第20話 メアズキッチン

「できたー!」


「できた!」

 

 空飛ぶフライパンの制作を開始してから一週間、試行錯誤を繰り返しながら完成させることができた。

 分からないところは教科書を読んだり先輩に聞いたりして理想に近づけることが出来た。

 

「リズにお披露目しようか」


「そうだね! リズっちよんでくる!」

 

 メアちゃんがリズの手を引いてやってくる。

 遊園地で早く遊びたい子どもとその親のようだ。

 

「なにか出来たみたいだね」


「うん! リズっちにはずっとだまってたからね」


「リズもこれにはびっくりすると思うよ〜」

 

 メアちゃんが鞄から食材を取り出す。

 タマゴ、ベーコン、パン、バターとチーズだ。

 

「ようこそおあつまりいただきました!

 メアズキッチンのお時間でございます!」


「おお」

 

 メアちゃんは空飛ぶフライパンを手に持ち、力を込める。

 見た目では分からないが、フライパンは熱くなり始めているのだ。

 バターを乗せると一目瞭然、いや一匂瞭然。次第にとろけ始めバターの匂いが部室内に充満する。

 

「よいしょ」

 

 パンにチーズを挟むためにメアちゃんはフライパンから手を離す。

 

「あ、危な……くない?」

 

 メアちゃんの行動にリズが思わず声を上げる。

 しかしリズの予想とは裏腹に、フライパンは空中で浮いたままバターを溶かし続けている。

 このフライパンは手で持っていなくてもそのまま留まる、パンなのだ。

 

「……いやでも逆に危なくない?」


「あははー」

 

 チーズの挟まったパンが投入される。フライパンは何にも支えられずに、その場で静かな音を奏でている。チーズが溶け始め、パンから顔をのぞかせる。

 

「見てると腹が空いてくるし、ハラハラもする」

 

 リズは結構心配性だったりする。

 フライパンには残りのバターが入れられ、その上にベーコンとタマゴが襲いかかる。

 ベーコンはパチパチと鳴り響き、メアズキッチンは魔創部の注目を集めていた。

 

「いい匂いだね〜!!」

 

 ミラ先輩もやってきた。

 普段は魔弓を作ってる二年のセアン先輩も料理の様子を見に来たみたいだ。

 黄金色のパンの上にベーコンとタマゴが乗せられ、コショウが振りかけられる。

 見るからに美味しそうなベーコンエッグトーストの完成だ。

 

「めあがりよ!」

 

 腰に手を当て、ピースから目を覗かせて決めポーズを取るメアちゃん。

 観客(部員)からは拍手が起こる。

 

「美味しそうー!!」


「何でも作る魔創部だが、料理するやつはなかなかいなかったなー」

 

 セアン先輩もテンションが上がっているようだ。

 

「わわ、先輩方まで! よかったらたべますか?」


「いいの?? 食べたい食べたい!!」


「俺にもくれるのか? なら頂こうかな」


「どうぞどうぞ! みなさんどうぞ!」

 

 メアちゃんはナイフとフォークを取り出して、いくつかに切り分ける。

 リズと私も一切れ貰う。

 

「わ、美味しいー!」


「美味しい!! すごいねメアちゃん!!」


「おお。爽やかなバターの香りと丁寧に焼かれたパン。

 ほんのりとある焦げ目がベーコンエッグトースト全体をまとめ上げていて味も引き締まっている」

 

 なんかリズがうるさくなった。

 

「そしてこのハリがありどこか広大な草原を感じさせるチーズ。

 ああ、私はいまルーベンシャイアの高原にたたずむちっぽけな少女」

 

 続けるのか。

 ちなみにルーベンシャイアというのは今いるヘヴリッジのだいぶ南、人間と獣人が行き来する平野のことだ。

 草原を感じてルーベンシャイアを思い起こすのは分からなくもないが、チーズを食べて思い起こすかは微妙。

 

「それでいて食欲のそそるベーコンの上でとろとろに溶けた卵。

 まるで王城の姫が大きなベッドの上で惰眠なさっているかのような安堵感」

 

 セアン先輩も乗っかってきた。姫?

 

「王城の兵士ともいえるコショウがピリリと効いて姫の安全を守っているんだ」


「そう、これは完成された秩序……」


「それに魔法具によって作られているから新鮮な魔素も含まれている……」


「そうさ、これはただの食べ物ではない。食べる魔法具だ……」


「全身に染み渡る塩分……」


「体躯を駆け回る魔素……」


「「合格」」


「それ流行ってるのー!?」

 

 思わずツッコんでしまった。ボケ長いよ。

 

「みんなありがとう! 合格できてメアもうれしい!」


「うん。メアの料理美味しかったよ」


「メアっちは流石だな。これだけの魔素を扱えると出来ることも多いってもんだ」


「それにしてもいいもの作ったねメアちゃん!! それならどこでも料理出来ちゃうんだ!!」


「はい。エルフィーといっしょに作ったんです」


「うんうん見てたよ!!

 どうだった? 初めての魔法具作りは大変だった??」


「大変は大変でした。やっぱり手をうごかしてみるとうまくいかないこともおおくて、どうしてうまくいかないんだーとかもおもってました」


「うんうん」


「でも、先輩やエルフィーもてつだってくれたからこうやって完成できたし、みんなにりょうりもふるまえた」


「うんうん!!」


「とても、楽しかったです!」

 

 フライパンを片手にニッコリ笑顔を見せる。

 口元からみえる八重歯が白くキラキラ輝いていた。

 自分の作った魔法具で、誰かを喜ばすことが出来るのが魔導の魅力だ。

 普段は一人で魔法陣を出して遊んでいたメアちゃんだったけど、自分の能力を活かせるものを見つけれたみたいで私も嬉しい。


 魔創部では週二日ほどメアズキッチンが開かれ、部員たちの生きがいになっている。

 メアちゃんも部員と仲良くなれたり、代わりにお菓子を貰ったりと何かと楽しそうだ。

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