第20話 魔石の行方
「いやー、疲れた……」
ダンジョンから帰還し、ダンジョン出入り口のベンチに腰掛けた。
十一階層の環境への慣れでいつもよりも疲れを感じていた。
思い返せばもっと素早く、効率的に倒す方法があった事が浮かび上がる。
今回の戦闘で次に何を活かせるのか明日が待ち遠しかった。
「時間も時間か……」
白宮神殿前に多くの冒険者達が集まっている。人がいなくなるのを待とうと、近くのベンチに腰をかけた。
「オーガをもっと速く倒したいな」
「そうだな。アイツの耐久性と力は気を抜けば一気に流れを持ってかれない。
サマエルの毒牙である程度行動を制限させられはするけど、効くのを待つと他のモンスター達が集まってきちまう」
「ああ、もっと……」
ブチッ……。
脳内で火花が弾けたような感覚。
何が起きたのかわからない。
ただ、暗闇の中をボーッと景色を眺めるみたいな感覚。
コツンっと肩に重いものがなる感覚がした。
それと同時に意識が覚醒する。
「……」
なんだ、今の……。
ドッグと話していた途中から記憶がない。
いや、意識がなかったのか?
わからない。
「なんだ、俺は寝てたのか?」
「いや、違う」
立ち上がってわかった。
リュックが以上に軽い。
中身を見ると思っていた通り、魔石が全てなくなっていた。
「やられたな」
焦ったようにドッグも自分のバッグの中身を見ると唇を噛んだ。
「ちっ、例のアレか」
「何か、覚えてるか?」
「いや、俺はシンと話している途中からもう記憶がない」
「俺もだ」
魔石が消えたと騒いでいたあの事件が自分達も標的にされるとはな。
「他に取られたものは?」
「いや、魔石だけだ」
魔石だけを狙った犯行。
素材に手をつけなかったのは下手をすれば足が簡単に着くからだろう。
魔石はどのモンスターからとっても基本的に大きさ以外は何も変わらない。
となると、やったやつは俺らよりも上の階層にいる奴。
もしくは冒険者じゃない奴。
地面に一つだけゴブリンから取れた小さい魔石が落ちていて、拾い上げる。
何か証拠や怪しいものがないか見渡すが特にそういったものはなかった。
魔法は精神系統を犯すタイプ。
ちょっとの衝撃で目が覚めるが効いてる間は記憶に全く残らない強力なもの。
前回は朝方。
今回も人の往来が減ってくる時間。
「取り敢えず素材だけでも納品だな」
「……そうだな」
白宮神殿で神に素材だけを納品する。
「魔石は?」と聞かれるが無いと言うしかなかった。
「それで、魔石が無いってどう言うことですか?」
そうなると協力してくれている目の前の女の神が不機嫌になるのも当たり前。
素材を取りに行って、いつもの場所についたら一気に声音が低くなった。
ドッグは一応、席を外してもらう事にして、その間に聞き込みをしてもらう事にした。
「すいません。
俺たちも何もわからなくて」
「何か痕跡は残していたりはしませんでしたか?」
「いえ、特には……」
「そうですか……」
「そちらでは急激に魔石の納品量が増えている人はいませんでしたか?」
「いえ、こちらでもそういう急激に成長している人はいなかったはずです」
前回からそれなりに日が経っている。
盗んだ魔石を小分けにして、納品しているのだろう。
足がつかないように。
「こちらでも調べてみますので盗まれた時の時刻を教えていただけますか?」
「正確にはわからないが白宮神殿が閉まる数分前に俺達は意識を取り戻した」
「わかりました」
「どうやって調べるんですか?」
「神の目を使えばある程度の事はわかります。
なので、私に任せていただければ大丈夫ですので今日はゆっくり休んでください」
「わかりました。
ありがとうございます。
ですが、貴女もゆっくり休んでください」
目のクマが酷い。
赤の他人である俺でもわかるほどに。
神が普段、どういう生活をしているのかはわからないが顔色からしても体調は良く無いだろう。
「お心遣いありがとうございます」
「それと、首飾りが出てきてますよ」
いつもは服の中にしまわれていて、チェーンしか見えてなかったが今日は本体まで出てきていた。
「す、すいません!
身だしなみが整っておらず……!」
「いえ。俺も泥臭い格好でいつも来てしまってすいません。これしか無いもので」
「ッ……」
目の前の神の顔に影が落ちる。
気を遣ったつもりの発言だったが気を使わせてしまった。
「では、今日はこれで。
今日の素材は全て納めてください。
魔石が消えた事についてはまた、明日。
それでは失礼します」
白宮神殿を出て、ドッグが誰かと話す姿を発見して歩み寄った。
「成果は?」
「すまん。成果は一つもない」
「……そうか
人通りが少なかったから仕方がない。
簡単に見つかるなら既に捕まっている」
「クソ。それで、そっちは大丈夫だったか?」
「ああ、すぐに理解してくれたよ。
近々、天井のアレで調べてくれる」
「なら、すぐにかたがつきそうだな」
「ああ、俺たちは寝て待つだけだ」
俺たちにできる事はない。
それに神が協力してくれるなら俺たちが頑張る必要性はないだろう。
近々、わかるだろうし、明日の戦い備えて食って、寝るだけだ。
「ブラックベアーの肉は美味いかな?」
「ニードルバードも気になるよな」
「あーあ、腹が減った」
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