第26話 ネル・メイデン
あまり他の人に聞かせたくない話だった事からも、裏の路地で話し合う事になった。
「貴方達から盗んだ魔石は返します!
ですので、見逃して頂けませんか!!」
深々と頭を下げる女の子。
「いや、その事はもういい。
だが、これからも盗みを働くならいつかバレて、家族が本当に危険な目にあうぞ」
「それはそうですけど……」
金がない。
服装を見たらわかるし、血色も良いとは言えない。
「提案したい事がある。
おまえらの衣食住を賄う代わりに俺達の周りの世話をお願いできるか?」
「……?」
突拍子もない提案だ。
正直、俺達にメリットは限りなくない。
俺がなんで、こんな提案をしているのかがわからない。
「えっと……」
女の子は困った表情をしていた。
その反応は至極当然だ。
知らない人達に唐突に言われたら、恐怖以外何者でもない。
でも、他に提案しようがない。
この子達とは別段近所に住んでいるわけでもないし、関わろうとしたらある程度強引に行くしかない。
「俺達は冒険者になってから、お金に困っていない。食糧もあまり気味だ。
だが、男二人で部屋は散らかり放題。
飯も焼くだけで味気ないものばかり」
それは本心だった。
実際に部屋は汚いし、飯も不味い。
「俺達はダンジョンで疲れてる。
だから、上手い飯を用意して欲しい。
用意してくれれば俺たちが冒険で手に入れた金も肉も分けてやる」
女の子はチラッと後ろにいたドッグを見た。
それに気づいて、ドッグも笑顔を見せてくれた。
「ガキの二人や三人なら問題ねぇよ。
今日中に決めなくて良い。
中の二人とちゃんと相談して決めろ。
もし、信用できなくて俺たちが危ない奴らだと思ったなら、おまえの魔法なら簡単に振り切れる。
おまえ達がいつでも逃げれるように俺達は常に耳を立てといてやるよ」
「わかりました……」
「じゃあ、俺たちは一回帰るよ。
ただ、最後に盗みはやめておけ、家族の為にもな」
俺達はそこから立ち去った。
「これ燃やしといてくれ」
「おう」
女の子の写真と家の位置を示す紙。
もう必要のない物。
これで関係が終われば知らぬ間に忘れてる存在だ。
「ダンジョンに行くか……」
武器は家に置いてあるから取りに帰らないといけない。
時刻は朝方だから、時間はある。
いつまでもオーガに足止めされている場合じゃない。
家に帰り、あらかじめ用意した装備を背負って、準備を済ませた。
「おい、あの子……」
ドッグがいち早く、ダンジョンの出入り口前で立っている女の子を見つけた。
女の子も俺達に気づくとこっちに向かって走ってきた。
「先ほどの相談なんですが……」
「もういいのか?」
「はい。是非、受けさせてください」
その返事を聞いて、少し胸がすくような感じがした。
これで、ソラナの命令を無事に完了していける安心感からなのか。
「わかった。ダンジョンから帰ったら君の家に行ってもいいか?」
「はい!」
「悪いな、ウチは汚くてな。
二人で晩飯、楽しみにしてるよ。
ところでおまえの名前はなんていうんだ?」
「ネル・メイデンと言います」
「じゃあ、ネル、頼んだぞ。
俺たちはダンジョンに行ってくる。
シンと一緒に頑張ってくるよ」
「ところでお二人のお名前をお伺いしてもよろしいですか?」
そう言えば言ってなかったなと思いかえす。
「シン・レコンド」
「ドッグ・アコンだ」
「では、よろしくお願いします!
シンさん、ドッグさん!」
「おう!」
***
俺達は三人を養うことになったわけだ。
お金に余裕があるとは言え、半端な狩りではいずれ余裕がなくなる。
だから、狙うのは希少個体と呼ばれる奴ら。
そいつは冒険譚で時々出てくる、他のと比べても頭ひとつ抜けて強いモンスターだ。
十二階層にいるのはブラックベアーの希少種。
胸元から飛び出すほど、魔石が大きいがその分強力。
素材も神がそれなりに高い値段で買い取ってくれる。
報告事例は稀ではあるが先日、目撃情報があったらしい。
「木に爪痕……」
ブラックベアーの縄張りを示す、木の傷。
近くにブラックベアーはいる。
だが、希少個体であるかはわからない。
「お、取り敢えずブラックベアー発見!
あっちの方に三体くらいいるぞ!!」
ドッグが木の上から指を刺す。
茂みに隠れながら、その方角に歩いていくと言われた確かに三体のブラックベアー。
しかし、どれも普通の個体。
「ハズレだな」
「まあ、食料にはなる。
クマ肉は神からしたら臭いらしいからな」
「火弾でやれるか?」
「ああ、問題ない」
熱線が三本、脳天に向けて飛翔する。
だが、最後に放たれた一本が消失し、殺し損ねる。
「やべ……!」
「Gaaaaaaaaa!!!!」
咆哮をあげて、ブラックベアーが突っ込んでくる。
「まだ、完璧じゃないんだな!」
俺は茂みから飛び出した。
片方の前足を狙ってノアを振り抜き、そのまま後ろ足も切り裂いた。
そこで、熱線がブラックベアーの頭を射抜く。
「悪い、ミスった。
まだ、結構集中してやらないといけなくてな」
「気にするな。肉取って次行くぞ」
五人でもブラックベアー一頭分の肉があれば十分すぎる量だった。
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