第13話 方舟達と新たな武器

 いつもより外がざわついていた。

 また、魔石が盗まれた事件かとも思ったがダンジョン前の広場に向かう人たちには活気に溢れている。


 「方舟テヴァット達が帰ってきた!!」


 誰かが広場に向かう道でそう叫んだ。

 それを聞いて、俺も走り出す。

 

 「英雄達の凱旋だ!!」


 広場に着くと既にお祭り騒ぎ。

 それもそのはずで、テヴァットと呼ばれる彼等は現在、最も神に近い存在と称され、冒険譚に記述されている最高到達階層に迫る勢いだった。

 前回の到達階層は三十五。

 今回は約二ヶ月の長期間の遠征。

 シンスの間で最強の称号たる【テヴァット】を冠する彼らが何を成したのか。

 この場にいる全員が胸の高鳴りを隠さずにいた。

 

 ズンッ!


 ダンジョンの出入り口が揺れる。

 そして、暗がりから二つのオレンジ色の光が放たれ、出入り口で炸裂すると40と数字が表示された。

 それを意味するのは四十階層の踏破を意味する。

 現在のテヴァット達が最初に行う恒例のイベント。

 

 「「わぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」」


 広場が多くのシンス達の歓声で揺れる。

 そして、その歓声を引き起こした彼らがダンジョンから姿を現した。


 最初に姿を現したのは現テヴァットのリーダー【アルガリア・アギド】。

 普通の人とは比にならないほどの巨漢。

 最強のシンスと名高い彼の魔法は純粋単純なまでの身体強化。

 彼は階層間の地面を二階層にわたって、その拳で突き破った伝説があるほどだった。

 まさに生きる伝説、俺の憧れ。


 心に康応して心臓が高鳴る。

 

 アルガリアに続いて現在のテヴァット達が出てくるがその内の一人である【マルス・ブックマン】が広場の真ん中に躍り出た。

 アルガリアが最強の男と呼ばれるならば彼は“シンス界最高の目立ちたがり”と呼ばれる。

 

 「この度も皆様、お集まりいただきありがとうございます。

 それでは四十階層のあのモンスターをここに招きご覧頂きましょう」


 ブックマンの魔法は自らの魔法で作り出した紙にあらゆる物を入れ、保管する。

 本の中から千切り取られた一枚の紙が天高く舞い上がり、指が鳴らされるとその魔法は解ける。


 「地獄の門番の登場です」


 四十階層は地獄の入り口と言われ、そこにいるモンスターは三つの犬の頭を持ち、地獄の炎を放つと言われるケルベロス。

 冒険譚の中でしか見たことのない伝説の生物が広場の真ん中に姿を現した。

 

 「「おおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」


 鼓膜が破れんばかりの大歓声に再び包まれる。

 それに追い打ちをかけるようにブックマンは紙を千切り、そこから天高くまで火球が打ち上げられ、激しい音を鳴らして華麗に弾けた。


 この場にいる全員が目を輝かせる。

 あまりにもでかいモンスター。

 広場の半分を埋め尽くすほどの巨大な姿。

 黒い体毛は神の目の光も反射しないほどの純黒。

 

 「俺も冒険者になる!!」

 「わたちもー!」


 近くにいた小さい子がお父さんとお母さんに自分の夢を伝えている。

 俺もアルガリアを見て夢を伝えた記憶が蘇ってきた。


 「さあ、リーダーも一言」

 

 「この度もお集まりいただきありがとう。

 俺たちは四十階層、地獄の門番たるケルベロスを討伐し、地獄の入り口に立った。

 冒険譚、最後の記述である四十六階層までもう一息。

 俺たちは冒険譚に記録がない領域に必ず踏み込む。

 まだ見ぬ伝説に君達を連れて行こう」


 アルガリアが握った拳にその場の全員が息を呑んだ。

 新たな伝説の新たな冒険譚の記録を塗り替える瞬間が目の前に来ている。

 期待とその瞬間に対する渇望。


 「いけーーー!いっちまえ!!」


 その第一声にシンス達は再び歓声を上げ始めた。

 俺もその冒険譚の果てを観たいとの同時に胸の奥が熱くなった。

 一緒にその果てが見たいという欲求。

 冒険者としての血が騒ぎ出す。


 今、ドッグが作り上げているナイフが気になって、いても立ってもいられずに走り出した。

 

 今頃、追いつくなんて無理だ。

 わかっている。

 だが、衝動は鼓動は高鳴るばかり。


 「はぁ、はぁ、はぁ」


 息切れしながら家の扉に手を掛けようとした瞬間、一人でに戸が開いた。


 「どうした、シン?」


 「今、テヴァット達が帰ってきた」


 「なに!? まじか!!」


 「四十階層踏破」


 「かぁー! 伝説更新までもう一息か。

 やっぱり、あの人たちすげぇわ。化け物だ。

 それで、おまえが走って帰ってきた理由ならできてるぜ。入れよ」


 察しよく、笑顔で家の中に入れられる。

 部屋の中は燃えるように熱く、唇が切れるほどに乾燥しきっていた。


 「ほらよ。おまえの新しい武器だ」


 渡された短剣。

 そして、刀身は信じられないほどに黒く、透き通るように綺麗に磨かれており、今まで使っていたナイフより刀身は長く、身幅も長くある程度防御にも使えそうだ。


 「俺の会心の出来だ。

 おまえの魔法にも余裕で耐える強度となんでも斬れる切れ味を持っている」


 「不釣り合いだな」


 最高の素材と最高の腕で作り上げられた短剣。

 しかし、持ち手の俺は走り出したばかりの冒険者。


 「不釣り合いなら合わせろ。

 おまえがその短剣は使いこなさなきゃ、名刀にしてくれなきゃ俺の努力が無駄になる」

 

 「努力するよ」


 「当たり前だ。

 冒険譚の主人公の名前をその名前に相応しい武器におまえがしろ。シン。

 その短剣の名は“ノア”」


 その名を聞いて、アルガリアを初めて見た時と同じように体が震えた。


 「ああ、任せろ」

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