第18話 夜風と眠気
真っ暗な白宮神殿での作業。
初めての事だったが問題なく作業は進んでいた。
「よし」
彼らは新たに第十階層を踏破した。
証拠にサマエルの素材を持ち帰ってきた。
今回の成果で彼らがレベル二になる事は確定的。
レベルアップ申請候補から正式に申請一覧に名前を連ねる形となった。
「渡すべき素材は渡した。
これで今日の納品物を確定すれば……」
サマエルの牙一つと鱗の一部なら渡しても疑われる可能性は限りなく低い。
この二つの素材の納品量は冒険者それぞれ違うからだ。
バレる事はまずないはず。
金額とも合わせた。
「終わった?」
「ごめんね、待たせちゃって」
「いいわよ。
白宮神殿の収益が増えればボーナス増えるかもしれないしね」
「相変わらず、お金好きね」
「何事も自己完結する為に必要なのよ。
だから、ソラナと一緒に飛び級して、最速でここにいるんじゃない。
十八でここに配属なんて前例がないのよ」
「いっぱい頑張ったもんね」
一年前のことなのにずっと前の事のように感じる。仕事に慣れるのも、今こうしてシンスの環境改善に動いているのにも息つく暇がないからだろう。
「それにしてもね、ソラナ。
クマが酷いわよ。ちゃんと寝れてる?」
「あ、うーん三時間くらい……」
「全然、寝てないじゃないの!」
「あはは……」
確かに最近、身体が気怠い。
肌も荒れてるし、片頭痛も酷い。
薬を飲んで症状を抑えているのが現状だ。
慣れれば大丈夫かと思ったが中々、身体は慣れてはくれなかった。
「次の休みは?」
「明日」
「ゆっくり休みなよ」
「うん……」
とは言えやる事がある。
難民支援の名目で立ち上げたサイトから支援物資が少なからず届いている。
その整理をしなくてはいけない。
父さんが捕まった事で元々あった支援団体も今は動いていない。
保管庫はまだ余裕があったはず……。
食糧は長期保存できるのと分けて……。
はぁ……頭が回らない。
気持ち悪い。
「帰ろ……」
「本当に大丈夫?」
「うん、平気よ」
自分の荷物を拾い上げ、白宮神殿を出た。
特に見回りの人とも合わずにその場から立ち去る事ができた。
「問題なく素材は渡せたの?」
「うん。渡せた。
でも、もう少し会話したかったな」
「ん? なんで?」
「仲良くしたいものでしょ。
こういう協力関係の時はさ。」
でも、まだ、私は彼らの信頼を得ていない。
今日、来てくれたシン・レコンドも長く会話する気はない態度だった。
口調は丁寧だが感じる雰囲気からだから絶対にとは言い切れないけど。
「仲良くするのには時間が掛かるわよ。
今まで彼らにしてきたことを考えると一生仲良く出来ないかもしれないし」
「それでも、やらないと」
「はいはい。でも、明日は休むのよ」
「うん。そうする」
プライベート室に着き、制服から楽な私服に着替え終えると置いてあるベッドが私を酷く誘惑してくるがここで寝てもしっかり身体が休まらない。
仕事のスイッチをオフにするためにも家に一秒でも早く帰ろう。
バスもまだ動いている。
残業終わりや一飲み終えた人達の帰宅時間だから少し混むかな……。
それになんか、クラクラする。
「帰るよ、ソラナ」
「うん」
シンス管理棟にはもう、私達以外の人たちは見かけなかった。
付けてある明かりも最低限、歩ける程度。
コツコツと私達二人だけの足跡が反響している。
外に出ればここは都市の中心ということもあって街灯が照らし、街はまだまだ賑わいを見せていた。
近くにあるバスターミナルに向かうとだんだん人混みが増えていく。
「それじゃあね、気をつけて」
「エリーはまだ、帰らないの?」
「これから、彼氏と一飲みよ」
「そう。……彼氏いたんだ。
楽しんでね。
最後まで付き合ってくれて、ありがと」
「いいわよ。
彼氏の仕事も終わるの遅いから時間潰しにちょうど良かったわ。
じゃあ、おやすみなさい。
気をつけて帰るのよ」
「うん、おやすみなさい」
バスの車内はやはり、人はいたが混むほどではなく、ありがたい事に席が空いていた。
壁に頭を預けて寝てしまいたいが我慢しないと降りるべき場所を通り過ぎてしまう。
「……はぁ」っとため息が出た。
わかっていた事だが想像よりも仕事はずっと辛い。
金銭に余裕があるだけまだましだ。
それに、シンスの人達と比べれば私なんて全然良い環境にいる。
「あ……」
窓の外でエリーともう一人男の人が仲が良さそうに歩いていた。
「年上かな……」
同じ職場の制服を着た、見た目が二十歳後半くらいに見える男性。
それにしても、エリーに彼氏か……。
結婚とかしたら私から離れてくのかな。
相談できる相手が今はエリーしかいないからそうなったら辛いな。
しばらくし、バスが最寄りのバス停に止まる。降りるとそこはもう静かで冷たい夜風が吹き抜ける。
「父さん、早く帰って来てよ……」
疲れが溜まっているからか今日は自分でも信じられないくらい、弱気だ。
それに父さんがいつ解放されるのか家族である私にも連絡が来ていなかった。
それだけ、シンスの肩を持つことはこの国では罪なのだろう。
「ただいま」
誰もいない真っ暗な部屋。
虚しく、自分の声が響く。
今からお風呂に入って、化粧を落として、着替えて晩飯。
それらがとてもめんどくさく思えた。
「うぅ、誰か助けてよ……」
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