第25話 対等
「昨日はごめん」
ソラナ・ギフトとの対面して、開口一番にドッグはそう言い放った。
敬語でも何でもないのは一人の人間として、彼女を見た時に考えて、空回った結果だったらしい。
「いえ、そんな、私こそすいませんでした」
少し驚いた表情をしたが少し口元が上がったのが見えた。
「これからもどうかよろしくお願いします。
それと出来ればそのままタメ口で言葉を交わしてくれると凄く嬉しいです」
「いいのか?」
「はい。私、あまり友達とかいないので……。いや、一人いるんですけど!!」
慌てて、一人いると訂正するが逆に友達が少ないのが際立つが俺も友達と呼べる相手はいない。
ドッグは友人でもあるが家族としての存在感が強い。
「そうやって対等に会話できるとなんと言うかとても嬉しいです」
だから、ソラナ・ギフトの対等に会話できると嬉しいと言う感覚は理解できた。
「もちろん、シン・レコンドさんも……」
「いいのか?」
「はい!」
しかし、どことなくある違和感。
それは建前では対等に会話できるだろうが神とシンスという立場が絶対的な壁として存在してしまっている。
嘘はあまり、好きではない。
胸の内でつっかえる様な感覚があるが一呼吸おいて「わかった」っと答えた。
「なら、俺も対等に会話させてもらうぜ。
ソラナ・ギフトだったか?
なんて呼べばいい?」
「ソラナで大丈夫です」
「わかった。
シンもそれでいいよな?」
「ああ、問題ない」
形からでも入って、違和感を感じないように紛らわせる為にも賛成だった。
「それで、今回の素材はどうしますか?」
「今回も全部納品してくれ」
「わかりました」
今回の素材はオーガがほとんど。
特に装備に転用できるものはない。
「魔石の採掘量は大丈夫そうか?」
ソラナから求められている魔石の採掘量。
基準は求められていないが気になった。
「はい、ペースとしてかなり良い状態が続いています。
データが揃い次第、上に報告します」
「そうか……。
このままいけば俺達の環境は変わるのか?」
「そうなるように頑張ります」
言葉は強く発せられた。
今、俺たちに出来るのは結果を出してソラナが口先だけでないことを祈る事しかできない。
「それと、先日の魔石を取られた件についてですが犯人はこの方です」
そう言われ、渡された小さな紙。
「へぇー、上手い絵だな」
驚く事に紙には俺とドッグが鏡を見てるように映し出されていた。
「魔法か?」
「いえ、それは写真というものでして科学の力ですね」
「カガク?」
耳慣れない言葉。
しかし、今はそんな事はどうでもよく、魔石を盗んだとされる人物を見た。
「女の子?」
そして、どこかで見たことのある姿。
「はい、その子で間違いないかと。
ですが気になる点として、お二人がその子に魔石を渡している姿がありました」
「渡している姿か。
となると当初の予想通りの催眠系の魔法か」
「催眠系の魔法……。
そんなものがあるんですか?」
「ああ。稀にいるんだ。
こういう、変な魔法を使える奴が。
それで、その女の子は俺達に何をしてた?」
「特に変わった事はなかったと思います」
「変わった事がないなら、話しかけられた時点でアウトと考えて良さそうだな……。
この子の家とかってわかりますか?」
「はい。こちらです」
シンスの街の全体像に赤い印が一つ。
「明日行くぞ」
「了解だ」
女の子を襲うとなると気が引けるが仕方がない。
魔石を取られるのは俺達の今後のダンジョンでの生存率にも関わってくる。
「どう締める?」
「取り敢えず口元塞いで縛りあげるのが最優先だから、その後のことはその時考えよう」
「えぇ……」
ソラナの顔が引きつっているがやりようが他にない。
「明日は魔石の納品量が減りますが勘弁してください」
「わかりました……。
一応、相手の子は女の子ですので痛い思いはさせないでくださいね」
「善処します」
***
「ここだな」
扉は一箇所。
窓が一つあるが布で覆われていて中は見えないが何かを焼いている良い匂いと三人の声が聞こえてきた。
声音から同年代の子が一人と小さい子が二人。
しかし、大人の声は聞こえて来なかった。
「盗みをするからにはと思っていたがやりにくいタイプだな」
どうせならただのクズであって欲しかった。
俺たちはそう思っていた。
シンスでは特別珍しくもない光景。
親が死んで、子供は過労と餓死で死ぬ。
俺たちが生きているのは父さんと母さんのおかげで運が良かったに過ぎない。
「やめるか?」
「やめても、そのうち誰かに捕まる。
ここでやめさせるのが一番良い」
しかし、交渉してみるにも手札は限られている。
彼女達に足りてないのは金だろう。
俺たちもそうだったからわかる。
慈善活動は相手を図に乗るキッカケになりかねない。
「良い匂いの飯を作るよな」
「どうした急に?」
ドッグが変な目で見てくる。
「金には余裕があるよな。俺たち」
「ん? まあな……。
ああ、そういことか。
良いんじゃね。了承してくれるなら」
「わかった」
俺はその家の戸を叩いた。
すると、写真で見たボロボロの服を着た女の子が出てきた。
「ど、どちら様ですか?」
明らかに動揺しているが平静を保とうとしている。
「こんな、朝方にすまない」
部屋の奥に男の子と女の子が一人ずつ火を囲って、小さいパンと肉をかじっていた。
目の前の女の子に神刻はないから、肉もどこかで盗んできたのだろう。
「魔石を盗んだ件できた」
その一言で一気に顔が青くなる。
「あ、あの……」
「怒ってるわけじゃない。
だから、魔法は使わないで話合えるか?」
怯えていると見ればわかるがその子は頷いてくれた。
「外でも良いですか?」
「ああ、大丈夫だ」
「ちょっとお話ししてくるね」と二人にそう声を掛けたのを見てから、その子を連れ出した。
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