第17話 魔法具目安箱

 まだ部活の時間は残っているので、元気になったメアちゃんと魔道具作りをすることになった。

 リズはというと、例のごとく魔導書を作りにいつものスペースへいそいそと向かっていった。

 

「よしじゃあ私たちもなんか作ろう!」


「おー!」


「それで、さっきの会議で思いついたのがあって」


「なになにー?」


「その名も、魔法具目安箱!」


「おおー」


「学院内にいくつか置いといてさ、みんなの悩みを集めて解決しちゃうの!

 そうすればさ、みんなの役に立てると思わない?」


「なるほどー……」


「メアちゃんも、これで活躍すればすぐ人気者になれるよ?」


「……! にんきもの!」


「うんうん。きっとみんなちょっと怖がってるだけで、本当のメアちゃんが分かればすぐ仲良くなってくれるって!」


「そうかなあ……」


「そうだよ! だってこんなに明るくて優しい子なのに、みんな気づいてないだけだって!

 だから、こうやって他の人を助けてあげれば、みんなすぐに理解してくれるよ!」


「たしかにそうかも。うん、メア、やってみるよ!」


「よーしじゃあ、とりあえず目安箱を作るところからだね」

 

 部室に転がっていた箱を一つ貰い、穴を開け、簡単な装飾をする。

 作っているうちに色々アイディアが湧いてきて、それらを盛り込んでいく。

 メアちゃんは隣で楽しそうに私の作業を見ている。

 

 ◇

 

「できた!」


「おめでとうー! ねえねえエルフィー、このしかくい紙はなに?」


「ふふん、それはねー」

 

 メアちゃんに白い紙とペンを渡す。

 

「ここに悩み事を書いて、箱に入れてみて!」


「わかった」

 

 メアちゃんが紙に文字を書き込んで箱に投函する。

 すると前面に貼られた正方形の折り紙がイルカの形にパタパタと折られていく。

 

「わ、すごい! イルカだ!」


「そう。これも魔創部で作ったやつ。紙が入ってきた時に折られるようにしたんだ!」

 

 しばらくすると、イルカの折り紙はまた元の正方形の折られていない紙に戻っていった。

 

「おおー。これはちょっとテンションあがるね!」


「でしょでしょー! 期待感も上がるかなーって思って」


「いいね。でもなんでイルカなの?」


「私が好きだからです!」


「そうなんだ! たしかに頭いいところとか似てるね!」


「ありがとうメアちゃん。そんなこと言われると照れちゃうな〜。頭いいもんな〜私」


「やあ四十二点。調子はどうだい?」


「わ! リズ! 調子は順調だよ! 乗っかってしまうくらい」


「あ、リズっち! いまエルフィーがね、天才的なはつめいをしたんだ!」


「どれどれ、これが四十二点の作品というわけか」


「よんじゅうにてん?」


「ちょっとリズ? その四十二点呼びやめてー!

 たかが歴史の小テストだし、五十点満点だし、八割取ってるし!」


「えへ。それで何が出来たの?」


「えへじゃないよー。まったく。これ、見て!

 さっき言ってた目安箱!」


「ああ、悩みを解決するとか言ってた。もう出来たんだ」


「うん! でも少し仕掛けを入れたんだよ。

 はい、これに貴女の抱える悩みを書いてごらんなさい」

 

 リズに紙とペンを渡すと、何を思いついたのかスラスラと書き込んでいく。

 

「はい」


「じゃあ入れてみてね」

 

 リズが紙を入れると、またも正方形の紙がイルカの形に折られていく。

 

「おお」


「どう?」


「なるほど、入れることによって……」


「そうそう」


「ふむ……」 

 

 リズは腰を低くして箱を見つめる。

 そのまま何故か箱の周りを歩き出し、全体をまじまじと眺めていく。

 同級生とは思えない独特な雰囲気。

 まるで、自分の作った作品を師匠に見てもらうかのような空気。

 私もメアちゃんも息を飲み、リズの次の言葉を待ち構える。

 リズが目を閉じ、長い沈黙のあと少し息を吐く。

 目を開きこちらに顔を向け、小さく頷いた。

 

「まあ、合格」


「何がだ!!」


「あはは、リズっちおもしろーい」


「もう私が教えることはない」


「何も教わってないー!」


「腕を上げたな、エルフィー」


「誰なの? リズは私の何なの?」


「もう私が教えることはない」


「さっきも聞いた! それ言いたいだけでしょ!」


「うん。満足」


「良かったな!!」


「リズっちってこんなにしゃべるんだねー」


「ホントだよ。リズは黙ってれば静かなのに」


「ほんと、口を閉じられればうるさくないんだけどね」


「自分で言うかー!」


「それでだいぶ話が逸れてるみたいだけど、この箱をどうするの?」


「わー、自分で軌道修正したー!

 えっとね、この箱を学院内のどこかに置くの。悩みを抱える人に直接魔法具を作ってあげるんだー」


「おお、それはたのしそうだなー、エルフィー!」


「もちろんメアちゃんも一緒に作ろうね!」


「うん! 魔素はメアにおまかせあれ!」


「ならどこに置くか決めないとだね。なるべく人目に付くところがいい」


「うん。リズの言う通り、いい場所を見つけないとだから、明日学院内を探索しない?」


「たのしそう! メアもついてく!」


「私もいいよ」


「じゃあ明日のお昼一緒に食べようね! その後学院内を探し回ろうー」


「わかったぞ」


「了解」


「リズも何かできたの?」


「ああそういえばそうだった。これ、魔導書」


「おお、リズっちのターンか」

 

 リズが手に持っていた魔導書をパラパラとめくり、あるページを開いて机の上に置いた。

 開かれたページには、おそらく魔素語と思われる文章が何行かにわたって書かれていた。

 

「例えばこのペンなんかを乗せてみるとね」

 

 さっきリズに渡したただのペンが魔導書に乗せられると、ペンはページの上でくるくる回転し始めた。

 

「わー回ったー」


「すごい! まわってるぞ!」


「そう。これは物を回す魔導書」


「すごいねー! この魔素語も自分で書いたの?」


「うん。『空白の魔導書』っていうのを先輩に教えてもらってね。

 ページにたくさん魔素が入ってるおかげで、魔素語を書くだけで簡単にこういうものが作れるんだ」


「へえー! そういう便利な魔導書もあるんだねー」


「そういえば魔導書も魔法具だし、エルフィーがよくいう便利な魔法具の一つかもね」


「確かにー。空白の魔導書、私が作ったことにならないかなー?」


「なんでそうなるんだ」


「エルフィーならつくれるよ」


「そうだよねメアちゃん」


「もう既にあるんだけど」


「う……。まー今回は見逃してあげるさ」


「じゃあ、二冊目はエルフィーの作った魔導書を使うようにするよ」


「おお! それなら魔導書の作り方も覚えないと」


「魔素のことならメアにまかせて!」


「うん。楽しみにしておくよ」

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