第21話 再開の声
「おーい、なんか洞窟があるぞ」
呼ばれて、そっちにいくと一面森の世界にぽっかりと穴が空いたような場所があった。
試しにドッグが火走りを洞窟に投げ込んでみるとどこかで爆発して反響音が聞こえるはずだが中々音は返ってこない。
「深いな」
「行ってみるか?」
「もちろん、行くに決まってんだろ。
結晶石があるかも知れないしな」
俺たちはその洞窟に足を踏み入れた。
視界はドッグの手のひらの炎。
地面は若干下向き。
もしかしたら下の層に続く道かも知れない。
となるとモンスターへの警戒はしとかないとな。
「魔照石があるな」
「ああ、魔力が温存できるよ」
青白い光が視界を照らし出す。
それと同時に、水が流れるような音がかなり大きく響いて、聞こえてきた。
「水の音?」
「でかいな。
ちょろちょろとした音じゃない」
音が次第に大きくなっていく。
そして、開けた場所が見え、そこに行くと眼前に大きな池と壁から凄まじい勢いで水が流れ出していた。
「これが滝……」
初めてみる光景。
水飛沫が顔に着く。
「あの水はどっから来てんだ?」
「さあな」
俺も気になりはしてる。
この土の壁の向こうに何があるのか。
神の世界はどんなだろうかと。
しかし、この滝を登っていくなんて考えなくても無理だとわかる。
「これは新しい発見か?」
「どうだろうな」
他にも見つけている冒険者がいても不思議ではないが十一階層でこんな景色を見られるなんて事は今まで聞いた事はない。
「そうだといいな」
池全体が底に沈む、魔照石の光に照らし出され、青白く光り輝いていた。
滝と合わせて見ればまさに絶景そのもの。
「Gaaaaaaaaa!!!!」
しかし、モンスターの声が聞こえた途端に意識が戦闘モードに切り替わる。
腰から二本の武器を手に取り、洞窟の外から聞こえてくるモンスターの足音に全神経を集中させるのに一秒も掛からなかった。
「オーガ、二体!」
そして、それが視界に入るのと同時に地面を蹴った。
オーガ達は匂いで俺達の存在に気づいているが視界には入れていない。
オーガが二体となると奇襲で一体は確実にやりたいところだ。
「ドッグ!」
「わーってるよ!!」
ドッグから放たれた爆峰をノアに纏わせる。
魔力をかなり消耗するが確実にやるには全開でやる他にない。
エンチャント・フルブースト!
オーガが俺を視界に入れる。
両手で攻撃を受ける防御体制を取るがその上から斬りつけ、両腕ごと体を縦に切り裂いた。
「左!」
その声に反応して、俺は逆方向に飛んでもう一体のオーガの攻撃を回避する。
「……ッ!?」
グラッと視界が揺れる。
回避した先に池、地面が濡れていたこともあって俺は足を滑らせ、池に落ちた。
その隙をオーガが見逃してくれるわけもなく、オーガも池に飛び込んできた。
やばいな。
水の中で体が動かしづらい。
水面に上がりたいがオーガが来てる。
水底に足がつく。
上からオーガ迫ってきていた。
一か八かでオーガを倒そうと足に力を込めようとした時だった。
「Gabo...o......!?」
オーガの頭をオレンジ色の光が貫いた。
そのオレンジ色の光が通ったところの水が激しく泡立つ程の熱線。
ドッグ?
いや、アイツはこんな事はできないはずだ。
そんな疑問を抱いたまま、俺は水の中から浮上した。
「ゲホッゲホッ……」
少し水を飲んでしまって咳き込んだ。
「大丈夫か?」
……は?
その声はドッグの声ではなかった。
酷く懐かしい声。
もう、十年以上前の忘れたくとも忘れられない声が聞こえてきた。
「ここで、死んだのかよ……」
どこかで弔うつもりではいた。
ダンジョンが残酷な生物であり、冒険譚でもその記述は存在していたから覚悟はあった。
ダンジョンによって引き起こされる最も残酷だとされるシンスの生き返り。
「父さん!!」
俺たちもモンスターである証明。
ダンジョンに取り込まれたシンスの果て。
瞳は黄色く、白眼は黒く。
冒険譚の記述にある取り込まれた証。
「火走りぃぃい!!」
「ダメだ!」
ドッグが放った魔法は父さんに当たった瞬間に音もなく消えた。
「久しぶりだね、ドッグ君」
「クソが!」
父さんの魔法は魔法を無にする。
父さんに魔法は効かない。
「アレス・レコンド、さっきあんたの使った魔法は俺の親父のだろ!!
どういう事だ!!」
その言葉の意味する事は先ほどオーガを一撃で倒した熱線。
ドッグの父親は指先からしか炎が出なかったが熱を超圧縮した超高温の炎を放てたという。
「これが、ダンジョンの力だからだよ。
僕たちが神と崇めていた奴らは偽物だ。
僕たちの本当の神はダンジョンそのもの!
さあ、シン、ドッグ、君達も世界を在るべき姿に戻す為に一度死ぬんだ。
そうすれば絶大な力を神はくれる。
僕たちを虐げてきた奴らに復讐できる!!」
「ざけんな」
俺は父さんが意味のわからない事を言っている間に水面から上がり、ドッグの元まで後退した。
「父さんはここで一度死んだんだのか?」
「ああ、そうだよ」
俺たちは偶然か必然かはわからないけどここに招かれた。
周りを見渡しても他に人らしき者はいない。
父さんとパーティを組んでいた母さんとドッグの両親の姿はなかった。
……よかった。
「会いたかったよ。父さん」
「ああ、また会えて嬉しいよ。シン」
「だから、ここで父さんを終わらせる!!」
「いいや、違う! ここから始めるんだ!!」
こんな思いをするのが俺だけで本当によかったと心から思った。
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