第24話 エルフィーズキッチン

「先に部室行っててー」


「了解」


「おっけー」


 二人を部室に行かせて、私は食堂へ寄る。

 売店にあるを買って部室へ向かう。


「お待たせーって、もうちょっと待ってね」


 準備室に行き、ボウルを探す。

 この前フライパンを貰うとき横にあったのを確認していたので、すぐに見つけられた。

 誰にも使われていなかったようだ。

 蛇口でボウルに水を満たして、いつもの机で待機してるメアちゃんに話しかける。


「メアちゃん、そのフライパン貸してくれないかな?」


「いいぞ。でもエルフィーこれつかえるの?」


「うん。ちょっとくらいなら私だって使えるよー!」


 フィリオ――フライパンに流れる魔素を感じ取る。

 マギナ――調理できるほど熱く、外気温のおよそ六倍、いや七倍、百五十度くらいの熱を想像する。

 アルパ――実現する。魔素に力を込めて、想像を具現化する。

 フライパンは無事温まってきた。

 でもさすがにメアちゃんがやるように、空中で作るほど魔素は余っていないので鉄製のスタンドの上に置いておく。

 アルミカップをフライパンに三つ置き、さっき買った白い粉――と水、そしてさらにフィリオ、マギナ、アルパをした思念魔素を封入する。

 しばらく待つと甘い匂いが漂ってきた。

 どうやら成功したみたいだ。


「それはアメ?」


「うんうんー」


 色が黄金色になってきたので熱を止める。

 魔法具改め魔法料理――アメの完成だ。


「エルフィーあがりよー!」


「それは“めあがりよ!”をやりたかったのかな?」


「うん」


「うーん……」


「いーじゃん! ほら、食べて食べてー!」


「わー、いただきまーす」


「いただきます」


 私もアメを食べる。

 うん、甘くて美味しい。

 このレシピで失敗しようがない。


「でもこれがどうしたの? 試験と関係あるの?」


「いまアメを食べたでしょ?」


 口の中にアメがあることを確認して、水を張ったボウルに顔を突っ込む。


「え、エルフィー?」


「エルフィー!?」


 ぶくぶくぶくと息を水の中で吐く。

 何秒か息を止めて、呼吸が苦しくなってきたのでアメを舐める。

 入れた思念魔素が正常に働いているなら――息が楽になった。

 また息を吐き、アメを舐める。

 これをアメがなくなるまで繰り返す。


「エルフィー大丈夫? 気失ってない?」


 顔を水につけたまま、息を吐き出し、アメを舐める。

 何回やったか覚えてないが、五分くらいは経っただろうか。


「ぷはっ!」


「大丈夫? もしかしてこのアメが?」


 呼吸を整えて説明をする。


「そう! このアメには魔素を含ませててね、舐めると空気になるんだ!」


「なるほど。だから水の中で呼吸ができるようになると」


「うんうん。実際、いま出来てたでしょー?」


「ほほー、メアもやってみる」


「うん。やってみてー!」


 メアちゃんも同じようにボウルに顔を沈ませてぶくぶくと息を吐く。

 アメを舐めたのか、再び泡が水面に浮き上がる。

 何分かして顔をあげた。


「すごいよエルフィー!

 アメをなめたらくるしくなくなった!」


「よかったー! どう? この水中呼吸のアメは」


「いいね。私もやってみよう」

 

 リズもボウルに顔を入れて水中呼吸のアメで耐久する。


「……リズ?」


 十分くらい経ったが、リズが上がってこない。

 私のアメはもう無くなっているのに、まだアメを舐め続けているのかな。


「っぷはーっ……」


 合計十五分くらい顔をつけていただろうか。

 まったく、負けず嫌いなんだからー。


「長かったねーリズ。私なんてとっくに舐め終わってたのに」


「はぁ……。どこまで耐えられるかなと思って……」


「リズっち息切れしてるじゃん! がんばりすぎだって〜」


「私は……本製品の……限界を知りたくて……」


「ありがとうねリズ。リズのおかげで結構時間持つことが分かったよ」


「いまリズっちは十五分くらい顔つけてたから、ひとつで二十分くらいもつのかな」


「そうだねー。アメを大きく作るか、もっと魔素を入れられたら三十分くらいはいけるかもー!」


「おおー、それなら水中をすすんでいけるな!」


「このアメは舐め方が大事だね。

 一舐めで結構楽になるから、口の端っこに置いといて、限界が来たらちょっと舐める感じ」


「ああ、そうやって長く潜水できてたんだね」


「うん。最後の方はアメ無くなってたけど」


「それもうただの潜水じゃんー!」


「リズっちのきあいすごい……」


「ひとまず、呼吸の問題はこれでいけるかなー!

 次は視界だね。これは実はもう案があって、リズ、覚えてる?」


「んー。視界で言うなら、体育祭のメガネ?」


「おー、よく覚えてるしよく分かるねー。

 そう、あの魔素が見えるメガネの構造をそのままゴーグルに使うの」


「魔素がみえるめがね?」


「うん、体育祭の部活対抗的当てで私メガネかけてたでしょ?

 あれ私が作ったやつだったんだ」


「そういえばつけてたような、つけてなかったような……」


「あはは、まあそのときはあんまり関わりなかったもんね。

 あのメガネはね、視界に入った魔素を光らせて強調する機能がついてるんだー」


「へー、エルフィーはあの時からもうはつめいかだったんだ!」


「あれは先輩に手取り足取り教えてもらいながら作ったやつだけどねー。

 でも作り方は覚えてるし、メガネじゃなくなっても作れると思う」


「そうか、魔素が見れれば地形とか魔物は見えるようになるのか」


「その通りリズ。海水が魔素まみれだったら使えないけど、水って魔素そんなに入ってないし、大丈夫でしょ!」


「なるほど。これで呼吸と視界は行けた、と」


「あとなんだったっけ?」


「あとはー、移動用のブーツと魔導生物だねー」


「魔導生物なら私ができるかも」


「確かに、リズ昔は魔導生物よく使ってたもんね」


「うん、それに今なら魔導の知識もある」


「おー、リズっちたのもしい!」


「じゃあそれはリズにお願いしようかな。

 ブーツは私が作るから、メアちゃんにはアメの改良をお願いしたいな」


「おお、メアも何かできるのか」


「うん。私よりずっと魔素があるから、もっといいものが作れると思うんだー!」


「メアのアメか……」


「なにリズ? なんか言った?」


「メアのアメ……」


「メアちゃんまで! 別に他意はないからね!」


「まあ、いいけど」


「メアもいいけど」


「もう二人ともー!

 そんな舐めた態度だと試験突破できないよー! アメだけにね!」


「よし、じゃあ作業しようか」


「メアズキッチンかいし〜」


「二人とも厳しい! もっと甘やかしてよー。

 そう、アメのように――」


「エルフィーうるさい」


「さとう買ってくるね」


 二人ともひどい……。

 傷ついた私の心にが降る――アメだけに。


「エルフィーうるさい」


「聞こえてんの!?」

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