第30話 黒騎士
シャドウジェネラル。
感じられる魔力からアイツ単体でも相当強いのに加えて、背後にキャスターとアーチャー。
気づけば周りは既にアサシンとナイトに囲まれている。
「……やばいな」
数は圧倒的に不利。
それに加えて、シャドウジェネラルは俺とドッグ二人でようやく戦えるレベルだろう。
心臓が現状のヤバさに激しく脈打つ。
落ち着け……。
勝てるのかと言う疑問は不要。
勝つしかない。
でないと、俺たちは死ぬ。
「敵は数えるだけ無駄そうだな」
「ああ、数が多すぎる」
数える暇なく倒すしかない。
魔力による、身体能力強化も上々。
魔力の消費は今は考えなくてもいい。
今出せる全力でコイツらを倒すべきだ。
ゴウッ!!
俺とドッグは持てる全ての魔力を解放した。
空気が揺れ、身体から迸る熱量が上がっていき、力が溢れてくる。
だが、これでもギリギリ勝てるかどうか。
まず、倒すべきは後衛の奴ら。
地面を割り砕かんばかりに踏み切り、木の上まで飛び上がる。
狙いはアーチャー。
弾速、急所への正確性はキャスターの比にならない。
放っておけば間違いなく痛い目を見る。
「ふっ!」
目の前のアーチャーを叩き切り、すぐに隣にもいた、もう一体も切り倒す。
「……!」
地面が赤く染まった。
森の中でも関係なく、複数体による地面が見えなくなる程の大規模な火炎系魔法が迫ってくる。
避けられないほどの範囲。
クソ! エンチャントで乗り切るしかない!
「ぉおおおお!!」
右腕が焼けていく。
歯を食いしばり痛みを堪え、半分の炎を自分のものにして、残りを相殺して打ち消す。
「グッ……!」
痛い。
しかし、動かないほどじゃない。
右腕の感覚もある。
地面に着地するのと同時に目の前にいた、ナイト達を踵で叩き割った。
「はぁはぁはぁ……」
体力的にキツイ。
ポーションは高価だが、出し惜しんでたら死ぬ。
隙を見て使って体力を回復しないと。
ダンッ!
地面が割れるような音が響く。
聞こえた方を振り向くと、黒い閃光の如く、ジェネラルが迫って来ていた。
「ガッ!!」
降り注がれた剣を二本のナイフで防御した。
しかし、衝撃で吹き飛ばされ、木に叩きつけられた。
……受け身を取る事も許されないほどの一撃だった。全身が痺れる。
目の前がパッと赤く染まる。
再び、目の前が火炎に包まれていく。
さっきみたいに防ごうにも体が動かない。
「……ッ」
死。
それを覚悟した。
防ぐ術がない。
しかし、目の前にドッグが現れた。
「うおおおおおおお!!!」
ドッグの両手からこれまでにない以上の火炎が迸り、敵の火炎と衝突する。
「シン、一旦引くぞ!!」
「あ、ああ!!」
痺れる身体を奮い立たせる。
足はまだ動く。
「はぁああああ!!」
ドッグの咆哮で森全体が煙に覆われる。
それと同時に俺たちは走り出した。
しかし、上の層に逃げ帰る方向にはシャドウ達がいるせいでその逆に向かって走る。
「洞窟だ!」
限られた視界で見つけた洞窟に飛び込む。
その洞窟と周りからはモンスターの気配は感じ取れない。
一時凌ぎにはなりそうだった。
「やばいな、アレは」
「すまん、助かった」
「問題ねぇよ。
お互い、命があってよかった。
取り敢えず、ポーション飲んどこうぜ」
「そうだな」
一人二つ持って来て置いたポーション。
半分を火傷した腕にかけ、残りを飲み干す。
痛みや体の痺れが和らいでいくがそれでも完璧に回復したわけじゃない。
「これから、どうする?」
「……そうだな」
帰りたくともアイツらが包囲網を敷いている可能性が高い。
今も、斥候部隊が俺たちを探しているはずだ。
諦めてくれれば助かるが今はその考えは放棄した方がいい。
最悪の事態を考えよう。
「まずは上層を目指す。
今の俺たちじゃ、アイツらに勝てない。
でも、今は包囲も厳しいだろうから時間をおいて、ここを出る」
「わかった。なら、一旦休もう。
俺が見張って置いてやるから、お前は少しでも体力を回復させろ。
俺はまだ余裕があるから問題ない」
「助かる……」
ガタガタと震え出していた脚を休ませるように地面に腰を下ろした。
気力も何もかもが限界に近い。
体力もジェネラルの一撃でほとんど持ってかれてしまっている。
「クソ……」
胸の内がモヤモヤとした暑さが湧き立つ。
悔しさが次々に込み上げて来ていた。
勝てる自信があったから余計に悔しい。
「仕方ねぇよ。尋常じゃない強さだった。
俺はほとんど倒せなかった」
「俺も倒せてない」
たったの三体倒してこのザマだ。
この調子では先が思いやられる。
「帰ったら腕の防具作らないとな。
おまえはこんなとこでつまずく様な奴じゃない。単純な装備不足だ」
「……頼む」
焼けた腕。
これは個人の努力ではどうにもならない。
装備での補強が必要な情け無い魔法。
やばいな。
メンタルまでやられ出してやがる。
でも、しばらく休むとそれも落ち着きを取り戻していく。
まだ、負けてない、生きていると精神を奮い立たせる。
「ドッグ、おまえも休め」
ドッグの身体も所々怪我を負っていた。
二人揃ってボロボロになっている。
「頼む」
「任せろ」
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