便利な魔法の作りかた!

鹿毛ろう

第一章 魔導創作部

第1話 レジェロ魔法学院

 誰かのために、魔法を作る。

 私は今まで魔法を使ってばっかりだったけど、誰かの役に立つ――そんな便利な魔法なら、作ってみたいかも。

 

「今日から始まるんだ」


 鏡を見ながら長い青髪を後ろで結ぶ。


「いい感じ」


 過去最高の出来栄えのポニーテールを見届けて、頬をぺちっと叩いて気合を入れる。


「おはようー! リズ!」


 玄関で待ってくれていた中等部からの友達、リズに大きく手を振る。

 リズは緑髪のセミロングで、小動物のように小柄で可愛い。物静かそうに見えるけど、意外とよく喋る。


「おはようエルフィー。元気だね」


「今日という入学の日を待ち望んでいたからねー! リズは楽しみじゃないの?」


「もちろん、私も楽しみだよ」


「新しい魔法、新しい景色、新しい……えーっと、とにかく、新しい生活が始まるんだよ!」


「うん。楽しくなるだろうね」

 

 校門に着くと、高等部入学式と書かれた看板が置かれていた。


「わー、人たくさんいるね」


「入学者は……二百人くらいだったかな」


「二百人もいるんだー! 友達百人できるかも!」


「良い人に出会えるといいよね」


「こんなにいっぱい、どんな人がいるんだろー?」


「レジェロ魔法学院には世界中の人達が集まってくるから、特に高等部には中等部と違って色んな種族もいるだろうね。

 獣人とか、ドラゴニュートとか」


「ドラゴニュート! 私、ドラゴニュートに会ってみたいなー!

 たまに飛んでるのを見かけるけど、どんな気持ちか聞いてみたい!」


「ドラゴニュートは翼が大きくて、角まで生えてるからちょっと怖いよね」


「うんー。でも、そんなに怖くないと思うんだけどなー」


「そうだといいね」

 

 校舎の入口にはクラス分けが貼りだされている。


「どれどれー。あ! 私はDクラスみたいー!」


「お、私もDクラスだ」


「おおー! また一緒のクラスだね! 末永くよろしくー!」


「うん。よろしく」


 リズと同じクラスになれたことに安心感を覚え、私たちはそのまま入学式が行われる体育館へ向かった。


「――入学おめでとう。君たちは我がレジェロ魔法学院高等部へ入学した。

 この学院の信念である『感じなさい。想いなさい。作りなさい』を忘れずに、レジェロの生徒としてこれからの学院生活を過ごしてもらいたい――」



 長い長い入学式も終わり、私たちは教室で最初のホームルームを受ける。


「はじめまして〜。私の名前はレナータっていいます〜。

 今日からこのDクラスの担任になります。よろしくお願いしますね〜」


 知らない人が多くいる中、先生の落ち着いた話し方で少しずつ緊張は解けていく。


「これからの予定ですが、今日はこのクラスでオリエンテーションをしま〜す。

 そしたらもう今日はおしまいです!

 部活動に興味がある人はその後、体育館に行ってみるといいかもね〜」


 茶髪で高身長のレナータ先生は、どこかおっとりとした調子で話を続けていった。


「はい! ではオリエンテーションをしましょう〜。

 ついでに、この学院についても説明するね〜」


 学院の説明がついでなのかと思いつつ、クラスを見回した。

 同じクラスではあるものの、私とリズの席は少し離れていた。後ろの方からリズに笑顔を送っても、リズは気づかない。

 かと思えば、何やら机の下で小さく親指を立てている。

 もしかしたら彼女は魔法使いなのかもしれない。


「まずは私からね〜。私の名前はレナータ・アレグレット。

 ここの卒業生なの。私は魔術の方が得意で、水の魔法が使えるのよ〜。ほら、えいっ!」


 先生の指先から水が出て、教室の後ろにある観葉植物にまで届いた。


 ――速い。


 私が抱いた感想はそれだった。

「えいっ!」などと可愛らしく言っていたが、言ったのは水が植物に着いてからなのだ。

 この距離を、この速さで、しかも植木鉢という狭い範囲に水を注ぎ込む……。

 やはり、先生ともなると魔法のレベルが違う。


「じゃあ廊下側の前の人から自己紹介、簡単にやっちゃおっか!

