第44話 まだ、遥か遠い瞬き

 視界全てを青い光照らす。

 十数メートルほどの巨大な構造物。

 全貌を捉えた時、初めて剣と認識できるほどの巨大な剣。

 

 「Gaaaaaaaaaaaaaaa!!!」


 しかし、まだ終わらないとモンスターは空気を揺らすほどの咆哮をあげ、紫色に光り輝く翼をはためかせる。


 それはテヴァット達の動きを封じた鱗粉。

 まずいと思った瞬間に電撃と炎、氷と水の巨大な魔力の奔流が翼を砕く。


 復活したテヴァット達が動き出す。

 だが、モンスターは両手で降り注ぐ巨大な刃を掴みにかかった。

 ラルカにもう、その両腕を避ける余力はない。

 

 「……ッ!!」


 止めろ。

 ラルカに全てを託す。

 あの一撃を決めて、アルガリアに繋げ!


 「止まれぇぇええええええ!!!!!」


 聞き覚えのある女の子の声がシンスの街に反響する。

 音の増強はシンスの歌姫の魔法。

 だが、今の声は……。


 モンスターの動きが止まる。

 命令を従順に聞いたかのように。

 そう、これはネルの魔法だ。


 「ラルカ!!」


 「はぁあああああああ!!!」


 巨大な剣が振り落とされる。

 しかし、落とす速度に勢いがない。

 ほとんど魔力を無くしているラルカでは作り上げ、落下させるのが手一杯。


 「まだぁああ!!」


 ラルカはそれでも手と腕に肩に腰に力を込める。

 

 「ッ!!」


 枯渇している魔力を振り絞り、飛び上がり、落ちてくる大剣の柄を掴む。

 

 「おおぉおおおおお!!!」


 ネルの魔法は強力だがちょっとの振動で催眠は解ける。

 無抵抗の状態の奴に攻撃できるのはこの一撃のみ。

 この一撃に全てを賭ける!!


 ガッ!!


 剣先とモンスターの骨が接触する。

 その衝撃で骨にヒビが入るがそれと同時にモンスターに意識が戻るのを感じた。


 「ああぁあああああ!!」

 「いけぇえええええ!!」


 だが、刃が進まない。

 剣の強度は十分だが勢いが足りない。


 「熱いが歯を食いしばれよ!!」


 「問題ない!! 思いっきりやれ!!」


 背後が赤い光が瞬き、赤い魔力のオーラを纏ったダラスが凄まじい勢いで上空から落ちてくる。

 

 「Oooooooaaaaaaa!!!」


 ダラスが柄先に自らの力と落下速度を合わせた力で剣を押し込む。

 

 バキッバキッ!!


 骨が砕けていく。

 そして、身体が沈むような感覚と共に大剣が胸に深々と刺さった。


 「ヤレ!! ラルカァァァア!!」


 大剣が光り輝き、形を変え、無数の短剣に形を変えた。

 それはモンスターの内部に入り込んだ剣先にも同じ現象が起きている。

 

 「咲け!! 刃散華じんさんか!!」


 巨大な胸部が青く光輝いた。

 そして、内側から骨を砕き青い光の華を咲かせてモンスターを内側から砕いていく。

 どんなに表皮が硬かろうと内部からの攻撃は防げない。

 俺たちが英雄に託すラストピース。


 繋いだぞ。

 最後のピースを埋めろ。

 大英雄!!


 落ちていく俺たち三人の上をアルガリアがモンスターの核に向かって飛んでいく。


 「よくやった」


 落ちていく中で空気がはためく音に紛れて聞こえた英雄の賞賛の言葉。

 

 ああ、俺たちはやるべき事をやったぞ。

 さあ、最後の幕引きを見せてくれ、大英雄。


 テヴァットとは別にノアの剣の威力を体現したとされる“アルレア”を冠する一撃を持つ大英雄の終わりを告げる号砲。

 それを手刀で放ち、衝撃を最小限に抑え、最大の威力を発揮する宝剣の一撃。


 “英雄の一刀”。


 モンスターの胸から股下に掛けて、大きな空白と破壊力を持った魔力の奔流が地面を裂いた。

 終わりを告げる一刀。

 天地を繋ぐような魔力の線。


 それを受けたモンスターの全身にヒビが入っていき、ボロボロと音を立てて崩れ始める。


 「お疲れ様。君たちはよくやった」


 目の前にブックマンが現れるのと同時に背中に柔らかい感触と共に落下速度が減衰する。

 

 全て終わった。

 興奮が冷めやまないが身体が尋常じゃない疲労を訴える。

 全身が痛い。

 意識を保つための気力もほとんど残ってない。


 それでも、霞む視界の中でアルガリアの姿は誰よりも輝き、こんな視界の中でもはっきりその姿が見えた。


 手を伸ばせば届きそうなのに現実との距離とは違う今の自分と英雄との距離。


 「ずりぃな」


 それは嫉妬から出た言葉ではない。

 あそこに最後まで立っていられない自分の力の無さに対する戒めだ。

 もし、次にこんな凶大な敵と相対して、アンタと共に戦うことがあったら必ず……。


 「必ず、アンタの隣にいてみせるよ」


 掌に掴んだはずのアルガリアの姿は手を裏返して見ても何もない。

 ボロボロの手が視界に映る。


 まだ、俺は強くなる。


 そう心に誓い拳を握った。


 「なあ、シン」


 「なんだ、意識あったのか」


 全てを出し切ってダラスをあそこまで送り届けたドッグ。


 「こんなクソ興奮する中で寝てられるか。

 おまえも同じように意識保ってるだろうが」


 「まあな。それで、なんだ?」


 「ああ、そうだな。

 何というか、俺たちはあそこに辿り着くぞ。

 まだ、俺たちは強くなれる。

 二人で必ず英雄の背中を追い越すぞ」

 

 「でかく出たな」


 「は! それぐらいの気持ちは必要だろうが」


 「……ああ、そうだな」


 とても遠い背中だ。

 でも、いつかは必ず。


 だが、その前に少し。

 ほんの少しだけ。

 休息に着こう。

 今日はめちゃくちゃ疲れた。

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