第25話 魔物討伐練習

 中間試験が終わってから、休む暇もなく期末試験に向けて準備を進める日々。

 七月の中旬、中間試験から二週間ほど経ち、試験に必要な魔法具の制作もだいぶ形になってきた。

 今日の授業も終わり、リズと部室へ向かう。

 

「明日って討伐練習の日だよねー」


「そうだね」


「時が経つのは早いなー。まだ昨日入学したくらいの感覚だよー」


「それは中々時間が進んでないね。もう学期末だよ」


「ああ、一年生が終わってしまうー!

 時よ止まれー!」


「そんな魔法が使えるわけ……」


「……え?」


「こういうこと言ったら止まるかなって思って」


「なんだよーリズ。ちょっと期待したじゃんー!」


「この前の瞬間移動の魔法みたいにはならなかったか」


「あれはびっくりしたねー!

 私もやってみたいけど、まず魔法陣が作れないよー」


「やっぱり瞬間移動は魔素が大量に必要だから、魔法陣くらい魔素を多く扱う方法じゃないと出来ないんだろうね」


「うんー。それを一日に何回も出来ちゃうメアちゃんなんて子なんだ!」


「ヴァンパイアは並外れた魔力を持ってるみたいだからね」


「ヴァンパイアがどうかした?」


「あ、メアちゃん!

 私たちもヴァンパイアみたいに魔法陣作りたいなーって話をしてたんだー!」


「なるほど。教えてあげたいけど、ことばにするのはむずかしいっていうか、メアが教えるのへただから」


「いやいや、大丈夫だよー。

 使えたらいいなーって話だったから!」


「そう、妄想話」


「ごめんね、ちからになれなくて」


「メアちゃんが使えるだけでも十分力になってるって!」


「そうか」


「うん。それでね、メアちゃんも来たし、明日のことなんだけどー」


「魔物討伐練習のはなしだな?」


「そうそう。明日は一日自由に魔物と戦えるみたいだから、いま作ってる魔法具を完成させちゃって、実際に戦ってみようと思うの!」


「おお、じゃあアメもしっかりとしたのを作ったほうがいいな」


「うんうん。私もゴーグルとブーツを三つずつ作っちゃうからー!」


「魔導書も書ききるよ」


「いいねー。それぞれ分担して、明日が本番だと思って魔物を倒そう!

 エルフィー討伐部隊、出撃ー!」


「おー!」


「エルフィー討伐……?」

 

 ◇

 

 レジェロ魔法学院の大図書館の奥、湖エリア。

 対岸が見えないほど広く、底も目視できないほど深い湖。

 これが学院内にあるというのだから、この学院の広大さが伝わってくる。

 この広さは、何も知らない人がここに連れてこられたら海だと答えてもおかしくはない。

 唯一の違いは砂浜がなく、岸に草木が生い茂っていることくらいだろうか。

 

「ひっろー!」


「もはや海だね」


「そうだな、これはうみだ」

 

 知っている人ですら海と答えるほどだ。

 大図書館の横を通るとすぐに湖エリア。

 今日は第一森林エリアや山岳エリアでも魔物が現れるらしいが、私たちは湖エリアで海の魔物の練習をしにきた。

 開始後真っ先にここに来たのでまだ誰もいない。

 

「早速、始めようかー!」

 

 湖に駆け寄り、腰を下ろす。

 手で水に触れてみるとそんなに冷たくない。

 もう七月で夏真っ只中。

 それに今日は快晴なため水温も高くなっている。

 

「じゃあみんな脱いでー!」

 

 リズとメアちゃんが睨みつけてくるが、事前に言ったはずだ。

 

「なんでよ、水着着てきたでしょー?」


「うん。でもみずうみで水着は恥ずかしいな……」


「湖も海も同じようなもんだってー!

