第26話 湖の中

 頭の先まで水に入り、カメも泳ぎ始めた。

 置いていかれないように甲羅を掴み、水中に慣れていくしかない。

 苦しくなったらアメを舐めて呼吸を確保する。

 ゴーグルの稼働も順調だ。

 カメのような魔導生物や魔導書なんかは特に大量の魔素が入っているため、お互いの位置は遠く離れていてもはっきりと分かる。

 リズもメアちゃんも必死に甲羅にしがみついているように見えた。

 いま魔物なんかが現れたら間違いなく体勢を崩してカメからこぼれ落ちることだろう。

 

 数分経ち、カメのスピードも速いながら安定してきた。

 押し寄せる水の感覚にも慣れて、ようやく足を伸ばせるようになってきた。

 カメの上に正座し、体を丸めるようにしがみついていたが、椅子に座るように体を起こす。

 足を伸ばした方がブーツを活用出来るため、基本の姿勢はこうしようと三人で決めていた。

 私が基本の姿勢になると二人も気づいたのかカメに跨るように座るようになった。

 カメから落下することも無く、基本の姿勢を維持できていた。

 

 メアちゃんのキャンディがリンゴ味からオレンジ味に変わったので、入水から二十分くらい経ったということだろうか。

 普段見ることの出来ない学院の湖の中を探検できているのは新鮮だ。

 アメもまだまだ舐め終わる気配もなく、カメの上で水中遊泳を楽しむ。

 学院内にあるということだけあって、水の中は澄み渡り散りばめられた岩や砂が目に入る。

 魔導生物かと思われるような色とりどりの魚が水草の間を行き交っている。

 最初こそ大変だったものの、慣れてしまえばさながら空を飛んでいるようで気持ちがいい。

 

「E q enag?」

 

 ゴーグルに文字が浮かび上がった。

 余裕がなくて忘れかけていたが、三人で会話ができるようにゴーグルにチャット機能を付け加えていたんだった。

 ヘヴリ語は難しかったので、魔素語で会話することにした。

 言いたいことを魔素語に翻訳してゴーグルに思念魔素を与えることで他のゴーグルにも同じ文字が表示される。

 今回の文字は緑色なので、リズが送ってきたものだ。

 意味は「お元気ですか」ということなので、私も返事をする。

 

「enag!」

 

 私は青色なので青文字で「元気!」と送る。

 

「enag」

 

 赤紫の文字はメアちゃんのものだ。

 とりあえず、ゴーグルチャットも正常に機能してるみたいだ。

 しかし、魔素語で会話するのは大変だ。

 言いたいことを魔素語に翻訳して、そして送られてきた魔素語を翻訳する必要がある。

 私が知らない魔素語が出てきたらどうしようか。

 

「aQur Insl mystqi」

 

 また緑色の文字。リズからだ。

 意味は、えーっと、「aqur」は水で「insl」は中かな?

「mystqi」は六文字だから形容詞だと思うんだけど、なんて意味だろう……。

「水中がなんとか」ってことだろうけど。

 

「ust」

 

 赤紫色の文字ってことは、メアちゃんのものだ。

「ust」は理解するとか分かるって意味だったっけ。

 え、リズの言ってることが分かったってこと?

 私も「ust」と言っておくか……。

 

「ust」


「A w m pex, Alaranoy usp mAca KoTo」


「unrtki Uspto jovcli!」


「c fOMl Aa' Curas jx timu」


「A agr. YY w distra mov」

 

 ちょっとちょっと。

 二人だけで会話しないで欲しいんだけど。

 何を言ってるかさっぱり分からないんだけど。

 とりあえず、「ust」と送っておこう……。

 

「ust」


「E w kna C f?」


「S y w ust ntelo...」

 

 うーん、うーん、魔素語難しいよー。

 最後のメアちゃんの文章は「彼女は書いてあることが分かってないかもしれない……」って、その通りだよ!

 もう決めた。

 絶対期末試験までにヘヴリ語に対応させてやる……!

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