第15話 序章幕引き

 少し、夢を見た。

 幼い頃に見たその景色。

 高々と天井に拳を突き上げるアルガリアの姿と初めてパフォーマンスをしていたブックマンの二人の姿を。


 憧れた。


 たくさんの人の心を躍らせる姿に。

 その時のアルガリアはまだ、冒険者として走り出し始めたばかりの時だった。

 しかし、わずか二週間という歴代最速でその第十階層を踏破した。

 そこに住まう大蛇をその拳一つでねじ伏せた。

 俺の暗い世界を照らしたその拳。


 追いつきたい。

 横に並びたい。

 あの人と共に……。


 「行こう」


 僅かばかりの休息。

 この先のアイツを倒すには必要な時間。

 短いが身体は十分に回復した。


 「おう!」


 瞼の裏に憧れの情景が染み付いている。


 ドクンッドクンッと今、この高鳴る鼓動は心地良くも息苦しさをまとっていた。


 コツン、コツンと音を反響させる長い道。

 意識が研ぎ澄まされていく。

 肌を冷たい空気が撫で、意識が集約する。


 「shuuuu.....」


 赤い大蛇。

 目は黄色く、舌は血のように赤い。 

 冒険譚の序章幕引きの怪物サマエル。


 「来るぞ!!」


 俺たち二人を飲み込まんと口を大きく開け、頭から突っ込んで来た。

 すぐに間合いから脱出するがその一撃は地面を抉り、毒牙が地面を溶かす。

 更に衝撃で飛散した石が降り注ぐ。


 「ッ!」


 アレをくらったら終わり。

 巨大での突進に加え、発生する衝撃はそのものが武器。

 だが、巨大な分隙もでかい。

 叩くなら、頭からじゃなく尾から!


 走り出し、大蛇の鱗に短剣を突き立てる。

 これまでに感じた事ない抵抗感。

 だが、今持つ武器なら……!

 斬れる!!


 大蛇から赤い鮮血が流れ出る。

 その瞬間に大蛇の瞳が俺を射抜き、尾が伸びてくる。

 背後に飛び、それを回避するが起き上がらせた、大蛇の頭が頭上から襲いかかってきた。

 

 俺の集中狙い!

 ドッグのナイフじゃ、コイツの表皮に傷をつけられないのを理解したからか!?


 ゴオッと音を立て、大蛇の頭に火球が飛びたつ。

 頭の表皮が爆発で焦げ付く。


 「無視するには早いよな!!」


 火球で大蛇の視線がドッグに向く。

 その瞬間にできた大蛇の隙。


 「目ん玉、がら空き!!」


 右目に向かって、飛びあがりナイフでその瞳を突き刺した。

 

 「Gyaaaaaaaaa!!!」


 一度刺しただけで手を止めない。

 左手で瞼を掴んで何度もナイフで瞳を切り付ける。

 ぐんっと身体が視界が早く動き出す。

 瞳を傷つけられながらも俺を振り落とそうと顔を壁に地面に擦り付けた。


 「ガッ!!」


 離すな!

 離したらすりおろされる!!

 打開する方法を考えろ。

 情報集めろ。

 

 視界が回せない中、鼓膜は地面が削られる音とは別に立て続けに起きている爆発が聞こえていた。


 「ドッグ、顔を狙え!!」


 打開策はこれしかない。

 上手く狙えよ。


 「爆峰!!」


 背中に熱が迫ってくる。

 僅かに見える、視界もオレンジ色に染まりだす。

 正確な位置が分からなくとも感じるドッグの魔法。


 「エンチャント!!」


 ゴウッと荒立たせた音が空気をバタつかせ、燃える短剣でサマエルの右半分の顔を焼き切った。

 苦痛の絶叫を上げるモンスターを目の前に俺は一旦距離を置こうとドッグのいた位置まで後退する。


 「大丈夫か……!?

 シン、その背中!!」


 「大丈夫だ。まだ動ける」


 見えないが背中が鈍く痛み、生暖かくも冷たい液体が伝っていくのを感じる。

 でもまだ、戦える。

 視界も良好。

 身体も動く。


 「ドッグはそのまま後衛から魔法を頼む」


 魔法は確実に効いている。

 何度も放ったであろう、焼け跡が大蛇の至る所から見て取れた。

 大蛇の動きも鈍くなりつつある。

 押し切れる。


 「後衛?」


 ドッグの不満そうな声音でそう呟き、ハッと笑った。


 「冗談だろ。

 俺も混ぜろよ、自己中作戦組み立て野郎。

 コイツを倒すのは俺だ!」


 「近接戦ができるのか?」


 「お前のナイフを貸せ」


 そう言われ、すぐにコイツが何を考えているのかが分かった。


 「クソ自己中はお前だろ」


 「言っとけ、行くぞ!!」


 二人で同時に大蛇の下に走り出す。

 大蛇の視線はやはり、俺を追い続けていた。

 俺を重点的に警戒していることが一目でわかるくらいに。

 ドッグの魔法が効いていないわけじゃないが数発程度なら余裕で耐えられると踏んでいるからだろう。


 だが、ドッグがお前の頭で収まる人間じゃない。


 ドッグの両手に光が灯る。

 これまで片手でしか、魔法を発動してなかったがここに来てドッグが進化する。


 「ふっ!!」


 ここまで息を吸い込む音が聞こえた。

 そして、両手から何度も火球が放たれる。

 瞬きの間に十数個の魔法弾が大蛇に襲い掛かった。


 「Gaaaaaaayaaa!!!!」


 連続してなる爆発と鱗の破散音。

 その間に俺は大蛇の頭に向けて飛び掛かる。

 だが、大蛇は俺を見落とさなかった。


 「……ッ!」


 最後のトドメは俺が来ると最初から踏んでいたのだろう。


 「クソ。ドッグ、お前の作戦勝ちだ」


 俺は短剣をドッグに投げた。

 それに構わず、大蛇は突進してくるが空中で身を傾けて攻撃を回避する。


 「決めろよ」


 「任せろ!」


 ドッグは大蛇の腹を短剣で切り裂くと左手を腹の中に突き出した。


 「内側からなら死ぬだろ!!」


 大蛇の内側から爆発音が響く。

 それと同時に、大蛇はオレンジ色に輝き出し、吐血。

 

 「おらぁあああああああ!!」


 大蛇の内側から炎が噴き出す。

 そして、膨らみ切った大蛇は爆炎を上げて地面に倒れた。

 

 「……やった」


 俺もその情景を見て、緊張の糸が切れ、地面に座り込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る