第48話 兆し
力は遺伝する。
シンスの魔法は親から子へ。
魔力量も例外ではない。
だが、両方の親の魔法を受け継ぐ稀有な事もあるが大体はその片方のみ。
しかし、何かしらの変化が発生する場合がある。
父親からの魔法を受け継いだドッグは指先からしか発生しない炎を掌全体に拡張させている。
なら、俺の魔法も少なからず変化している可能性はあるがその前に母さんの段階に至らなければならない。
「器と線、血管」
器は魔法や魔力を入れる為に形成するモノ。
線と血管はなんだ?
「……血管」
血管は血を流す為に必要な物。
母さんがそう例えたなら、それは何かを流すもの。
なら、魔法で構築した血管なら魔力を流す以外は考えられない。
でも、今は先に母さんの言っていた血管の構築。
そこからホイッとなってグルグルボンッ。
一通り考えをまとめてからナイフを手に取った。まずはいつも通りの器の構築。
こんなに集中して、エンチャントを発動させるのは久しぶりだった。
意識して歩くみたいな違和感。
それだけ、魔法を使うことが当たり前になっていたと気づかされる。
「器の構築完了」
ノアが壊れないギリギリの許容範囲まで器を広げ、そこから器を心臓として、枝分かれするような線を想像した。
物質が新たな魔力の筒を得ても砕けない空白地帯。
それを魔力という第六感で探す。
……ある。
確かにエンチャントの領域を拡大できそうな空白地帯は存在していた。
しかし、器を構築するような大きい地帯ではなくとても小さな道。
今までにないほど繊細な魔法構築。
その小さな道に魔力を入れると壊れそうな感覚に襲われ、すぐに辞めた。
「……ふぅ」
難しい。
初めてやることだから仕方ないが何かを変えないと上手く行く気がしない。
意識することは出来ることの足し算。
器の最大限の拡張は今できる事。
なら、余裕を持たせて器を構築して、血管の構築に意識を偏らせてみるか。
適当な器の構築なら意識をそこまで持ってかれることはないだろうし。
「上手くいきそうか?」
「手応えはあるけどまだ遠いかな」
「そうか。なら、邪魔しちゃ悪いから俺はもう一度ダンジョンに戻るよ」
「一人でか?」
「ああ、俺の魔法の訓練は一人の方がいい」
ダラスはまだ魔法の真価を隠している。
あの戦いで一瞬纏った赤い魔力。
その状態での力は緑色の時を遥かに超えていた。
だが、その後から赤い魔力を見せていない事から完全に制御は出来ていない感じか。
「わかった。気をつけてな」
「おう。シンも頑張れよ」
ダラスは装備を整えて家を出た。
そして、俺は再び武器に意識を落とす。
落とした意識はすぐにナイフ全体に霧散するように全体の構造を把握し、魔力はナイフに器を構築した。
「許容量を七割に固定。
空白地帯の観測開始……」
器に直接繋がっている大きめの空白地帯は合計で六本。
そこから無数に枝分かれし、武器全体に巡っていた。
「観測完了。線の構築開始」
空白地帯を魔力を保持できる為の筒を構築を始めた。
今までやった事がなく、ほとんど誰の教えもない。
だが、コツを掴むのにそう時間は掛からなかった。
「……ッ」
器に直接繋がっている、六本の筒の構築はわずか数分で全体の半分ほど完了。
現時点で最大限、器を作り出した時とほぼ同じくらいの魔力を内包できるはず。
だが、魔力消費量はこれまでよりも多く、構築にあまりにも時間を要していた。
想像しやすいように六本の線を
「六線構築完了。空隙の構築開始」
空隙は六線よりも更に小さい筒。
これまでよりも更に繊細なせいか魔力の無駄な消費が加速する。
「1パーセント到達」
この時点でもう一つの武器に器を作れる程に魔力を消費し、そこで集中力が切れた。
バチッ!
集中力が切れた事をきっかけに内部に溜め込まれた魔力が凄まじい勢いでナイフから漏れ出し、手元から離れた地面に突き刺さる。
「こんなことがあるんだな」
六線と空隙の構築で無駄に消費した魔力がそのままナイフに留まったせいで起きた失敗。
地面に突き刺さったナイフを拾い上げるのと同時にある考えが頭をよぎった。
「これいけるか……?」
失敗から着想を得た攻撃方法。
意識的に成ったわけではないがもし、今のが手動で出来るのなら。
エンチャントの最大の弱点は他人による外的な力が必要というところ。
だが、ダンジョンで常に二人以上で戦うわけでもないし、ダラスやアルガリアのように自己強化タイプならエンチャントは死ぬ。
でも、これなら他人の魔法がなくても破壊力を持たせられる……。
やってみる価値は十分にある。
一人で戦える力が手に入るならやるべきだ。
まだ、ただの空想の段階だがそれでも久しぶり心が踊る感じがした。
自分が成長できる僅かな光。
「やってやる!」
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