっちのチームにさらなる戦力が投入される。
よく見ると発動者はレナータ先生だ。
序盤から何をやっているのかと注目していたが、大魔法を発動させようとしていたみたいだ。
上空の雲から滝のような雨が降り注ぐ。
もはや滝のようではなく、滝そのものである。
相手チームの足元に津波のような水圧が押し寄せる。
普段のレナータ先生の言動からは想像もつかないほど高威力の大魔術。
入学した日に見たあの魔術裁きは本物の魔術士たる
レナータ先生の活躍により、綱はさらにこちら側へ動き始める。
「……ドラゴン出して炎吐いて水で押し込むって何がしたいんだろうねえ」
セアン先輩のもっともな意見も聞きながら、綱引きはいよいよ大詰めを迎える。
敵チームの極限まで研ぎ澄まされた魔法剣によって、こちら側の綱が分断された。
「え、切れるの、あれ」
「切っていいんだ」
私もリズも、綱引きで綱を切断するという行為に驚きを隠せない。
ゴーレムが綱を引っ張っていたものの、切れてしまっては綱を引けない。
こちら側の持ち手は短くゴーレムのような巨体で引っ張るには小さすぎる。
さっきまでは優勢だったのに、綱引きで綱を切るという行為によって綱の中央だった部分はぐんぐんと相手チームの領域へ引きづり込まれる。
「やはり切断されてしまうか……」
同じく第二グラウンドで魔創部と共に観戦していたキバマキ生徒会長がため息をつく。
「でも今年は二分持ちましたね!!」
「そうだな。素材を変えたのが良かったか」
あの綱、キバマキ生徒会長が作ったものなんだ。
確かに先生たちの魔法に耐えれる綱なんて、生徒会長くらいにしか作れなさそうだ。
その後程なくして相手チームの方の綱も切断された。
もともと綱には切れないように十分に魔素が溜め込まれていたようだが、先生方はそれをすべて吸い取ってただの綱にまでしたみたいだ。
グラウンドの中央にわずか一メートル程の綱が空中に浮いている。
「なんだこれ……」
学院の生徒全員がこう思っているはずだ。
荒れ狂うドラゴン。
降り注ぐ数多の矢。
敵陣地へ突撃するゴーレムとそれを守るゴーレム。
止めどない滝、嵐。
人間に向かって絶え間なく攻撃をし続ける魔法軍団と、関係無しに綱に魔力を送り続ける先生達。
長く激しいその三十秒間はついに終了となる。
「――勝者は白チーム!」
一応私たちのチームが勝ったらしい。
「すごかったー……」
想像を絶する先生たちの魔法戦に思考が停止する。
「去年よりレベルが上がってるー」
ミラ先輩もここまでのものは見なかったという。
「でも、魔法の局地を見れたっていう感じ」
「そうだよねーリズちゃん。
ここまで本気の魔法を見ると頑張ろうって思っちゃうよね!!」
「確かにそうですよねー。
あっちのチームの魔弓なんて、あそこまでできるんだーって言う感じで」
「それに、ドラゴンも召喚できるんだって思ったし」
「うんうん。私も去年見たときそう思ったよ!!」
「何より、楽しそうでしたよねー。
レナータ先生いつもおっとりしてるのに、あんなすごい魔法が使えるなんてー!」
「そりゃあ楽しいだろうよ。年一回の本気の魔法戦だからな」
セアン先輩が腕を組みながら頷いている。
「でもこれは一見先生たちが本気の魔法戦をしたいだけのように見えて、その実魔法の局地や楽しさを見せてくれる非常に教育的な種目、だったりしてな」
「そうなんですかね……?
確かに勉強にはなりましたけどー」
「いや、先生たちが魔法戦をしたいだけだろうな」
それはそうですね、と魔創部で話が盛り上がった。
「――それでは、残りのお昼休憩の後より、午後の部を始めます。
第七種目は応援団による応援合戦です」
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