第51話 地獄の番犬

 「おっと、飲み込むなよ。

 まだ、魔石を取ってないんだ」


 ダンジョンに飲み込まれる寸前のモンスターを影から引き上げ、魔石を取り出す。

 そして、影から取り出す前に脳を潰した。


 「これでやっと半分」

 

 数日、正確に何日経ったまではわからないが魔石は目標の半分にまで達した。

 

 「でも、この階層は一通り狩り尽くしたな」


 感知領域にモンスターの気配が一切ない。

 これ以上、この階層で魔石は集められないだろう。

 となるともう一つ下の階層に進まなくてはならない。

 しかし、ここが地獄の入り口ならもう一つ下の階層は完全な地獄と化していることだろう。


 「行ってやるよ」


 どれだけの困難があろうとドッグに置いていかれる訳にはいかない。

 絶対に負けてたまるか。


 下へと続く階段。

 吹き抜ける風だけで、灰となってしまいそうなほどの熱気。

 それとこの先にあるであろうモンスターの呻き声。


 「いるのかよ」


 本格的な地獄へと踏み込む前に必ず出くわすとされているモンスター。

 特徴的な三頭の犬の顔を持ち、壁のように立ちはだかる巨大な地獄の番犬。


 「ケルベロス……」


 一歩、二十一階層に踏み込んだ途端に振り下ろされた鉤爪を地面を蹴ってかわす。


 「いきなりかよ。面も見せないで不意打ちとか姑息なことしやがって」


 地獄の爪というだけあってかなりの硬度だなあの爪。

 地面が深々と抉れてやがる。

 一撃でも喰らったら死ぬだろう。


 「だが、動きはとろくさいな」

 

 獣ならもう少し早く動けそうなものだが。

 頭が重いのか巨大なせいで遅いのか。

 まあ、どっちでもいい。


 「俺との相性最悪だろ!」


 靴の線を全解放させて、懐に飛び込む。

 四つん這いでその巨大なら下はガラ空き。

 観察するまでもない弱点。

 心臓ひと突きで終わりだ!!


 ザグッと肉を断つ音を立てる。

 しかし、殺したという手応えがない。


 「GARUUU!!!」


 ケルベロスが上空へと飛び上がる。

 その風圧で短剣が外れ、空中へと投げ出された。

 そして、俺を食おうと三つの頭が口を開けて迫ってくるが靴の魔力を放出して回避する。


 「何てジャンプ力だ」


 それに体がでかい分、肉厚ときた。

 短剣のリーチでの一撃では致命傷にならない。

 それに、ここまで連日戦っているせいで魔力も万全じゃない。

 蒼刃はかなりの魔力を消費してしまう。

 この先の事を考えるならあまり使いたくない。

 多数が敵ならともかく敵は一体。

 蒼刃を使わずに殺してやる。


 ケルベロスに向かって走り出す。


 線を解放させた状態なら速度はこちらが上。

 急所を突けなくても何度も斬りつければどんな生き物も生きてはいない。

 それに全ての生き物も露出している弱点がある。

 狙いは目。

 視界を奪ってやる。


 「GAAAA!!!」


 左の頭が噛みに掛かる。

 しかし、それは囮。

 二つ目の頭が奥から睨みを利かせている。

 飛び上がって、一つ目の頭の目を狙いに行けば空中で喰われる事だろう。


 なら、ここは引く!!

 これで、他の頭は一つ目の頭が邪魔で俺を狙えないだろ。

 

 「囮でも頭を差し出したのは失敗だったな」


 引いてすぐに前に走り出すことは通常では不可能だが、俺にはできる。

 服の線から魔力を放出し、背中を前へと叩かせる。

 

 「ふっ!!」


 一つ目の目を突き、切り裂く。


 もう一つ!!


 身体をケルベロスの頭の上で転がし、もう一つの目も短剣で切り裂いた。

 そこで戸惑った真ん中の頭が俺に噛みつこうと襲いかかった瞬間に頭上へと飛び上がった。

 真ん中の頭は空を噛んだが、勢いを殺しきれず自らの頭を地面に潰した。

 ケルベロスの重心は崩れ、アレではすぐには動くことはできないだろう。


 「地獄の番犬……大層な異名だ。

 お前にその名前は相応しくない。

 結局、お前は上の階から降りてきた直後の雑魚ども狩ることしか出来ない初見殺しの負け犬だろう」


 奴の心臓は三つの頭の付け根より下の胸元。

 だが、短剣では届かない事だろう。

 しかし、浮き出ている背骨を断ち切ればお前は動けない。


 靴の魔力を爆発させ、空中からケルベロスの背骨に向けて急下降。

 

 「うぉおおお!!」


 自らの落ちる速度と体重を乗せ、ケルベロスの背骨を断ち切った。

 

 「GAAAAaaaaaaa.....!!!」


 ケロベロスは下半身が動かなくなったのか後ろ足から崩れ落ちる。


 「さあ、もらうぜお前の心臓。魔石を」


 無力となったケルベロスの魔石を取り出すのは容易く、体内から巨大な魔石を取り出した。


 「それとケルベロスの犬歯……。

 これは何かに使えるだろう」


 魔石だけしか入れては行けないと言われていない。

 ブックマンの紙に犬歯を収納する。


 「しかし、持ち主からこれだけ離れても使える魔法があるなんてのは驚きだ」


 もしくはこの魔法の効果範囲内のどこかでブックマンは俺を見ているのかもしれない。

 だとしたら、俺の索敵領域に引っかからないなんて隠密能力は相当なものだ。

 つまり、どの道凄いという事でしかないが。


 「……そういえばポーションもか。

 なら、持ち主から離れても魔法が掛かり続ける魔法は意外と探せばあるのかもしれないな」


 俺のエンチャントもどれだけ離れても効果が続くのか確かめた方がいいかもな。


 「まあ、取り敢えずはあと半分。

 とっとと終わらせてやる」

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冒険者はダンジョンで石を拾う 安太郎 @sen-yasu

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