第3話 魔導創作部へようこそ!

「失礼します」


 私、エルフィーは、部活動紹介で知った魔導創作部まどうそうさくぶの部室に足を運んでいた。


「いらっしゃーい!!」


 さっき、ステージでこの部活を紹介していた女子生徒が中にいた。

 私より少し背が高くて金髪、しっぽと猫耳が生えている獣人だ。

 美人というよりも、可愛い系かな。


「誰も来なくて、不安だったんだよー!!」


 確かに人の気配はしなかった。

 もしかして、あまり人気無いのかな……。


「はじめまして!! 私はミラ。二年生。この魔導創作部の部長です!!

 今日は見学で来たのかな? それとも、もう入部しに来たのかな??」


 とんでもない熱量と、キラキラ輝いた瞳で押しつぶされそうー。


「はい、とりあえず、どんな様子なのか見学しに来ました」


「分かった分かった。オーケーオーケー見学ね!!

 じゃあじゃあ、この部活について説明するね!!

 魔導創作部、通称魔創部まそうぶは、便利な魔法を作る部活だよ!

 例えばこれ、私の力作!!」


「これは……コップ、ですか?」


「そう、私の作った魔法具!!

 試しに、それに水を入れてみて。あそこに蛇口があるから」


「分かりました」


 一見普通の透明なコップを渡され、蛇口の方へ歩く。

 水を入れると……コップが光りだした。


「……光った?」


「そうなの!! これは、水を入れると光るコップ!!

 どう? 便利でしょ??」


 あれー。部活動紹介のときの手鏡には心底感動したけど、これは……。


「あれ?? なんか、これじゃないなって顔してる?」


「いやいや、私なんてどうやってコップが光ってるのかすら見当もつきませんし、すごいなーって思ってるんです」


「いいの? この部室にはウソ発見器があるんだよ??」


「っ。なんですかー! 十分すごいと思ってますってー!」


「まあ、私には魔力が足りなくてウソ発見器使えないんだけどねー。

 ごめんね、ちょっと私、テンション上がってるみたい」


「やめとけミラ。入学したばかりの後輩をからかうんじゃない」


 聞き覚えのある声の方を向くと、そこには紫の翼――生徒会長が立っていた。


「やあ、はじめまして。キバマキという。

 私もこの部活に入ってるんだ。ミラが迷惑かけてすまなかったね」


「ちょっと生徒会長、生徒会の方はいいんですか??

 生徒会の募集してたじゃないですか!!」


「大丈夫だ、生徒会室に誰か来たらすぐに行くだけだ」


「えっと……あの……」


「新入生は、魔創部に興味があるのかな?」


 生徒会長が優しい瞳でこちらを見つめてくる。


「はい、魔法を作れるって聞いて」


「うん。いいことだ。この部室にあるものをゆっくり見ていくといいよ。

 案内はミラがしてくれる」


「はい!! 任されました!!

 さっきはごめんね、もっと他にも魔法具あるから、紹介していくね!!」


「分かりました。お願いしますー!」


 それから、ミラ先輩に連れられて、たくさんの魔法具を見た。

 ページを勝手にめくってくれるブックカバー、砂が落ちきると小躍りする砂時計、ハトが出てくるシルクハット……。

 どれも、身の回りのものにひとひねり加えられたものだった。


「魔法で出来ないことは無いから、想像力次第でどんなものでも作れちゃうんだ!! 

 それが魔導の魅力でもあり、魔導創作部の活動内容。

 どう、興味ありそう??」


 どんなものでも……か。

 魔法は今まで戦うためだけのものだと思ってたけど、こうやって生活にちょっとプラスされる、そんな平和な魔法なら、私もとことんやってみたいかも。


「今日から入部――できますか?」


 

 かくして魔導創作部に入部した私は、その後も部室を見て回った。

 しばらくすると、扉がノックされた音がした。


「失礼します」


 赤髪で短髪の、リズより一回り大きいくらいの小柄な男の子が入ってきた。


「いらっしゃーい!! 魔創部へようこそー!!」


 ミラ先輩はまたも大きな声で、しっぽを振り回しながら声をかける。


「魔導創作部ですよね、ちょっと見学しに来ました」


「そうだよー!! 見ていって見ていって。

 私はここの部長のミラ。よろしくね!!」


「はい、よろしくお願いします。僕は一年Dクラスのマルクといいます。

 魔導創作部って、どんな活動をしているんですか?」


 一年Dクラスって、私と同じクラスだ。

 そういえば、自己紹介のときにいた気もしたりしなかったり……。


「魔導創作部、通称魔創部はね、身の回りのものに魔素を吹き込んで便利なものを作ろう!っていう部活だよ!!

 例えば私が作ったのでいうとこれ。これが何かわかる??」


「普通のコップ、でしょうか」


「うんうん。そう見えるよね。

 じゃあ、あそこに蛇口があるから、これに水を入れてみて!!」


「分かりました」


 マルクくんも私と同じように、コップに水を入れる。

 手元のコップは、に光った。

 あれ、私のときは黄色っぽい色だったんだけどなー。


「わ、すごいですね。水が入ると光るんですか」


「そうなんだよー!! どうどう? 便利じゃない?」


 マルクくんも私同様、微妙な顔をしている。

 でもミラ先輩のあの自信と、この少しの違和感でコップに何か仕掛けがあるんじゃないかと思ってしまう。


「あれ? エルフィーちゃん、気づいちゃった?」


「はい。私が持ったときと色が違うなーって」


「そうなんだよー!!

 実はね、このコップは持った人の魔力量によって色が変わるんだー!!

