第二章

第24話 託された者達

 朝起きてからダンジョンに行くための準備をクセのように進めていく。


 「昨日はあの神に悪い事しちまったな」


 「仕方がないだろ」


 昨日は疲れていた。

 あの神も連日、何かあったのだろう。

 あまり、神とは会話しないから何があったのかはわからないが……。

 しかし、俺達は協力関係以上の関係を求めてはいない。

 俺達の目標も達したから神から譲り受けた素材で作られた装備も今なら回収されても問題なかった。


 「それにしても、神を一人の人間として、見ろか……。

 変わった、神もいたもんだよな」


 「確かにな。これまで、神は逆らってはいけない絶対的な存在だったから難しいよな」


 「神の様子もおかしかったから一時の感情の昂りの可能性もある。

 今日も、いつも通り接しよう。

 下手に変えて怒らせる方がめんどくさい」


 「そうだな」


 「まあ、考えるの後にしよう」


 ダンジョンに行くための準備が終わった。

 目標はない。

 ただ、進むだけの日々。

 

 「新鮮だな」


 「ああ、そうだな」


 父さん達を弔っても達成感というものはなかった。

 残った感情は寂しさと思い出。

 でも、それを紛らわすには先に行くしかない。


***


 第十二階層の風景は十一階層と変わらない。

 しかし、オーガとのエンカウント回数が格段に増えているのを感じた。


 「クソ……!」


 目の前の一体にも他に三体。

 チャージとカウンターを身につけたとはいっても魔法使う相手にしか通用しない。

 肉弾戦闘しかしかない、オーガにはなんの意味もなさない。

 

 サマエルの毒牙で弱体化を狙いつつ、ノアで急所を突くのが定石。

 目の前のオーガには三度、毒牙で切りつけ、行動は鈍化しつつある。

 まだ動ける方ではあるがこのままでは数に押されて死ぬのが目に見えている。

 多少のリスクは抱えて行くしかない。


 狙うなら首の裏と心臓部にある魔石。

 この二つをやれば瞬時に動きを止められる。


 「Gaaaaaa!!!!」


 しかし、ドッグが魔法でギリギリ止めていた三体のうち一体がこちらに向かってきてしまった。


 「……ッ!」


 時間をかけ過ぎた。

 まず一体は動きを止めないと。


 「ふっ!」


 目の前のオーガの脚を二度切りつけ、動きを封じが殺しきるまでの時間はない。

 すぐさま、もう一体の方に視界を移す。

 

 「右の大振り。狙うは脚。」


 オーガが大ぶりの一撃が襲いかかってくる。

 それを姿勢を低くして回避し、足元に滑り込む事に成功した。


 行け!


 自分にそう言い聞かせて、ノアで両脚を切り裂き、毒牙を地面に突き刺して体を静止させ、それと同時に両脚を力を込めて飛び上がり、オーガの首筋を切り裂いた。


 返り血が飛び散るがそんなの気にしている場合もなく、すぐに三体目と四体目を視界に入れた。


 「シン、ちょっとやりたい事がある!」


 「時間は稼いでやる!」


 ドッグと入れ替わる形でオーガ二体の前に躍り出て、一体の腕を毒牙で切りつけた。

 だが、それに怯む事なく、二体とも声を荒げて飛びかかってきた。


 「火弾!」


 背後からの熱線。

 父さんが放ったそれとよく似た魔法が一体のオーガの頭を撃ち抜いた。

 そのおかげでもう一体の動きが僅かに鈍ったのを見逃さずにノアで喉笛を切り裂き、倒れたところを背後から頭を突き刺す。


 「ドッグ、今の……」


 「おう。目の前でちゃんと見たからな。

 今まで、炎を圧縮させるなんて発想は無かった。でも、昨日の戦いでようやくわかった。

 親父が少ない火力でどうやってモンスターと戦ってたのかを」


 「コツは掴んだのか?」


 「ああ、今のでな。

 魔力消費量は火走りと同等くらいだが貫通力は今ある手札の中では最強だ」


 「そうか……」


 ちゃんと紡がれているんだと感じた。

 俺の魔法も敵の魔法を無力化する点では父さんと通じる点がある。

 

 「ずっと、これからどうするかハッキリしなかった。

 けど、父さん達みたいに託す為に生きて行くのも悪くないかもな」


 父さん達があの一本道で無理して、結晶石を掘ろうとしたのも俺達がいたから。

 ただ、まだ、何を託すのかがわからない。

 父さん達が俺たちに何を願っているのか聞けずじまい。


 「なに、じじ臭い事言ってんだよ。

 一生を悟るには俺たちにはまだ、早い」


 「……それもそうだ」


 まあ、まだ、ゆっくりでいいよな。

 一生を悟るのに十六のガキは若過ぎる。

 経験もない。


 「ゆっくり生きるよ。

 まあ、その前に神からの天罰を回避しないといけないとだけど。

 お前が変な事、言い捨てたからな」


 「あー、忘れてた……。

 土下座で許してくれるかな?」


 「一人の人間として、扱って欲しいのが本意ならドッグが普段謝る時みたいに自然と謝ればいいだろ」


 「これで、俺らの人生終わるのは勘弁だから誠心誠意で謝らせてもらうよ」


 「Gaaaaaaaa!!!」


 しかし、まだ、帰還するには早いらしい。

 オーガとブラックベアーがこちらに向かってきていた。

 

 「今夜は熊鍋か?」


 「それは唆るな!」


 冒険者として、シンスとして、一生を悟るのはまだまだ時間はある。

 冒険者になってからこれまで生き急いだ分、これからは少しゆっくりしよう。


 「……行こう」

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