第34話 街の外

 学院が位置するヘヴリッジ市内の東側を三人で並んで進む。

 赤色の屋根に白の壁を持つ木造の二階建てがずらっと並ぶ住宅街。

 高低差のある街並みで、石でできた階段を上ったり下ったりする。

 西の商業区よりかは少ないが、人間、獣人、ドラゴニュートなどたくさんの人達が行き交っている。

 

 しばらく歩くと街の外が見えてきた。

 市内を囲うように作られた高い壁の間にいくつか点在する、外へと繋がる門。

 基本的に日中は開放されていて、自由に行き来することが出来る。

 

「ようやく街を抜けられるねー」

 

「ここからが本番だよ」

 

 東側の門の奥に広がるのは一面の緑、フローラリア平原。

 門から続く道の脇には、風に揺らぐ草、花。

 ラビットやスライムが群れをなしてまとまって生活している。

 草原の奥には高い木々が生い茂る森林と、そびえ立つ山。

 暑さを忘れてしまうほど青く澄み渡った空を、鳥たちが自由に翔ける。

 これから、私たちもあの鳥のようにこの広い世界へ飛び込んでいく。

 危険は沢山あるかもしれないけれど、壁に守られている生活とは一旦お別れだ。

 自分たちの力だけで、この試験を乗り越えていくんだ。

 

 門を抜け、外の大地を踏みしめる。

 手を横に広げ、胸の奥まで空気を吸い込む。

 

「ひっろーい!」

 

「やっぱり本物は違うね。

 学院内の草原とは比べ物にならないくらい大きい」

 

「みぎもひだりも、ずっと草原がつづいているな!」

 

「なんだか、冒険って感じがするねー!」

 

「そうだね。探検隊というよりかは冒険隊かもね」

 

「ではでは冒険隊隊長リズっち、例のあれの出番ではないですかー?」

 

「たいちょう!」

 

「そうか、どのみち隊長か。

 何でもいいけど」

 

 リズがごそごそとリュックサックから一冊の魔導書を取り出す。

 私もよく見慣れた、ゴーレムの魔導書だ。

 

「これが私たちの独創性に加点されればいいけど……」

 

 リズは魔導書を開き、いつものようにゴーレムを召喚する。

 私の身長のおよそ2倍、全身が岩石の組み合わせでできた人型のゴーレム。

 大きな岩が体となり、それを支えるように石で出来た足が生え、腕が横から伸びている。

 顔のようなものは無いが、体の中央にある緑色に固まった魔素がどこか愛嬌を感じさせる。

 

「ほんとに三人も乗れるのかなー?」

 

「任せて。ゴーレムに出来ない事は無いから」

 

「メアはちょっとこわいな……」


 ゴーレムに乗って草原を進むというのは、確かに速そうだが危険も伴っている。

 でもこの案を出してきたリズの自信満々な顔を思い返してみると、作戦会議中に否定することはどうにも出来なかった。

 そして現在進行形でリズの至って真剣な顔を見ると、今でも止めようなどとは決して言えない。

 

「まずは責任を持って私が乗ってみる」

 

 リズが魔導書のページをペラペラとめくりゴーレムを操作する。

 ゴーレムの腕が体の前面に回り、あそこに座れば比較的安定して乗れそうだ。

 低姿勢となったゴーレムにリズがよじ登る。

 たいらとなった腕の上に腰を下ろしてゆっくりと魔導書に手をかける。

 ゴーレムは一歩一歩平原を前進し、リズを運んでいく。

 

「待ってー!」

 

 思っていたよりもゴーレムの動きは速い。

 ゴーレムの後を走って追いかけるが微妙に追いつけない。

 みるみるうちにゴーレムとの距離は離れていった。

 

「ちょっとー! リズー! どこまで行くのー!!」

 

「リズっちー!!」

 

 走るのをやめリズへ叫ぶとゴーレムは止まってくれた。

 かと思えばその場で旋回して、こちらまで帰ってきてくれた。

 

「器用だねーリズ」

 

「慣れてるからね」

 

「こわくない?」

 

「少し高いけど、これくらいなら気持ちいいくらいだよ」

 

「私も乗ってみるー。

 ほら、メアちゃんも!」

 

「うん」

 

 ゴーレムが姿勢を下げてくれて、私たちも腕のところへよじ登る。

 

「じゃあ、動くよ」

 

「おっけー!」

 

「うん」

 

 ゴーレムが立ち上がり、景色が下へずれる。

 少しの浮遊感とともに一歩一歩、前へと進んでいく。

 ゴーレムが動くたびに歩く振動が体に伝わってくる。


「おおー、結構速いねー」

 

「これなら森まですぐ着きそうだよ」

 

「うぅ……エルフィー……」

 

 メアちゃんは怖いのか、私の腕を両手で握っている。

 

「大丈夫だよメア。私のゴーレム愛を信じて」

 

「うん……。しんじてるけど……」

 

「きっとすぐ慣れるよ!

 ほら、景色も綺麗だしー!」

 

 少し視線が高くなっただけなのに、地面から見えた景色とはまるで違う。

 遠くの方まで見渡すことができ、草原にある湖なんかも目に入る。

 

「なんか……めだつね」

 

「何を言ってるのメアちゃん!

 目立ってなんぼってもんよー!」

 

「そう。独創性っていうのは他の人と違う新しいことをするってこと。

 これは間違いなく加点だね」

 

 草原には何人かレジェロの生徒がいるが、歩いている人が大半だ。

 中には馬に乗ったり、ライドウルフに乗っている人もいるがゴーレムに乗っている人は流石に居ない。

 そもそもゴーレムの多くは戦闘用で、乗れるようになど作られていないはずだ。

 まあ、リズにかかればそんなこと関係ないんだろうけど。

 

 ゴーレムの上で雑談しつつ、一時間ほど経っただろうか。

 最初の関門、フローラリア森林が近づいてきた。

 気を引き締めて、森の方へと進む。

 

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