 私みたいに魔法を見せる必要はないからね〜」


 順番に自己紹介をしていくクラスメイト達。たまに、知ってる名前が聞こえる。


「私はリズ・リゼッタ。好きな魔法は召喚魔法。ゴーレムをよく出してる。

 最近の目標は、ゴーレムに弓を撃たすこと。みんな、よろしく」


 簡潔な挨拶の割に、ちょっと小ボケを入れるところがリズらしい。

 入学試験のときに聞いたけど、クラスのみんなには結構ウケてるみたい。ゴーレムが弓って、ねぇ……。

 ぱちぱちと小さな拍手が聞こえ、自己紹介は続いていく。


「俺はロベルト・シュラール。魔弓まきゅう使いだ。

 魔法には自信があるから、何か困ったことがあったら聞いてくれ。みんな、よろしく頼む」


「僕はマルクっていいます。マルク・シルヴェストリです。

 召喚魔法が得意で、動物とかを召喚するのが好きなんだ。皆さんよろしくお願いします」

 

「――じゃあ次は最後ね。そこの席の方どうぞ〜」


「はい! 私の名前はエルフィー・レガートっていいます。エルフィーって呼んでください!

 魔弓まきゅう使いで、魔弓が好きです!

 みなさん、これからどうぞよろしくお願いします!!」


 ちょっとばかりテンションが上がってしまった。


「は〜いみんなお疲れ〜。いい自己紹介だったよ〜。

 魔法を見せてくれる人はいなかったけど……」


 いやいや、あれ見せられたら迂闊うかつに出せないでしょ。


「じゃあ、自己紹介も済んだことだし、この学院について説明するね〜」


 まず、魔法には大きく二つあるみたい。


魔術まじゅつ』と『魔導まどう

『魔術』は普段私たちが使っているような、いわゆる魔法――決まった作法通りに、ものを動かしたり出したりするもの。

 そして、『魔導』とは魔法の根源である魔素まそそのものを理解し、魔法具や魔導書を新たにもの。


「みんなが三年生になったら、どっちを学びたいか決めてもらうよ〜。

 魔法をバンバン使いたい!って人は魔術だし、新しい魔法を作ってみたい!って人は魔導がいいかもね〜。

 これからの二年間、みんなそれぞれよく考えてみて〜」


 魔術と魔導かー。魔法って作れるものなんだ……。


「そうそう、それとこの学院も学院らしくテストがあります!

 入学試験みたいな実技のテストもあるし、知識が問われるペーパーテストもあるから、授業はちゃ〜んと受けとくんだよ?

 魔法使いにとって、知識を持ってることも、知識を使えることも、どっちも大切なんだから!」


 中等部のときもテストはあったけど、入学試験を見る限り、難易度は高くなるんだろうなー。


「あとは、みんな大好き体育祭とか、文化祭とか、楽しいイベントもたくさんあるよ〜!

 これから三年間、魔法と一緒に学院生活を楽しんでね〜」


「――じゃあ、これでホームルームは終わりです!

 このあと十二時から、体育館で部活動、サークル紹介があるから、行っといた方がいいかもよ〜? では解散!

 明日は八時集合です。ホームルームに遅れないようにね〜」


 ホームルームが終わり、少し考え事をしていると、リズがやってきた。


「なにか考え事でもしてたの? エルフィー」


「いや、大したことないよ。それより、みんないい人そうでいいね」


「なんだそれ……。でもまあ、確かに第一印象が悪そうな人はいないね」

 

 魔法を作る。私は今まで魔法を使ってばっかりだったけど、どこかには、この魔法を作った人がいる。

 魔導士まどうし――魔法を作る職人。


 なんか、かっこいいかも……!

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