第31話 モンスターの進化

 周りにはまだ、モンスターの気配がする。

 だが、これ以上待っていても状況が変わるとは思えない。

 今まで、襲撃されなかったのもかなり奇跡的だが、二回目の諦めていてくれる奇跡を願った。

 他の冒険者が倒してくれている事も考えられるがあの敵を倒せるレベルとなると限られた人しかいない。

 そっちの線はかなり薄いだろう。


 「行けるか?」


 「ああ、大丈夫だ」


 気力はかなり回復できし、できる限りの休息は取れた。

 これで生きて帰れないのなら俺たちはそれまでの存在だったって事だ。


 「行こう」


 洞窟が出ると同時に肌がひりつくのを感じる。

 全身神経が最高の警戒状態に変わっていく。

 しかし、それと同時に死神の鎌が常に首元にある様な息苦しさ。

 これまで、どんなモンスターにもそんな感覚を覚えた事はなかったが今回はそれを強く感じていた。

 絶対に勝てないとわかっているからだろう。

 

 「今までコソコソした事ないからキツイな」


 「仕方ないだろ」


 「わかってるよ」


 今のところ目に見える範囲でモンスターは近くにいない。

 だが、確かにある気配。

 

 「Gruuuu......」


 茂みの向こう側でブラックベアーが辺りを散策していた。

 

 「こっち来るなよ……」


 しかし、都合が悪く二体目のブラックベアーと合流し、ますます俺たちは動けなくなる。

 それに奴らは嗅覚が効く。

 このまま、奴らにあそこで止まられたらいつか見つかることだろう。


 「Gya......!?」


 突如、黒い矢がブラックベアーに降り注いだ。一撃で急所を捉えた正確な一撃。

 

 ……シャドウアーチャー。


 ブラックベアーの周りにアーチャーとナイトが五体、集まって来た。

 そして、その中の一体のアーチャーがブラックベアーの魔石を取り出す。


 「何をしてる?」


 モンスター達の日常生活をこんな近場で見る機会は少ない。

 それに完全にあのモンスター達の一連の行動は狩りそのものだ。

 シャドウ種に食事は必要ないはず。


 ガパッ!


 シャドウアーチャーの顔が割れ、大きな口らしきものが出現する。

 そして、そこにブラックベアーの魔石を放り込んだ。


 「……ッ!」


 するとシャドウアーチャーから感じ取れる魔力量が増大したのを感じ取った。

 

 「……強くなったのか!?」


 モンスターがモンスターを喰らう事でこんな現象が起きるのは初耳だ。

 これまでの冒険譚にも少なからずそんな記載はない。


 「強化種はああやってできるのか……」


 シャドウアーチャーが弓版のジェネラルに進化を遂げていく。

 これで、完全に俺たちに勝機はなくなった。

 本当に見つかったら終わり。

 このまま、アイツらが何処か行ってくれることを祈るしかない。


 アーチャージェネラルが動き出す。

 全ての神経がそいつに集められる。

 

 ……行け、そのまま。


 しかし、アーチャージェネラルが動きを止めた、自らの影で弓と矢を作り出した。


 「逃げろ!」


 矢の矛先がこちらを向いたのと同時に気づけば鼻先ギリギリを矢が通過する。

 かなりの距離があったはず。

 上手く隠れられてもいた。

 しかし、奴に簡単に看破されてしまった。


 「走れ! 走れ!」


 それはもう、自分に向けた言葉だった。

 上層に向かう為の階段。

 そこに向けて、全力で脚を動かした。

 しかし、上層へ通じる階段を目前に絶望が胸の奥を叩いた。

 

 「二体目……」


 木陰から現れた二体目のシャドウジェネラル。

 完全な詰み。

 死ぬ。


「ふぅ--……」


 だが、目の前の奴をどうにかできれば希望がある。

 隙を生み出せば逃げ切れ、生きて帰れる。


 「ドッグ! 力を貸せ!」


 「作戦は?」


 「ない! 持てる全てで行く!」


 「は! 最高だ!!」


 この手が焼けてしまっても構わない。

 肉体が耐えられる様な軟弱な力ではこの局面は突破できない。

 ドッグの放たれる最高の炎を……。


 「行くぜ!」


 更にその上に昇華させる。

 ノアに灯されたドッグの炎は既に俺には耐えられない火力。

 痛みを伴うほどの不釣り合いな力。

 それを更に超える炎を俺は灯した。


 「ぉおおおお!!!」


 それはもう、腕だけではなく身体全体が熱に当てられ、汗も瞬時に蒸発するほどの火力。

 しかし、今必要な力。


 「はぁああああ!!!」


 シャドウジェネラルに放たれた一撃。

 しかし、奴の方が身体能力は数段上だ。

 このままでは避けられる。


 頼む、ドッグ!


 俺に気を取られた一瞬にジェネラルの片足を熱線が貫き、動きが鈍る。

 そのわずかに生まれた隙を見逃さずに俺はナイフを振り抜いた。


 「グッ!」


 しかし、それでも受け止められる。

 このまま力勝負では勝ち目はない。

 だが、今回は逃げ切ることが俺たちの勝利。

 ならば、狙うは脚。

 

 「うおおおお!!」


 心臓部狙った一撃から敵の剣を伝う様にナイフの軌道が下を向く。

 そして、そこにあったジェネラルの脚を切り裂いた。


 「今だ!」


 俺とドッグは上層に向かう階段に駆け込んだ。しかし、追っ手が迫ってくる。


 「うぜぇ!!」


 ドッグが通路一体に炎を放つ。

 これでしばらくは追って来れない。


 「やったな」


 「ああ、なんとかな」


 しかし、右手を見ると酷い火傷を負っていた。今は興奮していて、痛みはない。

 

 「早く、休もう」


 「上に行ったらな」

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