第6話 魔法具の仕組み

 そうこうしているとマルクくんが部室へやってきた。

 

「失礼します」


「あ、いらっしゃーい!! 待ってたよーマルクくん!!」


「すみません、ちょっと友達の部活の方を見に行ってて」


「うんうん。それも大事だね!!

 さて早速になるけど、三人揃ったし魔創部らしくなんか作ってみようか!!」


「え、私まだ今日は見学のつもりで来ていて」


「えー、リズ、入りたかったんじゃないのー?」


「まあそうだけど」


「うんうん、無理にとは言わないけど、仮入部だと思ってちょっと見ていってよ!!」


「はい、そうですね。せっかくですし」


「おっけー!! じゃあみんなこっちに来て」

 

 ミラ先輩はくるっと回ると、部室の黒板の方へ向かった。

 私たちもその後をついていく。

 

「魔弓を作るにしろ魔導書を作るにしろ、そもそも魔法具の作り方を知らないことには難しいからねー。まずは作り方を教えるねー!!」


「はい、お願いしますー!」


「お、やる気十分だね!! じゃあ説明していくね」

 

 ミラ先輩はチョークを取り出し、黒板に文字を書いていった。

 魔法の仕組み、かあ。

 

「何かを作るには仕組みを知ってる必要があるからね。授業でもやると思うけど、予習だと思って聞いてね!!」


「はい」


「うん、いい返事!! まず、魔法発動の三過程は知ってる??」


「それは知っています。フィリオ――感知すること。マギナ――想像すること。アルパ――生成することの三つです」

 

 マルクくんが答えてくれた。

 でもこれは私も知っている。

 私が魔弓まきゅうを使う時は、まず弓矢に流れる魔素まそを感じとり、集中させる。

 そしたら、頭の中で矢の軌道、速さを思い描く。

 最後に集めた魔素を解き放つように矢から手を離す。

 そうすると、思い描いたとおりに矢が動いてくれる。

 

「そう!! 基本的にどんな魔法でもこれが必要になってくるんだ」

 

 リズの魔導書も同じだ。

 魔導書に含まれる魔素を感じたら、召喚させるゴーレムとかを想像する。

 そしてそれが魔導書から解き放たれるように力を込めればゴーレムが召喚される。

 

「じゃあじゃあ、ここにある私のコップだけど、君たちはこれに触るとき何かをした覚えはある?」


「いえ……。水を入れたら勝手に光りましたね」

 

 そうだ。そもそも光ることなんて知らなかったし、光る想像――マギナなんて出来るはずがない。

 ミラ先輩は続けて黒板に魔法具の仕組み、と書き加えた。

 

「普段私たちが魔法を使うとき、私たち自身が最初から最後まで考えてるけど、魔法具では魔素に『思念しねん』を持たせるんだ」


「思念、ですか?」


「そう。そんな難しいことじゃなくて、私たちも普段やってる事だよ。

 私たちが魔素を感じ取ったり想像したりするのって、頭の中で『思念』を持っているよね。

 それを、魔法具に送り込んだ魔素にやらせるんだ!!」

 

 どうやら魔法具は、魔法具自身が魔法発動の三過程――フィリオ、マギナ、アルパを行っているらしい。

 

「でも結局は、その思念を持った魔素を生み出すのにもフィリオ、マギナ、アルパは必要なんだけどね」

 

 黒板には魔法具の仕組みと書かれた横に、思念魔素と付け加えられた。

 

「はりきって黒板使ったけど、あんまり要らなかったね……。

 それはさておき、大雑把な説明はこんな感じ!!

 いまから私が簡単な魔道具を作ってみるから、よーく見ておいてね!!」


 ミラ先輩は紙を一枚持ってくると、見慣れない文字を書き始めた。

 

「よし、できた!!

 じゃあリズちゃん。ちょっとこっちに来て」


「はい」


 リズが黒板の方へ行く。


「この紙も、たった今魔法具になってるんだよ!!

