第16話 冒険の責務
「一通り必要なもんは集め終えたぞ!」
「すまん、助かる」
背中の傷で上手く身体を動かせないからサマエルの解体はドッグに全て任せてしまった。
来ていた服を破り、ぐるぐる巻に身体を固定し、止血しただけの最低限の応急処置。
めまいがするがそれでも十階層を踏破したという高揚感で意識を保っていられる。
魅せられた手のひらサイズもある魔石。
それにサマエルの毒牙と鱗、骨と肉に血。
牙はともかく、鱗と骨と肉は全て持ってはいけない。
だが、入るだけでもそれなりの額になる。
毒牙は武器として使え、鱗も服や防具。
骨と肉と血は解毒する力があるから解毒剤としてかなり重宝される。
「動けそうか?」
「ああ、なんとかな」
「階層主はしばらく復活しない。
ダンジョンもこの巨体を取り込むのには時間が掛かるからな。
だから、無理するんじゃないぞ」
「悪い。なら、もう少し休ませてくれ」
痛みもそうだが、出血のせいで立ち上がった途端に目眩がする。
このままでは無事に帰還する事はできないだろう。
「最低限の飯の用意はできる。
蛇肉、もちろん食うだろ?」
「頼む」
リュックから出された薪にドッグは火を灯し、取り立ての蛇肉を串に刺して焼き出した。
「ちっ、魔力切れ間近だ。
火走り二回三回分だな、こりゃ」
「帰りがキツイな。
七、八、九階層を抜ければ帰れるだろうが」
「次から高いがポーションを買おう。
俺たちは自分の力を過信しすぎだ」
「ああ、今回で学んだよ」
ここまで順調だった。
順調だったからこそ、動けなくなる事を考えていなかったのは完全なミスだ。
「てか、ポーションなんだが。
魔法を液体化する魔法が使われてんだろ?
変わった、魔法を持ってる奴がいるもんだと今気づいたわ」
「確かにな。
しかも、一つ二十リン」
「命を預けるには安いと思わないとな。
だがやっぱり高いぜ。
お、肉が焼けたぜ」
手渡された初めての蛇肉。
想像していたよりもずっと美味い。
「命あってこそ。
俺たちも金を出し惜しんで良い領域は脱したと思いたいな。
金を出しまくって道具に頼り切った戦いは早死にする冒険者の典型的なパターンだ」
「この大蛇を倒したんだ。十分だろ」
「それもそうだ」
食い終わると幾分か身体の調子はマシになっていた。
だが、もう少し、休もうと寝転んだ。
ズンッ!!
寝転んだ瞬間だった。
十一階層に繋がる通路から地響きが聞こえてきた。
「なんだ……!?」
すぐに武器を抜くが嫌な予感が胸の内で疼き出す。
そして、その暗がりの通路から緑色の巨大な人型モンスター。
特徴的な下顎から生えている牙が見えた。
「オーク……」
二十階層以降に生息するモンスター。
知能も高く武器を持ち、身体能力も高いとされている。
なんで、こんな奴がここにいるのだろうと疑問を持つがその答えはすぐに脳が弾き出した。
「クソ、階層主の不在を狙ってか……」
おそらく、テヴァット達が倒したてきた階層主達が復活していない。
その間にオーク達はダンジョンを這い上がって来てしまった。
「やばいな」
こっちは魔力も体力もほとんどない。
格上相手に戦えるほどこっちに余力なんてもの……。
しかし、そんな事を気にしてくれるモンスターでもない。
オークは俺たちを視界に入れるやいなや、手に持つ棍棒を振りかざし、想像できないほど速く俺達を間合いに入れた。
「ッ逃げ一択!」
「視界潰すぞ!!」
放たれた火走りがオークの顔面に飛翔するが軽々と片手でそれを振り払われる。
それに構わず、俺は短剣を握り、残る力を振り絞って地面を蹴った。
倒せなくて良い。
視界を奪え!
しかし、オークは瞬時に俺の方に視界を向けた。
近づいてはいけないと警鐘がなる。
オークによって、張り上げられた武器。
それが目の前に突然出現した。
「あ……」
死んだ。
そう思った。
しかし、棍棒は俺の前で止まり、気づけばオークが壁にめり込んでいた。
隣を見るとそれをやった人がいた。
「アルガリア・アギド……」
「ブックマン、二人を頼む」
「あいよ」
身体が暖かい光に包まれる。
痛みが引いていく。
「……回復魔法」
「を封じ込めた回復魔法カード。
さあ、新たに生まれた強気者、約二名。
ここは俺達に任せて帰りな。まだまだ、来るよ。自分のケツを拭くのが遠征最後の仕事なんでね」
通路から地響きが幾度と無く鳴り響いてくる。言われた通り、まだ、たくさんのオークが来るのだろう。
今の俺たちはでは、この二人の邪魔だ。
「ありがとございます」
ブックマンはヒラヒラと手を振っている。
アルガリアは変わらず、オーク達が来るであろう通路を見続けていた。
「少年」
しかし、声だけが俺たちに向けて放たれた。
「冒険は階層主を倒し、新たに何かを発見したら終わりではないぞ。
冒険者は帰還するまでが責務だ。
覚えておけ」
「……はい」
俺とドッグは帰還すべく走り出した。
身体は治してもらったから軽く、問題なく辿り着けるだろう。
帰り道に警戒すべき点はある。
しかし、それを気にする余裕がないほどに鼓動が高鳴った。
「ドッグ。最高の気分だ」
「そうかよ。とっとと帰るぞ」
ドッグは呆れた顔でそう言った。
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