 ほら、周り誰もいないし、はやく入った方が己のためだよー!」

 

 二人とも何故か恥ずかしがってるので、私から制服を脱ぐ。

 この水着はこの前三人で買ってきたものだ。

 白色の生地に大きな可愛い水色のリボンがついたビキニだ。

 水中の中を移動するということで、紐はしっかりとしたのを選んだ。

 リズもメアちゃんもようやく脱いでくれた。

 リズは黄緑色のフリルがついた水着に、下半身はホットパンツを履いている。

 メアちゃんは黒いワンピースで、赤いアクセントがあってとても可愛い。

 

「みんな似合ってるよー!」


「だれもいなくてよかった」


「水中戦闘の授業だと思えば……」

 

 脱いだ制服はメアちゃんの魔法陣で家へ送っておく。

 瞬間移動の魔法の確認もバッチリだ。

 

「メアちゃんありがとう!

 それじゃあリズ、魔導生物の方よろしくー!」


「分かった」

 

 リズがお手製の魔導書を開いて力を込める。

 開かれたページが発光して、魔素が寄り集まっていく。

 緑色の甲羅に頭と四足を生やした魔導生物――カメが召喚された。

 

「お、できたねー」


「あと二匹」

 

 続けて二冊魔導書を開いて、同じように召喚していく。

 三人の目の前にそれぞれ一匹ずつカメが現れた。

 

「大きいねー」


「これならのれそうだな」

 

 カメは人が一人甲羅に座れるくらいの大きさで、陸地で見るとかなり大きい。

 

「はい。二人ともこの魔導書を持っておいて」


「おっけー!」


「わかった」

 

 リズからカメの魔導書を渡される。

 この魔導書は閉じるとコンパクトサイズで片手で持てるくらいの大きさだ。

 防水式の魔導書で、結構なお値段らしい。

 水の中を移動する際にどこか行かないように紐で腰に括りつけておく。

 

「じゃあ、このブーツ履いて、ゴーグルつけてね」

 

 私が持ってきた水中を移動できるブーツと魔素が見えるゴーグルを装備する。

 ブーツの仕組みは単純で、側面の水をブーツの裏側に押し出すものだ。

 足の向きを変えることで進行方向を簡単に変えられる。

 

「うわ、まぶしいな」


「そうだねー。でも水は光ってないし、これなら大丈夫そうだね」


「魔導書とか見ると目が痛くなるね」

 

 魔素が見えるゴーグルを全員つけて、装備品はすべて装備し終わった。

 

「最後にメアちゃん、よろしく」


「うん! はいこれ。メアのスーパーキャンディ!

 魔素のちからでとけにくくなってるし、とちゅうで味もかわるようになってるんだ!」


「味変わるんだー! そんなことも出来るんだね」


「そう、おもしろいかなとおもって」


「いいね、同じアメを舐め続けるのも飽きちゃうし」


「どれくらいの時間食べれるのー?」


「メアが試しになめてみたところ、ひとつで一時間はいけたな。十個いりだから、十時間だな!」


「わ、すごいねー。私が作ったのはせいぜい十五分だったのに!」


「これが魔力の違いか」


「でも次のをなめるときは顔を水からだしたほうがいいな。

 みずうみのみずを飲むのはよくないからな」


「そうだね。一時間に一回くらいは上がらないとねー」


「……三時間くらいでつくといいな」


「それはカメさんの速さによるよー」


「カメは水の中では結構速いよ。この子達は時速二十キロくらいでて、ビーチからウォロアーク島まで大体百キロだから……五時間か」


「五時間も水の中かー……。過酷だなー」


「十個ずつ作っておいてよかった」


「でも今回は中央の島は見えてるし、五時間もかからないと思う。

 一時間くらいで着くんじゃないかな」


「いい練習になりそうだねー。みんな、武器の準備はいい?」


「ここに魔導書がもう一つ」


「メアは魔術で」

 

 私はいつもの魔弓だ。

 水の中でも矢が真っ直ぐ飛ぶように、つたないながら魔素語を書き加えておいた。

 

「それじゃあ、心の準備はいい?」


「うん」


「もんだいない」


「よーし、エルフィー討伐部隊、入水ー!」

 

 それぞれカメの上に座って、魔導書に力を込める。

 カメはゆっくりと湖に入っていき、私達も徐々に水に浸かっていく。

 アメも舐めて、ゴーグルもして、ブーツも履いてるがちょっとだけ怖いものがある。

 それでも、自分達が作った魔法具を信じて湖の中へと進んでいくのだ。

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