第22話 進化と弔い
父さんの実力を俺は知らない。
それに、どういうわけかドッグの親父の力を身につけている。
それはダンジョンの力だといった。
なら、身体能力は上がっているのか?
戦闘に対する知識は?
今の父さんはどの階層までの強さなのか。
情報が少なすぎる。
だが、魔法は少なくとも二つ使える。
一つは本来の触れた魔法を消す魔法。
それが、直接的なのか間接的なのかはわからない。
もう一つはドッグの親父の魔法。
父さんの武器は俺と同じくナイフ。
素材はマナメタルと白王鉄の二つで作られた合金。
父さんは近接戦闘タイプだと言っていた。
でも、そこにドッグの親父の魔法が加わって今はオールレンジタイプ。
勝つための手札を増やさないとな。
何がいる……。
「俺は揺動。
ドッグはゼロ距離で魔法を当てろ。
爆峰を至近距離でくらえば確実に殺せる」
「消されるだろ」
「だが、ゼロ距離なら魔法を発動できればダメージは与えられるはずだ。
頭を吹っ飛ばせば消すもクソもないだろ」
「はっ! それもそうだ」
「まずは、父さんの近接戦の力量と魔法を分析する。
もし、仮にゼロ距離の場合、魔法を当てられるならそれで終わる。
違うなら、魔法は完全に効果がない。
作戦の練り直しだ。行くぞ!!」
俺が走り出した瞬間に父さんの左手の指先が赤く光り出す。
熱線が来ると警戒し、右に向かって地面を蹴るとさっきまでいた場所に熱線が走って行った。
「……ほう」
オーガを倒した時に放たれた熱線から見てから回避するのは不可能。
指先の線上に身を置いてはいけない。
だが、近づけば近づく程にそれも難しくなる。
「これはどうする?」
父さんは次々に熱線を放つ。
距離が二十メートルを切ったあたりから詰められない。
俺を集中的に攻撃してはいるが父さんの視線は俺とドッグを行ったり来たりしている。
簡単な揺動は意味をなさない。
「ふっ!!」
ならばと父さんの視線がドッグに行った一瞬を狙ってサマエルの毒牙を投げ放った。
「ッ!?」
父さんの手が止まり、ギリギリでそれを回避する。
その一瞬で俺とドッグは父さんを間合いに入れるが指先が俺に向いた。
「迎撃優先誤ったな!!」
ドッグの左手が炎を纏いながら、父さんの腕を掴む。
しかし、掴んだ途端に魔法が消える。
その事から父さんに触れた状態では魔法を発動すらできない事がわかった。
でも……。
「やべっ!」
「チッ!」
ドッグが父さんの腕を上に向け、熱線が天井に向かって放たれた。
だが、このワンアクションで左脇腹が空く。
そこに俺は短剣を滑り込ませるが白銀の一閃がそれを食い止める。
体制立て直すの早すぎんだろ!!
「今のは良かったよ」
「褒めるにははえーよ!!」
ドッグが斬りかかるがそれをバックステップで容易く回避され、追撃を防ぐ為に足元に熱線が撃ち込まれる。
「クソッ」
魔法は効かない。
それに近接戦も幾分も父さんの方が上だ。
「二人とも強くなったね。母さんもアコンさん達も喜んでるよ。
だからこそ、神の名を冠するあの人間達を一緒に滅ぼそう。
彼らはこの星を壊す最悪の災害だそのものだ」
父さんの黄色い眼光が俺たちを射抜く。
「ダンジョンに何をされた?」
「在るべきシンスの姿に戻っただけさ」
「そうは見えないな!
明らかに今の父さんはどうかしている。
それにそんなキモい目玉がシンスの在るべき姿なら俺はごめんだ!!」
走り出すのと同時に背後から轟々と燃える火の玉が近づいてきているのを感じる。
言わなくとも完璧なタイミングと同じ戦闘思考を持つ相棒に感謝した。
「エンチャント!」
エンチャントした爆峰を消しても斬れる。
ナイフで受けられればそのままへし折るだけの威力がこの一撃にはある。
どっちで受けても痛手になる事は免れない。
「おおおお!!」
父さんはナイフで防御体制を取る。
俺はそれをへし折るつもりで振り抜いた。
キンッ!
しかし、鳴り響いたのは金属音だった。
「当てが外れたな」
エンチャントしていた爆峰がかき消された。
つまり、父さんの魔法は間接的に触れている場合も有効。
「終わりだ」
「シン!」
指先が向き、熱線が放たれる。
それを瞬時に身体を傾けて、地面に転がり回避するが次弾は心臓に向かっていた。
当たる。
サマエルの鱗で作った胸当てなど簡単に射抜くだろう。
終わる。
確実に。
でも……。
終わりたくない!
「なに!?」
バチっと目の前で熱線が弾けた。
胸当てが赤く光輝いている。
偶発的にできた、敵の魔法のエンチャント。
発動タイミングが難しいから今まで上手く合わせてくれるドッグの魔法だけエンチャントしてきた。
だが、俺の魔法も進化している。
俺は一度後退した。
「大丈夫か、シン」
「ああ」
自分の魔法の進化を感じる。
今まで出来なかった事が想像上のものが組み上がっていくような感覚。
いや、自分で出来ないと蓋をしてただけだ。
「やるぞ、ドッグ」
できる。
その確固たる自信が背中を押す。
一つ出来なかった事が出来るだけで過剰に自信が湧いているような気もするが俺は出来ると感じていた。
「もう一回、爆峰を頼む」
「了解だ。相棒」
俺はもう一度走り出した。
これでかたがつく。
ナイフに爆峰が灯された。
「それは意味がないぞ! シン!!」
父さんはそう叫びながらも俺に向かって熱線を放った。
しかし、それを避ける意味も今はない。
エンチャント・チャージ。
爆峰の上に父さんの放った熱線が上乗せされていき、熱量が凄まじい勢いで上がっていく。
「消してやる! そんなもの!!」
魔法を消し去る魔法。
しかし、それも魔法。
ならばできるはずだ。
「……エンチャント・カウンター」
爆峰の上に父さんの魔法が付与される。
そこにフルブーストで父さんよりも上の消し去る魔法をナイフに纏わせ、父さんの魔法を俺は消し去った。
「ぉおおおおお!!!」
父さんのナイフが砕け散り、そのまま爆炎が父さんを焼き尽くしていく。
「……遅くなってごめん」
父さんだった、灰が周りの光を受けて青白く輝いていた。
そして、父さんの心臓だった、魔石が地面を転がっていた。
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