第42話 破壊
散布された毒素。
回復魔法での解毒は通常の傷を癒すよりも高度な技術必要とする。
常に破壊されていく体組織を保護、再構築しつつ、代謝を上げる事で体外に毒を吐き出す。
それにもとより、魔力は破壊するための力。
力が上がったり、魔法が扱えるのは破壊から生まれる力を利用し、その身に刻まれた独自の法によって生まれる。
魔法を使う行為は命を削るのに等しい事だがその全くの逆の癒しの力に変えるのは異端の力と言ってもいい。
それを更に高次元の技術に昇華したのが解毒。
普通のシンスは代謝を上げる事は出来るだろうが細胞の保護や再構築はできない。
それでは毒を早く回すだけで終わる。
だから、細胞の再構築と保護は回復師達が全力で行い、解毒は自らの力。
ここから解毒が終わるまでそちらに集中する間は援護はない。
「あのモンスターのランクはどれくらいだろうな」
「少なくとも今の俺たちよりは強い。
戦闘持続時間は気にせず全力でやらなければすぐに死ぬだろうな」
「は! 間違いない!」
魔力という自らの生命が尽きないギリギリの戦いになる事は必至。
だが、やらなければこのシンスの街と共に死ぬ。
それに大英雄アルガリアと共に戦える機会なんてそうそうあるもんじゃない。
「いくぜ、相棒」
「おう!」
奴の注意するべきは毒の鱗粉。
テヴァット達のほとんどが動けなくなるほどの強力な毒。
呼吸器官を通して、肌からも吸収してしまうタイプかもわからない。
どの程度で再度放たれるのかもわからない以上、常に注意しないとな。
「俺たちの役目は時間稼ぎだが……」
「冗談! ぶっ倒すつもりでやる!!」
「当たり前だ!」
「俺も忘れるな!」
背後から一歩出遅れたダラスがいた。
長い事、二人でやってきた悪癖だな。
「ちゃんとついてこいよ。ダラス」
「何様だ。お前がついてこい」
まず狙うは奴の両足と両腕。
行動を制限させるが第一目標。
ここら辺一帯の避難は終え、既にこの被害規模なら奴の体制を崩して、街が多少荒れても問題はないだろう。
奴の注意はアルガリアとブックマンが引き付けてくれている。
今は攻撃に集中できる。
「はぁああああ!!」
渾身の力を込めて奴の足に切り込む。
しかし、その十数センチ手前でナイフが止まる。
これまで骨だけでどうやって動いていたのか疑問だったがそういうことか。
骨の周りを魔力の糸が何重にも張り巡らせて筋肉のように動かしている仕組み。
テヴァット達が剥き出しの骨に手こずっているのはこの防御壁のせい。
「爆峰!!」
爆炎が奴の膝に命中する。
しかし、骨には傷一つ付かない。
「クソ……!」
熱に対する耐性も相当の高い。
そして実感する、この防御力のモンスターにダメージを通すテヴァット達の強さ。
「うぉらぁあああ!!」
しかし、魔獣化し、緑のオーラを纏ったダラスの一撃がモンスターの自重を揺らす。
「そんなものか、お前ら!」
「なわけないだろ!」
奴の筋繊維が魔法由来のものなら俺の魔法は奴にとって相性最悪。
「もらうぜ」
奴の強力な魔力で編まれた繊維をナイフにエンチャント。
その繊維の形状をナイフに合わせて変化させ、より強度の高いナイフに作り変える。
ナイフの刀身は伸び、三十センチ以上。
奴の吸収した部分の繊維が薄くなり、ナイフが骨に近づいていく。
いける!
「ふっ!!」
骨を砕く確かな手応え。
奴の重心が確かに揺らぐ感覚。
「畳みかける!!」
筋繊維の再構築はすぐさま出来るないはずと踏んだ、ドッグとダラスがその部位に攻撃を立て続けに繰り出す。
「崩した!」
左足首を奴の本体から切り離す。
しかし、そうなると奴が全身が俺たち側に倒れてくるということを想像していなかった。
「やべ……」
そうドッグが呟いた瞬間に腰に鎖が巻きつき、俺たち三人は引っ張り出された。
「バカ三人。確保ー」
「助かったぜ、ラルカ」
「あんたら少しは考えて攻撃しなさいよ。
まったく……。このまま動きを封じるから次の攻撃に備えて」
ラルカが放った一本の矢が空中で数十本の矢になり、地面に刺さると鎖に姿を変え、モンスターにまとわりついていく。
「止められるのか?」
「これだけやれば……」
ブチッと鎖が千切れる音が何十回も響き渡る。
「ごめん、無理」
「てか、あいつの左足!!」
切り離したはずの脚が再生している。
想像以上の再生能力。
「矢は効果無さそうだし、私もこっちでやるかな」
ラルカは魔法で短剣を作り出す。
「できるのか?」
「私は遠中近のオールラウンダーよ」
さすがだなと感心を向けるも今は奴を倒す事に集中する。
「核を破壊する。
あの速度の再生能力じゃ、いくら部位破壊をしても意味がない」
「その通りだ」
頭上からアルガリアとブックマンが現れた。
驚きと興奮。
しかし、戦場である事で冷静さは保たれる。
「だから、君たちに奴の胸部の骨の破壊を頼めるか?
核の周りの鎧と核は俺たちがなんとかする」
「特別に私も援護するよ」
この頼みを聞いたら俺たちにも奴の攻撃が来てしまう事だろう。
だが、ブックマンの援護があるなら今の俺たちでも十分に通用するはず。
それに俺たちをより強くするにはこの局面は通らなくてはならない。
この場の四人の空気は纏まっている。
「任せてください」
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