 ね、便


「な、なるほど。他人の魔力量を知るってそう簡単に出来るものじゃないですよね?」


「そうだね!! 他人の体内の魔素まそは感じ取りにくいから、普通は無理だね!!」


「でも、このコップに水を入れるだけでだいたいが分かってしまうと……」


「そういうことそういうこと!!」


「すごいですねー! こういうのも作れるようになるんですねー」


「そうそう。こんな感じで、ちょっと役立つものを作るのが魔導創作部なんだ!!

 どう、興味ある?? マルクくん??」


 すごい眼差しでミラ先輩が見つめている。

 やっぱり大丈夫ですとはなかなか言えない雰囲気だ。


「ええ、いきなり凄いものを見せていただいてありがとうございます。

 魔法具にも興味が湧いてきたんですが、僕はもともと魔導書まどうしょが好きなんです。

 それは作られてるんですか?」


「もちろん! 魔導書も魔法具の一つだからね、作ってる部員もいるよ。

 他には、魔導武器まどうぶきなんかも作ってる人がいるよ!!」


「なるほど、魔法具の全般を作ってるんですね」


「うんうん。とにかく魔導でなにか作りたい!って人が集まってるんだよね!!」


「新入生はどれくらい来たんですか?」


「うーんと、君は二人目だけど、このエルフィーちゃんはもう入部してくれたよ!!」


「ああ君は、僕と同じクラスだったよね。もう部活に入ったんだ」


 どうやら、あっちは私のことを覚えてくれていたみたい。


「そう、私も魔法が作ってみたくてー!」


「え!! エルフィーちゃんたち、同じクラスだったんだー!!

 マルクくんも入っちゃえば??」


 目の前の魚を逃すまいと、抱きつく勢いで歩み寄る。


「はい、入りますよ。僕はもともと魔導書が作れるんじゃないかと思って来ていたので」


「わー嬉しいー!! もう二人も入部してくれちゃったー!!」


 この上なく嬉しそうだ。

 その場でぴょんぴょん飛び跳ねて、なんだかこっちまで嬉しくなってしまう。


「これからよろしくお願いします。ミラ先輩。あと、エルフィーさんも」


「はい! よろしくお願いしますー!」

 

「……初日にしては、新入部員が多いな」


 部室の一角で作業をしていた生徒会長がこちらへやってきた。


「はじめまして。私はキバマキ。

 私もこの魔導創作部に所属している。よろしく」


「おお、生徒会長さんもいらっしゃるんですね。

 僕はマルクといいます。よろしくお願いします」


「うん。私も何しろ創作が好きでね。

 ミラのいう便利な魔法具も作るし、君の好きだと言った魔導書も作るし、魔導武器、魔法陣なんかも作るんだ」


「そうなんですね。ということは先輩は、選択は魔導系にしたんですね」


「そうだよ。私は魔術というよりかは魔導の魔法が好きみたいでね」


 あれ、『魔術』と『魔導』って何が違うんだっけ?


「私、いまいちまだ魔術とか魔導が何か分かってないんですけど……」


「簡単に言うと、魔術というのは自己の研鑽けんさんだ。

 感覚を研ぎ澄まし、覚えた魔法の局地を目指す。

 自分の成長が感じられて楽しいという側面がある。

 一方で、魔導というのは新しい魔法のだ。

 こちらには、別の楽しい側面がある」


 生徒会長は蛇口の方へ行くと、ミラ先輩の作ったコップを取って中に水を入れた。

 コップは青っぽい紫色に光った。


「こんなふうに、これを作ったのはミラだが、私も君たちも、『魔力量を測る魔法』としてこれを使うことが出来る。

 魔導には、他の人に使ってもらえる、という魅力があるんだ」


 やり方次第では、自分だけじゃなくて他の人も魔法が使えるようになるのか。


「それだけじゃない。魔法具を作った人には、作った人にしか分からない秘密を組み込むことが出来る。

 例えばこのコップなんかは、魔力量によって色が違うというが、その具体的な程度はミラにしか分からない」


「そうそう!! 実はその色は魔力量じゃなくって、性格を表すものだったりして??」


「私はこのコップの色は魔力量を表すこと、そしてその色の意味もだいたい見当はついているが、あくまで推察の域を越えない。

 つまり、魔導では作る側と使う側で情報に差異がある」


「確かに、僕がそれに水を入れたとき、ただ光って嬉しいだけのものだと思ってました」


 うんうん、分かるよマルクくん。

 テンションめちゃくちゃ高い割に、見せてくるのは光るコップだったもんねー。


「魔法具を扱う際は、このことに気を付けないと自分の何が奪われてるのか知ることさえ出来ないからね。

 一応、販売されてるものなんかは国やレジェロによる検査が入ってるみたいだけど」


「そうなんです!! 何でも作れるとは言ったけど、誰かを悲しませるような魔法具は作って欲しくないな!!」


「とはいっても、人体の魔素を読み取ったりするのには高度な技術が必要だから、あまり気にする必要は無いよ。

 持ち前の想像力を遺憾無く発揮して、色々なものを作ってみてほしい」


「でも私、魔法具なんか作ったことなくて……」


「それは大丈夫。作り方は授業で習ったり、ここではミラも教えてくれるから、まずは小さなものでもいいから作ってみよう。

 作れば作るほど、もっと作りたくなるものだよ」


「はい!! ミラ部長にお任せください!!」

 

 先輩たちは優しく、私たちを受け入れてくれた。

 私がこの先どんなものを作れるかは分からない。

 でも、誰かの役に立つ、いつかその人の世界を変えられるような、そんなものを作りたいことだけは分かっていた。

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