第50話 地獄の入り口
ツキハギのような世界。
異世界と異世界がくっついてしまったかのようなそう思える景色。
ダンジョンは階層を変えるごとに景色を変えるが今いる二十階層はそれが顕著に見える。
十三階から十九階までは森が続いていたがここはまるで火の海。
木々が燃え盛り、地面すらも赤い光に照らさられて他の色に染まっている。
『地獄の入り口』。
シンスの間ではそう言われる場所。
「それでどうするんだ?」
「この地獄から出るモンスターの魔石は緋色に輝くって知ってるよね。
これを取り敢えず千個手に入れてきて」
「千個保管できる場所は?」
「僕の魔法でできた紙を渡すからそこに放り込むといい」
「わかった」
「無理とは言わないんだ」
「無理すればできると思ってるから出してる課題だろ」
そもそも、リュックに頑張れば一週間持つ食糧を詰めさせたからある程度キツイのは覚悟できていたしな。
「それに今の限界値を知りたいのは何もアンタだけじゃない」
俺も知りたい。
どこまで戦えるのか。
蒼刃が使えるようになってから俺の力が魔力の練度が著しく増した気がする。
そのせいか今、この瞬間も周りのモンスターの気配を全て感じられている。
「……」
見ている。
獲物である俺たちを。
「行ってくる」
「はい、いってらっしゃい」
魔力による身体強化と靴に貯めておいた魔力を爆発させ、一体目のモンスターとの距離を一気に詰める。
一体目!
地獄のモンスターは鋭利な爪と牙。
燃え盛る世界でも生きられる強靭な肉体。
殺されないために発達した大きく発達した耳。
だが、関係ない。
この速度と魔力で強化した短剣なら。
「狩れる!」
視界に入れた一体目の首が宙を舞う。
だが、一撃目の後の隙を狙った他のモンスター達が一斉に周囲を包囲し、飛びかかってくる。
今の手応えで蒼刃化させずとも六線を二本解放させるだけで十分雑魚どもは狩れる。
靴にある線は最大で一本と無数の空隙。
一本解放だけでこれだけの跳躍力を得られるのなら空隙を解放すればより早く俊敏に動ける事だろう。
「でも、お前らに空隙はいらないよな」
線だけで十分にやり切れる。
俊敏性が上がった事で基礎の動体視力が向上したせいか全てのモンスターの動きがスローモーションに見える。
急所がハッキリと視界に映り、六体のモンスターの心臓を六度振るった短剣で穿つ。
だが、すぐに俺の感知領域に複数のモンスターが侵入してくるのを感じ取った。
モンスターが強いわけじゃない。
ただひたすらに数が多い。
「魔石の回収が面倒だな」
ただでさえ硬い表皮の更に内側にあるであろう魔石。
数もさる事ながら、魔石をほじくり出す手間。
この階層のモンスターの数から戦闘と戦闘の間隔はそう長くはない。
出来るだけ早く倒して、時間の確保をするが正攻法だが……。
「生き物である以上、恐怖は感じる。
多勢が殺されれば自ずと間隔は長くなるだろう」
それと狩る速度も大事だな。
ペースを上げるとしよう。
短剣の線を全解放。
靴はそれに加えて、空隙全体の一パーセントを解放。
「やるか」
地面を蹴るのと同時に靴から発せられた力に押され、体が加速する。
数が多いがまだ、集団で存在するわけではなく単体でいる。
囲まれれば厄介だからその前に狩るしかない。
移動時間を短く最短で数を減らすのが得策だろう。
一体目の敵と戦闘に入ってから二体目がその場に来るまでおよそ四秒。
それまでにコイツは倒す。
視界に入れた一体目。
さっきの集団とは別種だ。
人型ではあるが両手は翼と鋭い爪。
肌は茶色い体毛で覆われている。
「飛行タイプ。当たりだな」
混戦になり、上空から奇襲されたらかなり厄介そうな野郎だ。
他にも同系統のモンスターがいると仮定できる事から上空に気を配れる。
このモンスターの存在を知っていると知らないとで戦い方の楽さは随分と変わるだろう。
地面に落ちていた石を拾い、線に魔力を流す。
そして、奴の翼に目掛けて投げ放つ。
ただの石が魔力を込めたところでたかが知れているが俺が魔力を込めたのは線。
線に高密度の魔力を付与し、俺の手から離れて魔力の制御を失えば数秒後に魔力の爆発が起きる。
ボンッ!
爆発によって空気が激しく揺れ、空中での姿勢制御が乱れた。
そこに素早く懐へ飛び込み一振りで半身が分裂。
だが、すぐさま二体目が殺気を撒き散らしながら俺の背後をとる。
早い。脚部が異常発達した黒い体毛を持つ獣型のモンスター。
空中で身動き取れない瞬間を狙ったのか。
「あまい」
ナイフの魔力を放出し、もう一段上の上空へと身を舞い上がらせる。
そして、視界にモンスターの頭部を捉え、頭蓋を貫く。
地面に足をついている暇はないな。
獣型モンスターを足蹴にし、次のモンスターの場所へと飛び立つ。
二体が合流し、集団になろうとした一団を狙う。
先ほど倒した獣型と同種。
その二体がほぼ同時に地面を蹴った瞬間に空中で魔力を爆発させ、加速。
「空隙一パーセント解放。蒼刃発動」
二体同時に狩るために斬るの際に生じる振り抜くまでの時間ロスを無くし、蒼い軌跡が一閃。
二体のモンスターが肉塊になり、地面に落ちる。
「あっ……」
蒼刃の発動と同時に他のモンスターが俺の感知圏内から抜けていくのを感じた。
「鋭いな。簡単に倒せばモンスターは近寄って来ず、手こずれば大量に寄ってくる。
丁度いい感じで倒していくしかないな」
魔石を取り出すにも時間がかかる。
「残り九九一体。先は長いな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます