第33話 第一歩
ヘヴリッジ市内をレジェロの生徒が一列になって、さながら遠足のように進んでいる。
「みんな考えることは一緒だね」
「たどり着ければなんでもいいのさー!」
「だから採点項目に独創性があったのか……」
「まあまあリズー、試験はまだ始まったばっかりだからー」
「それもそうだね。
街を抜ければ私たちには独創性があるからね」
「私はあれちょっと怖いけどなー」
「メアも」
「……私も」
「リズっち隊長ー!
隊長がそんなのでどうする!」
「隊長だって人間だから」
期末試験とはいっても、中間試験のような緊張感はあまりない。
みんなと一緒に旅行をする気分で、ヘヴリッジ市内を進んでいく。
「そういえばメア、サイコロの話」
「おおー。そうだったね!
じゃあせつめいするよ」
「よろしく」
「あのサイコロは、出た目によってしゅつげんする魔法陣がちがって、出てくるものもちがう、っていうのはいいな?」
「うんうん。
確か2は食糧、3は水入り瓶だったはずー」
「エルフィーの言うとおり。
4は夜ねるためのテントで、5はテント付きのトイレだな。そして6は……」
メアちゃんは自分のリュックサックの横に突き刺していた木の棒を取り出す。
「これがでてくるんだ」
「これは、魔法の杖、みたいな?」
「うん。炎の杖だな。
メアちゃんが持っている杖の先端からボウッと音が鳴り、赤く小さな火が灯り、まるで松明のようになった。
「すごい! 火がついたー!」
「なるほど、これで火を……」
「この杖はすごいかんたんに火がつけられるんだ。
消すのだって、こう」
メアちゃんが杖を横に何回か振ると、先端の炎は静かな音とともに消え去った。
「火としてもつかえるし、攻撃にも少しはつかえるだろうし、なにより明るくできるな!」
「確かにー! うわー、なんて便利な魔法具なんだ!
こういうのを作りたいんだよなー私は!」
「エルフィーは多機能好きだよね」
「うん! シンプルだけど、色んなことが出来る!
そういうのを作ってみたい!」
「この杖くらいなら作れそうだね」
「夏休み中に作ってみようかなー」
「それで、サイコロの話にもどるけど」
「そういえば、1の目って無かったよね。
今までのは2から6の目だった」
「そう。このサイコロには1がないんだ。
でも、レジェロの紋章の面があるでしょ?」
「あるね。私はまだ一回も出したことがないな」
リズも私も、この面は気になっていたがサイコロという性質上、運が悪いと全然出せない。
「サイコロの目はきほんてきには白色なんだ。
でも、その面がでると黒にかわっちゃう。
そして、黒色の面は上になっても魔法陣をださないんだ」
「えー、一回しか使えないってことー?
どうしよう、もうだいぶ使っちゃったかも……」
「それをリセットするのが、レジェロの面なんだ!」
「なるほどー。
じゃあ、レジェロの面を出せば何回でも使えるんだー!」
「だせれば、だけどね」
「何ともまあ、面倒くさい……」
リズがサイコロを眺めながらため息をつく。
「リズっち、この面には、もっとめんどうくさいことがあるんだよ!」
「なに、もっと?」
「うん。自分がサイコロで出したものが、ぜんぶきえるんだ!」
「え?」
「メアちゃん、消えるって?」
「メアもはじめびっくりしたんだよ。
この面がでたと思ったら、杖とかテントの下に魔法陣があらわれて、どんどん消えていくの!」
「あー……、じゃあさっきの白と黒の話を合わせると、どれも同時に一個までしか出せないってことか」
「リズっち隊長のいうとおり。
水とか食糧とか、さすがにたべたものはきえないけどね。瓶とか袋はきえるけど」
「メアちゃん、だいぶ研究してるねー」
「うん。ふしぎがいっぱいあったからな!
この前エルフィーが魔晶石の効果をしったときみたいに、メアもいろいろためしてみたんだ」
「助かるよメアちゃんー!
学院側も説明くれればいいのにねー」
「それも含めて試験なのかもね」
「たしかに、そう言われてみればそうかも」
「探索する時は6の面が出るまで振って杖を手に入れて、夜は3、喉が渇いたら2……みたいにしていく感じかな」
「レジェロの面がでたらおーるりせっとだ!」
「なかなか厄介な魔法具だ。
夜中にテントが消えたら危険すぎるし、慎重に振るようにしていこう」
「らじゃーリズっち隊長!」
「了解ー!」
「あとサイコロはなくさないようにね。
これだけ小さいと無くなっても気づかないから」
「はい! しっかりと身につけておきますー!」
「わかりましたたいちょう!」
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