第49話 蒼い
「再戦……。てことでいいんだよな?」
「それ以外にアンタに用はねぇよ」
ドーバ・クルガルの魔法の最たるものは反射神経云々以上よりも速い速度。
だが、ここで一つ疑問が生じる。
神経伝達より速い速度で体を動かす時、何をどうやって動かすのかどう判断しているのか。
もし仮に頭でそれを行なっていた場合、その時点で反射神経に劣る。
ならば、答えは半自動でその行動を行なわれているということ。
なら、この人に勝つにはその事前に決定された行動を止めば隙が生じるはず。
後は戦いの中で確かめるしかない。
「……!!」
地面を踏み抜いて一気に距離を縮めた。
だが、間合いに入る寸前で速度を落とし、歩幅を狭くする事で必ず動けるように歩法を切り替えた。
「近接はダメと言ったはずだぞ」
だが、攻撃速度が常人のものではない以上これではあまり意味がない。
でも、こちらも相手が攻撃してくる前に勘で攻撃される場所を予測すれば……!
頭を下げると頭上スレスレをドーバの右拳が過ぎていく。
この人は完全に俺を舐めている。
なら、確実に当てるよりも一秒でも早く俺を倒す事を優先してくるから狙うなら頭。
そして、肉体速度が上がれば急には止まれないから右脇腹ガラ空き。
ダンッ!
そんな地面を踏み抜く勢いと共に俺は頭上に飛び上がるのと同時に元いた場所に右蹴りが地面に突き刺さっていた。
自重の偏りからの攻撃を予想しないわけがない。
コンマ一秒でも隙だと飛びつかなくて正解。
だが、攻撃の間隔が恐ろしく短い。
わかっていたが小技の合間に俺の攻撃を入れる事はまず不可能と考えていいな。
「なるほど。頭を使って速度に追いつくか。
いいね。でも、空中からどう逃げる!!」
瞬きの一瞬で背後を取られ、背中にドーバの脚がめり込んでくるのを感じた。
「ガッ!!」
悲痛な声が漏れ、全身に地面に叩き落とされた痛みが痛烈に走る。
だが、意識は溜まっていた。
「今の手応え……。
おまえ、何かしただろ」
「まあな」
服に仕込んだ魔力を後方への放出。
蹴りが完全に決まる前に少しだけ、自ら落下する事で直撃を避けた。
でも、痛い。
そうそう何度も避けられる代物ではない。
「取り敢えず、体術は合格点。
なら、こっちはどうだ?」
ドーバの手に稲妻が走る。
一撃必殺の高出力電撃魔法の放出前予備動作。
自らの最大の利点である速度を捨て、そのすべてを手先に集中させた電光石火の一撃。
それに対する対抗手段など俺にあるのは一つしかない。
「六線解放。空隙解放率二パーセント!」
器のみの完全開放状態より一割増し程度の許容量。
だが、吸収から放出までの時間に僅かばかりの余裕ができる。
これでいなしきる!!
「死ぬんじゃねぇぞ!!」
轟音と共に稲妻が走り抜ける。
吸収と並行して、放出。
その放出によって一定程度の稲妻は相殺し、残りを吸収。
再び放出することで相殺力に変える。
「耐えるか!!」
だが、これだけ終わらない。
一撃必殺の終了直後にある、再び魔力を全身に巡らせるまでの僅かな時間。
決めるならこの一瞬以外にない。
失敗から閃いた一撃。
解放した六線と空隙に自らの魔力で満たし、ナイフ本来の切断力に加え、魔力の性質である破壊力を持たせる攻撃方法。
アルガリアの放つ一手刀に近づけた刃。
「蒼刃」
高密度に圧縮された魔力は青い炎のように滾る、蒼く光る刃。
通常時の身体能力ではこんな刃を生み出したところで当たるはずもない。
だが、今は俺とドーバの身体能力は互角。
更に、一瞬だけ切先の空隙を開放する事で出来る刃の拡張。
それは指向性を持たせた魔力の塊を放射するに等しい一撃。
「勝ちだ!」
魔力の塊はドーバの頬を掠め、手傷を負わせた。
「はぁ、はぁ……」
六線と空隙の解放とその解放速度を上げる訓練に費やした時間とそれと並行して溜まった疲労が体中を巡っていくのを感じる。
「合格だ」
「じゃないと困る」
その言葉で肩の重りが降りていく。
だが、蒼刃はまだ不完全な技。
六線はともかく、空隙はほとんど解放できていない。
ある程度は蒼刃に変換できるとはいえ、無駄な魔力消費量も多い。
不完全な蒼刃ですら一日に三、四回使うのが限度。
「課題はまだ山積みのようだな」
「まあ、それを鍛えるのが僕達の仕事だよ」
どこからともなく現れたブックマン。
「いたのか」
「言い出しっぺがいなかったらやばいでしょうよ。
それで、客観的に君の課題は基本的な面は魔力量と魔力の循環する速度と身体強化の練度。
そして、その蒼い刃の構築効率。
僕の想定よりも上をいく魔法。
……おもしろい」
「まあ、取り敢えずワシの仕事は終わりじゃの」
「うん。おつかれー。
でも、体術面は教えてあげなよ。
君もこの子の事、意外と気に入ったんじゃないの?」
「……はぁ。まあな」
「だよね。
てことで、これからもよろしく。シン」
「ああ、よろしく頼む」
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