 リズちゃん、これを触ってみて!!」


「こう、ですか」

 

 リズが紙を触ると、その紙は横へ移動した。

 

「わ、動いた」


「そう、これは触られると逃げる紙。

 こんなふうに、思念を持った魔素を流すことで、思った通りの動きをしてくれるようになるんだ!!」


「なるほど、面白いですね」


「うん!! 一流の魔導士くらいになると、何から何まで一気に想像した思念魔素を作ってから流し込むんだけど、

 今回みたいに魔素語まそごって言って、やりたい内容を魔法具に書いておけばそれ通りに動いてくれるんだよねー!!」


「これは魔素語っていうんですね。私の魔導書のページにも書かれていたような気がします」


「そう!! 召喚とか大魔法ともなると想像力には限界があるから、ある程度は魔法具で補えるように予め書かれてるんだよね!!」

 

 確かに、私の使ってる魔弓なんかも読めない文字が書かれていて、ただのオシャレなのかと思ってたけどちゃんと意味があったんだ。

 

「あれ、でもミラ先輩が僕達に見せてくださったコップは透明でしたよね」


「そう!! 私がどんな時に何が起こるかをすべて想像して、一気に魔素を送り込んだからね!!」


「えー! すごいですね。魔力量がどうだったらこう光る、みたいなのを全部考えてからやったってことですか?」


「うん!! だからあれは私の自信作なの!!

 結構苦労したんだよー!!」

 

 ミラ先輩、ほんとに凄いなー。

 あのとき微妙な顔してごめんなさい。

 

「じゃあ、みんなもこんな感じの動く紙を作ってみようか!!

 まずは魔法具関係なしに、この紙を動かすところからだね!!」

 

 そうして、初めての魔法具制作が始まった。

 まずは紙に流れている魔素を感じ取って動く想像をする。

 そして動かす。

 この感覚をつかみ、見よう見まねで魔素語を書き込んだら思念魔素を流し込む。

 紙を触ると、紙は勝手に動き出した。

 

「わー! できたー!」


「え、エルフィーすごいね」


「うんー! ミラ先輩の教え方が上手いから!」


「エルフィーちゃん嬉しいこと言うねー!!」


「なんか私のは出来ないんだけど……」

 

 リズの紙は同じように魔素語が書かれているようだけど、触っても動かない。

 

「うーん……。リズちゃん、もっと具体的に、紙がどこへ向かってどのくらいの速さで、どこまで動くかを想像してみて!!

 まずは、魔素語関係なしに、紙を動かすのだけでもいいから!!」


「分かりました。具体的にやってみます」

 

 リズが触ると紙は動くが、他の人が触っても紙は動かない。

 

「うーん、魔素語が違うのかも……。そうだ、このペンを使ってみて!!

 このインクにはもともと魔素が含まれてるから、魔素を補ってくれるかも!」


「はい」

 

 リズはミラ先輩の紙をじっくりと見ながら、丁寧に魔素語を書き写す。

 リズが紙に思念魔素を流し込み、ミラ先輩が触ってみると、紙は横へ少し動いた。

 

「お、動いた」


「わ! やったねー!! できたね、リズちゃん!!」


「はい、嬉しいです」

 

 マルクくんも結構苦戦してたみたいで、ようやく紙が動いて安心しているようだ。

 

「僕も出来ました」


「おおー! みんな出来たね!!

 よかったー、なんか教え方間違えちゃったかと思ったよー」


「エルフィーは一発だったね」


「えへへー、ちょっと運が良かったのかもー!」


「うんうん、みんなおつかれー!!

 こういうもともと魔素の少ないただの紙に魔素を流し込むのって、体内の魔素を消耗しちゃうから最初はあんまりやりすぎないようにね」


「そうか、魔法具にはこんな感じで魔素が含まれてるから私でも使えるってことか」


「そう!! 大きなことをするにはそれだけ多くの魔素が必要になるから、リズちゃんの魔導書なんかは魔素の塊なんだよー!!」


「私自身の魔素を増やすにはどうすればいいんですか?」


「それは常日頃から意識するしかないんだよねー。体の中のどこに魔素がどれくらいあるのかとか、ずっとフィリオ――感知し続ける感じかな」


「じゃあエルフィーってずっとそんなことやってたの?」

 

 リズが急に視線を鋭くしてくる。

 

「え? 私? 私は……別にそんなことやってないけど……」


「ふーん」


「まあまあ、魔力量って生まれつき多い人も少ない人もいるから、エルフィーちゃんはそれが多い人だったのかもねー!!

 でもリズちゃんだって、魔力量は増やせるからね!!」


「そうですね、ちょっと気をつけてやってみます」


「うんうん! それが出来れば思い通りの魔導書だってすぐに作れるようになるからね!!」


「リズファイトー!」


「いつかエルフィー越えてやる」


「私も頑張りますー」

 

 私の初作品は触ると動く紙。

 まだまだ便利とはいえないけど、魔法具制作の第一歩を進んだ感じがした。

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